第33話 栄華の極み

レイザーはクロウラーの宝珠オーブの前でうずくまり、呆けたような顔で固まってしまった。


そして慎重に、飴玉よりも一回りくらい大きいその球体をつまみ上げると迷宮内の各所に備え付けられた照明石の灯りの下に持っていき、角度を変えて、中を覗く仕草を見せている。


「間違いねえ。小さいが、完品だ。傷一つねえ完品のオーブだ。長いこと冒険者やってるがこんな見事なものは初めて見た。いくらの値が付くか、考えただけでもワクワクするぜ」


振り返り、興奮した様子のレイザーが摘まみ上げている宝珠に向かって、ショウゾウは≪鑑定≫のスキルを使ってみようと思い付き、内心でそう念じてみた。


≪クロウラーの宝珠オーブ

天寿を全うしたクロウラーが体内で生み出す宝珠。

≪弱酸≫の力を秘める。



「ショウゾウさん、いやショウゾウ様って呼ばなきゃならねえかな。つまり、その、あれだ。本当に有り得ねえことだが、あんたは、狙ってモンスターの宝珠オーブをドロップさせるコツみたいなものを知っている!そ、そういうことなんだな?」


いや、少し違うな。

そうではないかと推理していたが、確信を得たのは今だ。

死ぬと死体がどこかに取り込まれて消えてしまう迷宮産のモンスターで同じことができるという確証もなかったが、どうやら野生の魔物同様に、≪オールドマン≫による老衰死の場合は、宝珠オーブを落とすようだ。


「レイザー、落ち着け。声がでかいぞ……」


「す、すまねえ。だが、こんなの見せられて興奮しない冒険者はいないぜ。だって、考えてみてくれよ。こいつを大量に入手して、ギルドに持ち込んだら、俺たちはあっという間に途方もないほどの大金持ちになるぞ」


「……たわけが。そんなことだから、お前たち≪鉄血教師団ティーチャーズ≫は三流の小悪党止まりだったのだ。よく考えてみろ。如何に価値があるものであっても世の中に大量に出回ってしまっては、価値が下落してしまうことになるであろう。それにそれを買い取るだけの資金があのオースレンの冒険者ギルドにはあるのか? 各地を巡って売りさばくにせよ、あまりにも目立ちすぎてしまうし、分不相応の大金を得たところで命を狙われ続けることになるやもしれん」


「た、たしかに……」


ショウゾウは、レイザーからクロウラーの宝珠オーブを取り上げると自分の≪魔法の鞄マジックバッグ≫にそれを放り込んだ。


「いいか。これは今のところ、冒険者ギルドに売る気はない。あくまでも、お前に見せるための実演、言わばこれは自己宣伝デモンストレーションだ。儂はお前にとって、貴重なだということを理解してほしいのだ。そのために儂は、数多く抱えている秘密のうちの一つをあえて、お前に開示したのだ。それともう一つ。他にもなにか気付いておらなんだか?」


「いや、だが……妙だとは思った。なぜ、最後の一匹に≪火弾ボウ≫を使わなかったのか」


「そうだ。お前にだから打ち明けるが、儂の、≪相手を老いさせる能力≫は触れねば効果を発揮せん。マーロンを始末した時に、お前に説明した『視界に入る全範囲で行使可能』というのは、ありゃ嘘だ。お前を何とか仲間に引き入れたくてついた苦し紛れの嘘……」


「そうか、確かにマーロンを殺ったときも確かに直に触れていた。だが、なぜだ。なぜ、今さらその秘密を明かす気になった?」


「それは儂にとって、お前が必要な人間だからだ。レイザー、お前は自分が思うよりもずっと価値がある男じゃよ。だが、儂らの間には信頼関係が成立していない。最初は恐怖でお前を丸め込もうという考えであったが、それではいつ、寝首を欠かれるか、わかったものではない。儂という人間の価値を正しく理解してもらったうえで、お前からの信を得たかったのだ」


ショウゾウの言葉をレイザーはじっと身動きせずに黙って聞いていた。

目をそらさず、その表情は真剣そのものであった。


「レイザーよ、儂を信じろ。儂を信じてついて来るならば、この世界における栄華の極みをお前に見せてやる」

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