第57話 事の重大さ
オースレンへの帰還の足取りは重かった。
本来であれば、かねてより目標としていたD級ダンジョン「悪神の問い」の攻略達成の喜びで意気揚々と引きあげていくところであるが、皆、口数が少なく、表情は暗かった。
レイザーがショウゾウの持つ新しい杖に気が付き、尋ねて来たが、どのような効果を持つ杖なのかわからないこともあって、会話が続くことは無かった。
エリックは何か思い詰めたような顔で、迷宮前で非業の死を迎えた冒険者たちの遺留品を背に負って、黙々と歩いていた。
ショウゾウにしても、抱え込んだ多くの謎とギルドへの説明をどうつじつまを合わせたものかと頭を痛めており、開示していい情報とそうでない情報の選別に忙しかったのだ。
複合迷宮からオースレンまでの道のりは夜間の休憩を入れて二日ほどである。
あれほどのモンスターが迷宮外に出た後であるから、当然のようにそれらとの遭遇もあるであろうと予測していたのだが、不思議とそういったことも無く、魔物の姿など見る影も無かった。
オースレンの街に着いたショウゾウたちは、迷宮での異変を報告するため、さっそく冒険者ギルドに向かうことにした。
街の様子は普段と変わらず、どうやら迷宮から出た魔物たちはオースレンの方向にはやってこなかったらしい。
門番にも話を聞いたが、普段と変わったことなど特になかったようで、かえって変な顔をされてしまった。
ショウゾウは、カウンターに受付嬢のナターシャの姿を見つけると、声をかけ、ギルド長に用があると伝えた。
そして、迷宮に異変が起こり、多くの冒険者が犠牲になった旨を述べて、遺留品の数々をカウンターの上に乗せるとようやく事態の深刻さに気が付いたのか、慌てて奥に駆けて行った。
奥にあるギルド長の部屋で、ショウゾウの説明を受けたハルスだったが、その反応もまた鈍いものだった。
「つまりショウゾウさんは、迷宮内からモンスターたちが溢れ出して、それが冒険者たちの命を奪ったと言いたいんですね? 」
「さっきから何度もそう説明しておる」
どうやらギルド長ハルスもその隣にいる年配の職員も迷宮からモンスターが外に出てくるという現象自体が信じられないようで、そこから理解が進まない状態であるらしかった。
迷宮からモンスターが出てこれないのは常識であるということらしい。
「俺もこの目で見る間では全く信じられなかった。いや、未だにこれは何か悪い夢を見ているんじゃないかって思ってる。だが、これは本当の話なんだ。あんたたちを
埒が明かないと思ったのかレイザーが助け舟を出してくれた。
そしてギルド長の顔が突然曇る。
「迷宮内が……もぬけの殻? 」
「ああ、俺たちは≪休息所≫に避難したんだが、そこから地上までは一回も魔物と遭遇しなかった。罠や宝箱も消えちまっていたし、不気味なほどに静まりかえっていたぜ」
「もし、その話が本当であれば由々しきことです。≪悪神の問い≫などの迷宮はこのオースレンの財政と存続に大きく関わっている。迷宮がある場所に大きな都市が造られているくらいですからね。迷宮にモンスターがいなくなるということはその
ギルド長はようやく深刻な事態だと思い始めたのか、腕組みし、眉間に皺を作った。
「ギルド長! 冒険者証などの遺留品から犠牲になった方々の身元が判明しました」
青ざめた表情でナターシャが入室し、ギルド長に説明した。
D級パーティが二組。E級パーティが一組。G級パーティが一組。
合計で十六人が亡くなったと推定されたようだった。
ただ冒険者証は十三人分しか無く、三人分は遺留品からの推定らしい。
オースレンのギルドに所属している冒険者の数は百名前後。
この被害者数は決して少ない人数ではなかった。
「それほどの被害ですか……。ショウゾウさんたちが言った魔物の群れの話が裏付けられることになりましたね。それだけの数の冒険者が為す術も無く殺されたのです。その魔物の群れの規模も想像するに余りある。このオースレン、いやノルディアス王国全体の平穏にも影響を与えることになるかもしれない」
ギルド長ハルスにもようやく事の重大さが理解できたようだったが、逆にショウゾウは「領主や国が出てくるような話なのか」と肝を冷やすことになった。
ノルディアス王国……。
この異世界に来てオースレンの外の世界に目を向ける余裕が無かったが、日々の生活でその名を聞くことは無かったように思う。
それゆえに文化レベルと都市の発展具合から、このオースレンは独立した都市国家なのだと思っていたが、その外枠に王制が敷かれているということなのだろうか。
もし仮に、このオースレンでそれなりの地位を得ようとするならば、そのノルディアス王国やさらにもっと外の世界についてもよく知る必要があるとショウゾウは気が付かされた形であった。
ショウゾウはこのままただの冒険者で終わる気は毛頭無かった。
冒険者は言わば、この得体のしれない世界に馴染むための下積み。
これを足掛かりとして、かつて日本で得ていた以上の栄華を築くつもりでいたのだ。
オースレンの領主が権力の頂ではないことがわかり、ショウゾウは内心嬉しく思っていた。
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