第28話 共犯者
レイザーを懐柔し、仲間に引き込むという選択はショウゾウにとってかなりの危険を孕んだ綱渡りであった。
だが、高級官僚時代、そして退官後のコンサルタント事業などで培われた人間の目利きはこの世界においてもどうやら通用したようで、レイザーの長いものに巻かれる人間性と≪
マシューがアンザイルに見せた無関心さと冷酷とも思えるような態度などからパーティ内の決して上手くはいっていないであろうという現状の関係性を推理し、レイザーとのやり取りからその性格を看破したのだ。
レイザーたちのように一度、悪事に手を染めたことがある人間は、倫理観の揺らぎなどからか、他人を裏切ることに対して後ろめたさの様な感情を持ちにくいという傾向があるとショウゾウは考えていた。
長い時間を共有した仲間のような関係であっても、己の利のために簡単に人を裏切る。
そして、一度裏切りを決めたならば、もう引き返すことはできないと勝手に思い込むようなある種の心の弱さが、このレイザーにはあると踏んだのだった。
二日後、ダンジョンに戻ってきた治癒術士マーロンをレイザーは仕掛け罠で生け捕ることに成功した。
そして身動きが取れないマーロンをショウゾウはスキル≪オールドマン≫で老衰直前の状態まで衰弱させ、トドメこそ自分が刺したものの、レイザーにも短剣で腰部を抉らせた。
これはレイザーの心に共犯関係であるという枷をはめ込むうえで重要な儀式であった。
「放っておいてもこやつはもう死ぬ。やれ。……やるのだ」
さすがに逡巡するそぶりを見せたレイザーにショウゾウは強く迫り、そしてついに決断させた。
レイザーの前であえてスキル≪オールドマン≫を発動してみせたのには二つの狙いがあった。
一つはショウゾウがただの老人ではないと再評価させ、心理的な上下関係を築くための足掛かりにする狙いがあり、もう一つは自分に対する恐怖心をレイザーの心の奥底に植え付けるためであった。
そのため、レイザーには触れなければ発動できないという欠点については伏せてある。
それどころか逆に、視界に入る全範囲で行使可能だと説明しておいた。
妙な気を起こしたなら、マーロンと同じ目に遭うことになると警告を添えて。
こうしてマシュー、アンザイル、マーロンの三人を亡き者にしたショウゾウたちはオースレンの冒険者ギルドに舞い戻った。
ショウゾウの姿を見た受付嬢のナターシャは意外なほど、帰還を喜んでくれて、そのことにとても困惑した。
ショウゾウは、マシューたちに裏切られ、身包みをはがされた上で殺されそうになったこと、そしてそれを見かねたレイザーによって救われたことなどを三人の遺品を見せながら説明した。
その後も事件の詳細をショウゾウとレイザーは打ち合わせた通りにギルドに説明をし、なおかつ≪
トレーナーの資格を持つマシューたちが、新人のショウゾウに対してこのような悪事を行ったことはギルド長ハルスを含めた組合の者たちに少なからぬ衝撃を与えたようで、この件は他の新人冒険者たちに今後注意すべき事例として、周知が為されることになったようだ。
≪
この企てをまったく知らなかったということで通したレイザーは晴れて無罪放免となり、それどころか、ショウゾウ救出の功績によりギルド長直々に感謝の言葉を受けるなどしていた。
ちなみにマシューたちが現場に持参していた現金は、幾ばくかの銅貨をあえて残して、ショウゾウが自分の物にしてしまっており、レイザーもそのことには一切触れなかった。
それもそのはずで、≪
欲張りすぎるとろくなことがねえと、レイザーはショウゾウにこれまでの詫びだと言って手にした額の半分の銀貨を手渡してきた。
そしてショウゾウのことは年長者を立てて、今後はショウゾウさんと呼ばせてもらうとわざわざ断りを入れてきた。
己が身を焼くことにならない、
損得を見誤らぬ冷静な目と最終的には情けを捨てて冷酷になれる合理的思考。
レイザーか。
なかなかに使えそうな奴ではないか。
ショウゾウは仲間として改めて雇うことになったこの倍近く歳下の小悪党に目を細めた。
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