第32話 迷宮漁り
「おい、あんたら、見ない顔だな」
先ほど大声で騒いだせいであろうか。
休憩中のショウゾウたちに声をかけてくる一団があった。
男女混成のパーティで年齢も幅広く、前にあった≪希望の光≫の若者たちよりもずっと経験があるように見えた。
「はて、何か御用でしょうか。あなた方はどちら様で?」
「オレたちは、≪黒狼狩猟団≫。長年、この迷宮の一階を中心に活動しているのだが、この迷宮の秩序を乱されたくなくてな。声をかけさせてもらった。見たところおたくら、年齢からすると新人ではないな。よそ者か?」
一階を中心に活動?
意味が分からんが……。
ショウゾウは素直に新人だと答えようとしたが、それをレイザーが無言で制した。
どうやら任せろということらしい。
「ご明察だ。俺は≪
レイザーが普段とは違う鋭い眼つきでそう言うと、≪黒狼狩猟団≫を名乗った一団は一瞬たじろいだ雰囲気になり、「ああ、それなら文句はねえ」と捨て台詞を吐いて、立ち去った。
レイザーによるとダンジョン攻略を生活の糧とする冒険者には、大きく分けて二通りあるらしい。
ひとつは一定周期で再出現するモンスターのドロップアイテムや宝箱の中身を目当てにダンジョンに通う≪
このF級ダンジョン「悪神の
そのため≪迷宮漁り≫同士の競争も熾烈で、自然と縄張りのようなものができている迷宮もあるらしい。
何しろ自分たちの生活が懸かっているのである。
時には攻略中のパーティ同士で小競り合いが起きることもあり、その結果、死人が出ることもあるそうだ。
「ショウゾウさん、見ての通りだ。高難易度の迷宮ならいざ知らず、この手の下位ダンジョンは飽和状態だ。オースレンは割と大きな町だし、冒険者の数も多い。もし、ここを縄張りにしようというのなら、さっきの連中みたいな低ランたちとうまくご近所付き合いしていかなきゃならん。腕の一本でもへし折って、黙らせてやっても良かったんだが、へたに恨みを買って、付きまとわれても面倒だ」
「なるほどな。だが心配はいらん。儂はこんな場所でちまちま日銭を稼ぐ気など毛頭ない」
「ショウゾウさん、さっきも言ったが……」
「シーッ。それ以上何も言うな。今から儂がいいものを見せてやる」
しばしの休憩を終えるとショウゾウたちは、さっそくダンジョンの攻略を始めた。
攻略と言っても、レイザーはこの迷宮のボスモンスターを討伐済みであり、その案内の下、比較的安全なルートを迷わず進むだけだ。
そのレイザーに、ショウゾウはある注文を付けた。
先ほどの≪黒狼狩猟団≫のような他パーティが来ないような場所でモンスターを一体狩らせてみてほしい。
レイザーに足音や気配などから周囲に他の冒険者がいないことを確認させると、ショウゾウは早速、手頃なモンスターを探し始めた。
レイザーが言っていた通り、この迷宮は≪迷宮漁り≫たちによって飽和状態になっているようでなかなか狙ったように遭遇できなかったが入り組んだ迷路のような通路を行ったり来たりして、ようやく
それは子供くらいの大きさの芋虫で、名をクロウラーというらしい。
動きは緩慢で、敵に気が付くと酸性の液体を吐きかけて来るらしいが、その危険性は低く、少々火傷のように赤く爛れてしまうだけだという話だった。
主なドロップ品は、「地這い虫の
これらは冒険者ギルドによって買い取られ、前者は布地、後者は宿にあった照明石など様々なものに加工し利用可能だという話だ。
このイルヴァース世界の人々は、各地に点在する多くのダンジョンから得られる資源の恩恵を受けて生活しており、それゆえに冒険者ギルドに対する依存度は相当なものなようだ。
そのクロウラーがごつごつした凹凸がある通路の上を、三匹蠢いていた。
「≪
ショウゾウは唯一使用可能な火魔法である≪
「おい!ショウゾウさん、何をしてる。酸を吐くと教えただろう!!」
レイザーがそう叫ぶのも気にせず、ショウゾウはクロウラーとの間合いを詰めた。
そして短い触手が蠢くその口から噴出された液体を、右腕で払いつつ、そのぶよぶよとした胴体に触れるとスキル≪オールドマン≫を発動した。
そしてすぐさま背面に回り込み、体重をかけて押さえつける。
クロウラーは身悶えしてショウゾウに齧りつこうとしたが、その動きはだんだんと鈍くなり、そして動かなくなった。
「なるほど、少しかかってしまったが、あまり強い酸ではないようだな。だが、ひりひりするわい」
ショウゾウは動かなくなったクロウラーの背に、軽度の火傷のようになった手を当てたまま、じっとしていた。
「無茶苦茶だ。何で、三発目の≪
そこでレイザーは言葉を失ってしまったようだ。
クロウラー三匹の死骸が、床に吸い込まれるように消えて、そこには戦利品となるドロップアイテムが残っていたのだが、ショウゾウが抑え込んでいた一匹が淡い黄色の光を帯びた球形のものを落としたのを見てしまったのだ。
しかも酸にやられて少し赤く爛れていた右手がもうすっかり治癒してしまっている。
「おお、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます