第30話 率直な感想
「ショウゾウさん、朝っぱらから呼び出して、何を始めようというんだ?」
まだかなり眠そうな様子のレイザーが呆れた様子でショウゾウに言った。
ここは冒険者ギルドに併設された訓練棟で、まだ窓口が開いて間がないということで、
この時間帯は本部棟の方は依頼の争奪戦になっているために混んでいるが、この場所を利用するような者は普段からほとんどいないのだとか。
ショウゾウは壁にかかった木剣を二本取り、そのうちの一本をレイザーに手渡した。
「言ったじゃろう。
「へいへい。……それで、まさかその歳で剣術を始めようとか言い出すんじゃないでしょうね。ショウゾウさん、悪いことは言わねえ。あんたは魔法使いだろう。無駄な努力はしないこった。怪我のもとだぜ」
「剣術を習いたいとかそう言うことではない。ただ確かめたいのだ。何をどこまでできて、何ができぬのか。これから儂がやろうとしていることに足りないものを見極めたいのだ。付き合ってもらうぞ」
ショウゾウは木剣を中段に構え、レイザーに相対した。
右足を前、左足のつま先を左足のかかとの位置に。
右肩が前に出るように半身にかまえ、握りは柔らかく。
こんな感じだったかな。
久しぶりもいいところだが、案外、身体は覚えておるものだな。
「おっ、見たことがない構えだが意外とさまになってるじゃねえか」
「無駄口はよい。受けてみて、正直な感想をくれ。行くぞ」
ショウゾウは一気に踏み込み、レイザーの顔面目掛けて木剣の切っ先を振る。
振りかぶらず、手首の返しを利用して素早く、小さい打突。
「うわっ、待て!」
レイザーが慌てたような声を上げて、結構必死の様子でそれを木剣で受ける。
「あ、危ねえ。爺さん!……じゃないショウゾウさん。危ないだろう!」
「今の踏み込み、どうじゃった?」
「そ、そうだな。正直驚いたよ。八十過ぎた老人の動きではまず有り得ないな。ショウゾウさんぐらいの年齢の爺さんはたいてい寝たきりのようになってしまって、普通はその木剣だって持つようなことはできないものなんだが。しかも、何というか術技だっていて、ちゃんと剣術になっていたように思う。俺は長剣は得手ではないからこれ以上のことは何とも言えないが、その……不意打ちとかであればそれなりには通用するんじゃないだろうか」
「ふむ、ではあのマシュー相手ならどうだ。あとは例えば、あのワイルドボアのような魔物相手でも通用しそうか?」
「それは無理だ。断言する。マシューはああ見えて前衛としてもそれなりに優秀な戦士だった。体格も体力もショウゾウさんとじゃ比べ物にならない。それにワイルドボアの様な魔物相手では、ショウゾウさんの剣は軽すぎる」
「なるほどな。率直な感想、感謝するぞ」
ショウゾウは晴れ晴れとした表情になり、木剣を壁に戻した。
この後、ショウゾウは施設内の様々な器具の使い方を教わりながら、一通り巡ってみた。
鉄の重りを持ち上げ体を鍛える様々な仕掛けや、投擲の的、巻き藁、一人で組手可能な木人形などなど。
その全てを体験し終えたショウゾウに、レイザーが漏らした感想は「まったく恐ろしい爺さんだぜ」だった。
ショウゾウが確かめたかったのは、今の自分の体力の限界とそれを見たこの世界の住人の率直な反応であった。
あの奇怪な革帽子の男によって体の不調や病が癒え、さらに≪怪力LV1≫によって強化されているらしい肉体の性能はどのくらいなのか。
レベルが上がることで、それらはどのくらい変化をするものなのか。
把握しておく必要があったのだ。
レイザーの言葉や反応から推察するに、今の自分の能力は後期高齢の老人としては異常なほど頑健だが、それでも一般的な冒険者の平均と比べればまだまだ劣るといった感じだろう。
よぼよぼの見た目に相手がなめきった状態でなければやはりまるで通用はせぬ。
ショウゾウは、付き合ってくれたレイザーに昼飯を奢り、そこで別れると以前装備品を買ったギルドおすすめの店に行き、新たな装備を買い求めることにした。
今度は店の主人の言いなりにならず、今の自分にとっての必要性を有する装備品を選ぶ。
前に来た時よりも体力が向上したので、金属のプレートが急所部分を補強してくれているタイプの革鎧や手足の防具を衣服の上に装着して、その上に魔法使い用のマントを羽織ることにした。
即死にさえならなければ、スキル≪オールドマン≫で癒すことができるので、その辺のことを考慮したのだ。
さらに、このマントは≪
他にも手頃な重さの小剣を買い、マントの下に隠して置けるような腰下げのホルダーも購入した。
これで準備は万端。
レイザーにも別れ際に宣言して、驚き呆れられたが、次は一つ上のF級ダンジョンに挑む。
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