第25話 時がない

名前:ショウゾウ・フワ

年齢:86

性別:男

レベル:5

種族:人間

スキル:異世界言語LV1、オールドマンLV1、忍び足LV1、怪力LV1、掃除LV1、魔法適性LV1、鑑定LV1



「くそっ、駄目か」


アンザイルとマシューの確かな死を確認した後、ショウゾウが行ったのは≪魔導の書≫による自身のステータス変化の確認である。


殺害した二人から奪ったスキルが、この後、確実にやって来るであろう危機に対処しうるものであることを期待したのだが、空振りに終わった。


≪魔導の書≫に問うたところ、新たに獲得したスキルの効果は次のような感じであった。



≪魔法適性≫:優れた魔法使いとしての素養。魔力量、魔法の契約数、魔法の制御、発動時の効果などに良い影響を与える。修練の深度により効果は増大する。


≪鑑定≫:レベルに応じた等級の物品アイテム鑑定を行うことができる。



≪魔法適性≫については、これからレイザーとマーロンの二人を相手にしなければならない可能性を考えると役には立つとは思う。

だが、使えるのが下級魔法の≪火弾ボウ≫だけなので、過剰な期待は禁物だろう。


≪鑑定≫も有用なスキルだと思われるが、今必要なのは≪オールドマン≫のように局面を一気に変え得るような決定的な手段だ。


≪掃除≫は論外だし、≪忍び足≫と≪怪力≫も効果対象となる所有者の儂が、このように年寄りではたいして戦闘の役には立つまい。


レベルとやらは三つ上がっていたが、特別に自分が強くなったという自覚はない。

どちらにせよ、レベル2の爺とレベル5の爺のどちらが強いかなど些末なことだ。

87歳と86歳の体力差もきっと誤差のようなものだろう。


「……魔導の書よ、もう消えていいぞ。ブック」


ショウゾウはため息を漏らしながら、≪魔導の書≫を虚空に仕舞うともう一度辺りを見渡した。


不思議だ。


ほぼ同時に燃え始めたはずのアンザイルの死体はまだ残っているというのに、G級ダンジョンのぬしであったワイルドボアの焼け焦げた死体は、まるでこのダンジョンの床に吸い込まれでもしたかのように燃え滓一つ残さず消えている。


もし、あの肉の塊を全部燃やし尽くそうとしたならこんな短時間では済まないはずだし、骨だって残るはずだろう。


事前の練習台になったあの小鬼の時は、どうだったのか。

もっと詳しくマシューたちに聞いておくべきだった。


とにかくこのダンジョンという場所は自分の理解を大きく超えている場所のようだった。


ショウゾウは自分があまりにもこの場所に対する知識がないことを嘆き、そしてその知識をここに来る前にもっと調べておくべきであったと深く後悔した。


魔物の死体が短い時間で消えて無くなるのが、この場所の仕様であるならば、見張りをしに行ったレイザーが戻ってくるのも存外早いかもしれぬ。


レイザーが見張っているのが一つ上の階なのか、それとも迷宮の入り口なのかによっても変わってくるがそれほど時間の猶予はないと考えるべきだろう。


レイザーの職業は斥候スカウトということだったが、戦闘時にもあまり目立って動かず、奴の実力はいまいちよくわからない。

だが、身のこなしは軽く、用心深そうだった。

触れなければ発動できないというスキル≪オールドマン≫の弱点を考慮しても相性は悪い気がする。


ギルドに行ったらしいマーロンは二日ほどは戻ってこないと思うが、何かの事情で引き返してきて、二対一になった場合の最悪の状況も想定しておかねばならない。


戦うのか、戦闘そのものを回避するのか、あるいは別の手段をとるか。


いずれにせよ、時がない。



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