第39話 魔法院
オースレンの街の郊外に、その「魔法院」と呼ばれる施設はあった。
冒険者ギルドの立派な建物と比べると、かなりこじんまりとしていて、経年劣化でかなり傷んでしまっていた。
古めかしく、陰気で、見るものをどことなく陰鬱な気持ちにさせる、そんな印象であった。
錆びた鉄柵の入り口から敷地内に入り、「魔法院」と書かれた看板の下の建付けの悪い木扉を開けるとそこには自分と同じくらいの年齢に見える老人が退屈そうに受付をしていた。
「おお、ご同輩。いかなる用事で来られましたかな。見慣れぬ顔ですが、いずれにせよ、名のある御方とお見受けする」
ショウゾウの姿に気が付くとその老人は立上り、表情を明るくして、歓迎の意思を示した。
「私は≪引き水の賢人≫ヨゼフと申す者。このオースレンの魔法院の院長をしております」
どうやら受付ではなかったらしい。
「儂は……、ショウゾウと申します。その……、最近、魔法を覚えたばかりというか。初心者でして……」
「なんと、そのご年齢で? いや、しかし、御身から感じられる≪
≪引き水の賢人≫ヨゼフによれば、ショウゾウの≪
長く過酷な修行を得てもなかなかに得られないほどの≪
ショウゾウは、不都合な部分を伏せつつも、アンザイルたちによって無理矢理魔法を習得させられた経緯を説明した。
「……アンザイル。彼はここの魔法院出身ではありませんが、先日の冒険者ギルドでの一件は聞き及んでおります。大層高齢の方が大変な目に遭われたという話でしたが、それがあなたであったとは……。同じ魔法使いとして、そのような悪事に手を染めた者が出たことは残念でなりません」
≪引き水の賢人≫ヨゼフは、丸眼鏡の向こう側の人の良さそうな瞳を陰らせて、同情の言葉を口にした。
「いいでしょう。魔法は正しく学ばねば、その身を滅ぼしかねない力。せっかく来られたのです。大いに学ばれていかれるがよろしい」
≪引き水の賢人≫ヨゼフによると、魔法院は各地に存在するが冒険者ギルドの様な大規模な組織ではなく、それぞれが独自の考えを持って後進を育てる活動を行っているらしい。
オースレンの魔法院の指導者は、院長であるヨゼフを含め、二人。
生徒はわずか七人しかいないとの話だった。
魔法の素養を持つ者は少なく、もし仮にそれを備えていたとしても契約した魔法を行使するに足るだけの≪
それゆえに魔法使いの存在は貴重で、その数も少ないそうだ。
「なるほど。しかしそれならば、もっと権力者に重用されたりしてもおかしくは無いし、魔法使いが支配する世の中になっていても不思議ないのでは?」
「はははっ、少し前までの記憶をすべて失っているという話は本当のようですな。そのようなことには決してなり得ないのです。確かに魔法というものは便利で、普通の人間にはおおよそ不可能な現象を発生しうる存在ではあります。しかし、先程申し上げた通り、≪
≪引き水の賢人≫ヨゼフはよほど暇だったのか、ショウゾウを応接間に招き、何とも形容しがたい強烈な風味の茶を振る舞ってくれた。
ヨゼフは長椅子にどっかり腰を据えており、そう簡単には返してくれなさそうな雰囲気になったが、これはこれで好都合だとショウゾウは考えた。
耳にする話はショウゾウにとってはすべて未知の情報であったし、考えようによっては個別に一対一の指導を院長から受けているようなものである。
同じ年齢の老人に比べれば、スキル≪怪力≫の恩恵によって、かなり動けているとは思う。
だが、ただそれだけの話だ。
この治安が良いとは言えないイルヴァースで己が身を守っていくためには、あまりにも非力。
≪オールドマン≫の異能を除けば、あとはこの魔法というもの以外に頼るものがない。
魔法使いとしての力量を底上げすることが、このイルヴァース世界での生存率を上げ、成功への手がかりになるはずなのだ。
長話に付き合った後、ヨゼフの勧めもあって、ショウゾウは魔法院所属の手続きを行うことになった。
会費を支払い、院生であることを証明する青い石のペンダントを受け取った。
魔法使いを目指す子供たちに混ざって授業を受けたりということはしなくていいそうだが、これで施設の利用と魔法関連の書物の閲覧を許されることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます