第45話 金と命
その二日後、ショウゾウはD級ダンジョン「悪神の問い」の攻略を断念し、オースレンの街へ帰還することを決めた。
理由は単純明快。
前衛職のエリックの生傷が増え、ショウゾウの命魔法≪
D級ダンジョンを攻略の途中で撤退することは決して恥ではない。
レイザーの話ではこのクラスの辺りから攻略できる冒険者の数はぐっと少なくなるのだとか。
まさに、冒険者として自分はどのくらいに位置するのか、迷宮の悪神に問われているというわけである。
そしてショウゾウはエリックの表情の変化にも気が付いていた。
次第に笑顔が減り、表情が乏しくなってきていた。
これは慣れない迷宮での活動に精神が消耗をきたして来たことの証拠であろうとショウゾウは考え、エリックの「僕はまだやれます」という言葉を褒めつつも、上手くなだめ、迷宮からの帰還を納得させた。
焦ることはない。
ここで無理をして何かを得られたとしても、パーティを危険に晒したり、せっかく得た前衛職を失うことになっては、そちらの方が損害が大きい。
それにショウゾウにしてみれば、これまで到達したことが無かった地下一階に足を踏み入れることができただけでも大きな進歩だと感じていたのだ。
「すいません。僕が未熟なせいで、こんな中途半端な結果になってしまって……」
「何を言っておるか。エリックのおかげで、初めて地下に足を踏み入れることができたのだぞ。過去二回はモンスターの数と強さに為す術も無く、ひどい目に遭った」
「そうだぜ。エリックが敵を引き付けてくれているから、俺やショウゾウさんが動きやすくなってる。エリック、お前、前衛職の素質あるぜ」
「そ、そうでしょうか。お二人にそう言ってもらえて、すこし気が楽になりました」
「儂らも少し先を焦り過ぎた。次は、F級の「悪神の戯れ」の方に行ってみるとしよう。おぬし、確かG級の方しか、ボスモンスターを討伐してないのであったな」
「はい、G級の特殊ドロップがこの鉄兜だったんですが、F級ではもう少しましなもの欲しいです」
「贅沢言うなよ。かなり前に俺が討伐した時なんか、たしか……、鍋の蓋か何かだったぜ」
レイザーの告白に、一同は笑みをこぼし、明るい雰囲気を取り戻した。
オースレンの街に戻った一行はさっそく冒険者ギルドに行き、「悪神の問い」で得た魔石などの戦利品の換金を行った。
D級モンスターの魔石28個と魔物たちが落とした各ドロップ品の売却金額は、それ以下の等級のダンジョンのものよりもかなり値が張り、金貨一枚と銀貨二十枚になった。
薬草取りが一日につき銅貨五十枚の日当制だったから、その二百七十日分にも相当する。
「すげえ、D級ダンジョンってこんなに稼げるんですね」
エリックはようやく元気が出てきたのか、目の前に差し出された売却代金に目を見開いて喜んでいた。
だが、ショウゾウにしてみれば、命がけなうえに七日近くもかけたのだから、それほど高い気はしていなかった。
それは自分の命より価値があるものなどこの世には存在しないからだ。
金は大事だが、それは金を使う命があってこそ。
この順番を間違えてはならない。
ショウゾウは、レイザーとエリックに金貨一枚を二人で等分するように言うと、自分は残った銀貨二十枚をギルド口座に入れてもらうように受付嬢のナターシャに頼んだ。
金貨一枚が銀貨百枚相当なので、二人もこれなら文句はあるまい。
「ショウゾウさん、もうすっかり一人前の冒険者って感じで、なんか見違えましたね」
「そのようなことは……。こちらのレイザーさんの教育の賜物でしょう。さすがは
「それに、顔色も随分といいみたいですし、元気そうですね」
「はい、おかげ様で」
「でも、気を付けてくださいね。最近、オースレンでは
受付嬢のナターシャは笑顔でそう言うと、次に来た冒険者たちの応対に戻っていった。
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