第40話 約束

四日ぶりにレイザーと合流した。  


場所は冒険者ギルド内の酒場兼食堂。


昼時にはまだかなり時間があったので閑散としており、ショウゾウたち以外には客はいなかった。


レイザーは別れた日と変わらぬ様子でショウゾウの向かいの席に腰を降ろし、薄く切ったパンに野菜や油で揚げた魚を挟んだものを頬張っている。


レイザーはこの四日間、ショウゾウがどこで何をしていたのかなどを尋ねてくることも無く、自分の話をした。


「……このオースレンの各所で、不審な死体が相次いで見つかった話を聞いたか?」


ショウゾウがそう尋ねると、レイザーは一瞬ぎょっとした様な顔をし、咽て、カップの中の水をぐいっと飲み干した。


「……俺は、そんな世間話には興味はねえ。だが、噂は耳に入ってきている。身元不明の老人の死体があちこちで見つかったって話だ。この四日ほどの間に……」


「そうであろう。街中、その話で持ちきりだからな。ギルドのロビーでもその話で盛り上がっておったし、おぬしがその話題を口にしないのが不思議でな」


「俺には関係のない話だ。どこで、だれが、どんな風に死んだかなんてな」


「……儂がやった」


ショウゾウはレイザーがようやく聞き取れるかどうかという小声で囁いた。

しかし、さすがに口の動きで意味は通じたようだった。


レイザーの全身が一瞬にしてこわばり、表情が凍った。


「……なぜだ。なぜ、聞いてもいない、そんなことを俺に打ち明ける?」


「秘密を共有するためだ。マーロンたちの死、そして一連の不審死事件。儂とお前はもはや一蓮托生なのだ。だから話した。疑惑をそのままにしておくと疑念が生まれ、信頼が揺らぐ。お前がどう見ておるかわからぬが、儂は紛れもなく善人ではない。だが悪人でもないと自分では思っておる。意味も無く人を殺したりはせぬし、ただ一生懸命に自分の人生を生きておる。今回の一連の不審死の件も目的があってやった。それについて、相棒のお前が聞きたいというのなら、儂は包み隠さず、すべてを話すつもりじゃ。いいか、レイザー。この人死ひとじには、当面続く」


ショウゾウの放つ異様な雰囲気に気圧されたのか、レイザーは生唾を飲み込み、そして一度周囲に誰もいないことを確認すると、ようやく口を開いた。


「ショウゾウさん、俺も包み隠さずに本音をいう。はっきり言ってあんたはとんでもない悪党だ。俺みたいなちんけな小悪党とは違う。好々爺を装い、腰は低いが、それは本性を隠す仮面に過ぎない。本当のあんたは、傲慢で、冷酷で、狡猾だ。だが、なんていうかな。あんたについていけば、俺の何も無かったくだらない人生を劇的に変えてくれるようなそんな予感がするんだ。実際、マシューたちとつるんでいた退屈な日々よりもずっと刺激的な出来事が俺の目の前で起きている」


喉が渇いているのかかすれた声だ。


「だから、ショウゾウさん。俺はあんたを詮索しない。あんたがどこで何をしようが気にしない。あんたが考えるように好きにやってくれ。俺はあんたのすぐそばで、灰色だった俺の人生がどう変わっていくかを楽しませてもらう。それに、約束したよな? 信じて付いていけば、俺に栄華の極みを見せてくれるって」


「ああ、確かに約束したな」


ショウゾウは、一昨日、契約したばかりの魔法≪真水生成ウォタラ≫で、空になっていたレイザーのカップを満たした。


レイザーはそのカップの水を何も言わずに一気に飲み干してみせた。

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