第31話 悪神の戯れ

オースレンの迷宮群は全部で四つのダンジョンからなる複合迷宮であるが、その入り口はそれぞれ別の場所にあり、内部で繋がっている箇所も無いそうだ。


右から二番目、すなわち外部に露出している構造物の中央に位置する出入口がF級ダンジョン「悪神のたわむれ」である。

難易度はG級に次いで低く、出現するモンスターも比較的弱い。

だが、このF級からダンジョン内には単純な仕掛け罠が登場し、設置されている宝箱にも鍵がかかったものが見られ始める。


冒険者として最低限必要な技術や知識を習得するのに最適だとして、G級よりも新人冒険者やソロ冒険者の人気が高い。

得られるドロップ品もG級よりかなり良く、真面目に通えば生活していくことだけには困らないといった感じであるようだ。


この「悪神のたわむれ」にやってくる前にショウゾウたちは、「生涯現役しょうがいげんえき」という名前のパーティを結成し、ギルドに登録した。

それと同時にパーティメンバーの募集もすることになったが、こちらはまだ時間がかかることだろう。


できれば敵の盾となってくれる前衛職が望ましいが、多くは望めないかもしれない。


何せ爺と人相の悪い中年ロートルの二人組である。

こんなパーティに参加したいと思う人間はよほどの物好きか、何か良からぬたくらみを持った連中だけだろう。


まあ、あてにはせず気長に待つ。

そんな感じだろうか。



F級ダンジョン「悪神のたわむれ」は地上一階、地下二階の構造になっていて、各階に≪休息所≫と呼ばれるモンスターが立ち入らない安全なエリアが存在するらしい。


レイザーはショウゾウが魔物相手にどの程度できるのか見極めるためにも、当面は地上一階の≪休息所≫を拠点にして、その周囲で涌いたモンスターを狩ったり、探索したりといったことをすべきだと提案してきた。


ショウゾウもそれを了承し、さっそく≪休息所≫の隅に二人分の場所取りをした。


この場所は割と広く、自分たち以外にも新人冒険者と思われるいくつかの集団がいて、この部屋に入る時に互いに軽く挨拶するような感じであった。


持ってきた荷物を床に敷き、まずは軽く腹ごしらえをしようということになったのだが、ここでレイザーが妙に真面目な顔つきで疑問を口にしてきた。


「なあ、ショウゾウさん、ちょっといいかな」


「ああ? なんじゃいきなり。荷物をちょっと多めに持ってもらったことを不満にでも思っておるのか」


「そんなことじゃない。少し気になってきてたんだが、あんた一体何が目的なんだ。その歳で今から冒険者として名を上げようとか、そんなんじゃないだろ。生活の糧として冒険者やるなら別に迷宮外の安全な依頼を数こなせばいいだけだろうし、別にダンジョンに挑む必要ないだろ」


「なんでそんなことを決めつける? 儂は冒険者として名を上げるつもりだぞ。安全な依頼? 馬鹿を言うな。ちまちま薬草でも摘んでいろとでも言うのか。この間一回やってみて、もう飽きたわ。虫には喰われるし、足腰にくるし、スライムに窒息させられかけるしで、ひどい目に遭った」


「なあ、ショウゾウさん。あんたが思っているほどこのダンジョン攻略の仕事は楽じゃないぞ。このF級は、G級とは比べ物にならないくらい危険が増えるし命を落とす奴も割と出るんだ」


「おい、レイザー。そのぐらいにしておけよ。儂だってお前が言うておること、重々わかっておる。だから、お前を雇うと決めたし、その手腕に大いに期待しておるのだ」


「ショウゾウさん、悪いことは言わねえ。毎月、金貨一枚で俺を雇う余裕があるなら、その金で少しらくしな。あれから頭が冷えて、もうマシューたちのことにはこだわってねえし、あんたをつけ狙ったりなんかしねえよ」


「馬鹿にするでない!こんなはした金でほそぼそ質素に暮らせというのか。こんな娯楽も何もない場所で、楽しいことなど何もない年寄りのみの上で、細く長く! ふざけるのも大概にせい。儂はこの世界で、この冒険者稼業でもう一花咲かせてやるつもりなんじゃ。危険、けっこう。無法もけっこう。自分次第でいくらでも稼げる。最高ではないか。しかも、儂はさらに上を行くぞ。冒険者で稼いだ金を元手にさらにのし上がってみせるぞ。男は成り上がってなんぼなんじゃ!」


「ショウゾウさん、悪かった。何言ってるかほとんどわからねえが、そのくらいにしてくれ。みんな見てるぞ」


レイザーは、声を小さくするようにジェスチャーしながら、辺りをきょろきょろ見渡した。

レイザーの心配した通り、そのフロアの冒険者たちの注目がこっちに向いてしまっていた。

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