第44話 かつての最盛期

エリックに新人とは思えないと驚かれたが、それ以上によわい八十を超えているとは思えないという感想を面と向かって言われた。


エリックの曽祖父がちょうどそのぐらいの年齢で亡くなり、晩年はほとんど寝たきりであったらしい。


この異世界における八十歳というのは、貧困などにより栄養状態があまり良くないこともあってか、動いているだけでも奇跡と思われるような年齢なのだという。



見張りの交代のタイミングで、二人きりになった時にレイザーにも聞いてみたのだが初めてあった頃と比べると別人のような動きになったと驚かれた。


それもそのはず。

今のショウゾウのステータスはこのようになっていた。


名前:ショウゾウ・フワ

年齢:61

性別:男

レベル:13

種族:人間

契約神:魔導神ロ・キ

契約魔法:火魔法、地魔法、水魔法、命魔法

属性素質:火、地、命

スキル:異世界言語LV1、オールドマンLV1、忍び足LV1、怪力LV1、掃除LV1、魔法適性LV1、鑑定LV1、格闘LV1、売春LV1、恐喝LV1、物乞いLV1、薪割りLV1、釣りLV1、皮革加工LV1、鍵開けLV1、どこでも安眠LV1、シラミ耐性LV1、仕掛け漁LV1、悪食LV1、調理LV1、性技LV1、暗算LV1、軽業LV1、乗馬LV1、歌唱LV1、代筆LV1、掏摸すりLV1、演技LV1、剣技LV1、捕縛LV1


オースレンの街を彷徨い、スキル≪オールドマン≫で奪った命はこの一月ひとつきほどで五十人をゆうに超え、その辺りから数えるのをやめた。


夜間、あるいは日中であっても人気のない場所であれば大胆に相手を襲った。

短期間で集中してを行い、そしてほとぼりを覚ますかのように迷宮に潜った。


狩りを行うのに、オースレン内を流れるイーゼル川や水路などが役に立った。

釣り人などを狙って精気を吸い、殺した後、そのまま流してしまえば、死体の処理が楽だったからだ。


もっとも途中でひっかかり、発見されることも何度かはあったようだ。

だが、皮膚がふやけたりして劣化した死体の身元は判別が難しくなるので、その意味でも有効な処理方法と言えた。


巷では、≪老死病ろうしびょう≫などという奇病の噂が広まり、市中を巡回する衛兵の数は目に見えて増えた。

だが、人間の緊張状態や成果の上がらない警戒活動は長くは続かない。


人は慣れる生き物だからだ。


しばらく狩りを控えておれば、すぐに忘れてしまうようなことはなくても警戒心はかなり無くなってしまうことだろう。



年齢も六十一歳にまで若返ることができた。

老魔ろうまの指輪≫を外し、鏡の前に立った時、懐かしさと共に言葉にできない感慨がとめどなく溢れてきて、時を忘れてしまう。


そうだ。

これが儂であった。


前の世界にいた時に、最も権力を持っていた時代の顔だ。


シミや皺が大幅に減り、目に活力がある。


頂点まで昇りつめた後、通産省を退官し、政財界の人脈を生かし、闇の大物フィクサーとして裏と表の両方の世界で君臨していたあの頃……。


思い通りにならないことなど何もなかった。


金も、女も何もかも思いのままであったし、法律でさえも力で捻じ曲げた。



スキルについては相変わらずレベル1での取得ばかりで、これがスキル≪オールドマン≫の仕様なのだと確信を深めた。

殺めた人の数と獲得したスキルの数が合わないのは、この異世界の住人の中にスキルを持たざる人間がいるか、あるいは重複した場合は獲得できないかのいずれかであろう。


だんだんわかってきたが、このスキルというやつの多くはただ持っているだけでは意味がなく、それを真の意味で発揮するためにはその道に関する知識と経験が必要なようだった。

LV1程度では、あくまでもその行為が得意になる才能があるという程度であり、それでも持たざる者よりはずっと上手にできるという感じのようだ。



レベルは10を超えてから一気に伸びが悪くなった。


どうやら、一般人を殺めてもこれ以上の成長は難しくなってきたようだ。


そして、さすがにレベル1だった時から比べると、大幅に若返ったことやスキル≪怪力≫の効果もあり、身体能力などに格段の向上が見られた。


逆立ちして腕立てを連続で百回やっても疲労せず、少々の時間、駆け足しても息が弾むこともない。


重く棺桶の様に感じていた肉体が軽快で、生きる力を取り戻したかのようだった。


多くの経験と知識を持った今の精神のまま、青々とした若木のような生命力にあふれた青年時代の肉体まで若返ることができたのなら、かつての自分を優に超える栄華を掴むことも不可能ではないと確信できた。


寝息を立て、すやすやと熟睡中の新人エリックの寝顔とようやく横になることができたレイザーを眺めながら、起番おきばんが回って来たショウゾウは、そのような思いにひたっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る