第19話 魔法神と魔導神
レイザーによれば、各ダンジョンには攻略に成功した際に、一度だけ初回討伐報酬と呼ばれるものを手にする機会があるらしい。
ダンジョンの最下層には、ボスと呼ばれるモンスターが配置されており、それを討伐すると特殊なドロップ品が得られるのだそうだ。
何が得られるからは完全にランダムであるらしく、大金をはたいても得られないようなレアものからガラクタまで多種多様であるらしい。
「この特殊なドロップ品を手にするためには、今までそのボスを倒したことがない者がとどめを刺さなきゃならないんだが、ショウゾウさんが魔法を使えないとなるとその術がない。ボスモンスターは他の魔物よりも比較的に強く、生命力も高いんだ」
「おい、アンザイル。ショウゾウさんに魔法の適性はありそうか?」
マシューが隣に座っていた魔法使いアンザイルに声をかけた。
「……何度も言わせるなよ。あると言っているだろう。ショウゾウさんから感じる魔力の大きさはそれなりの年月を修行した並の魔法使い程度はある。だから、初見で魔法使いに違いないという僕なりの考えを述べたわけだが君らはそれを忘れてしまったのか?」
どうやらここに来る前に、随分と儂について話し合ったようだ。
たまたま応募を見たというのも疑わしくなってきた気がする。
「まあいい。百聞は一見に如かずだ」
アンザイルはその肥満体を揺らしながら、不機嫌そうな顔でこちらに近づいてきた。
「オースレンにくる以前の記憶を失っているという話だったが、あなたが魔法使いであるという事実に間違いない。そうでなければ僕の目が節穴であるということになってしまうからね。ショウゾウさん、これを……」
アンザイルが腰下げ袋から取り出したのは何の変哲もない一冊の白い表紙の本だった。
「これは、何ですかな?」
「それは≪
ショウゾウはアンザイルに言われた通り、表表紙と裏表紙の間の封を取り、中を開いてみた。
「一向に何も出て来ませんが……」
どのページも真っ
これでは本というよりただの
「そんなはずはない!貸してみろ」
アンザイルが、≪魔儀の書≫を取り返し、中身を入念に調べたがやはり契約した呪文とやらは書き記されていなかったようだ。
よほど自分のケースが、この異世界の魔法使いにとってはありえないことのようでいつまでも納得のいかない顔をしていたが、やがて諦めたのか、ショウゾウが魔法使いではなかったことを認めた。
「まあいい。未契約なら、新たに契約すればいいだけの話だ。ショウゾウさん、あんたの適性はこの表紙を見るに≪闇≫だ。この真っ黒に染まった表紙を見ればわかる。だが、≪闇≫属性の適性者は数が少なく、希少だが、あまり恵まれているとは言えないな」
アンザイルが返してくれた≪魔儀の書≫を見ると確かに表紙が漆黒に染まっていた。
装飾も少し変化したようで、本の大きさ自体はひと回り以上小さいがどこかあの革帽子の男に貰った≪魔導の書≫を思わせる見た目に変わっており、どこか不吉な感じがする。
「あまり恵まれているとは言えないとはどういうことなのでしょうか?」
「なに、話は単純さ。闇を司る魔法神は存在しないんだ。光、地、水、火、風、命、闇。魔法は全部で七つの系統に分かれているのだが、すべての魔法適性者はこのいずれかの属性を得意としている。中には二つ三つと複数の適性に恵まれた者もいるが、ショウゾウさん、あんたの場合は闇属性だけだ。つまり、闇魔法が存在しない以上、あんたは他の全属性が不得意な魔法使いになってしまうというわけだ」
「言っていることがよくわからんのだが……」
「まあ、難しい事はいいんだ。要は、ダンジョンボスにとどめさえさせればいいんだからな。危険性の少ない水や風の魔法から習得し、慣らしていくのが普通なんだが、寿命が残り少なそうなショウゾウさんの場合、そんな悠長なことをしている時間はない。早速、火の基本攻撃魔法である≪
アンザイルは自らの杖を使って、地面に何やら魔法陣のようなものを書き、そこにショウゾウを座らせた。
各属性の魔法神と交信するためのものらしいが、その魔法陣の形は決して複雑なものではなく、七つの属性を表すらしい記号と象形文字の様ないくつかの文字、そしてその配置さえ覚えてしまえばショウゾウにも描けそうな程度のものだった。
「さあ、ショウゾウさん。目の前の地面に≪魔儀の書≫の最初のページを開いて置け。そして、僕が言うのと同じように心の中で祈る様に復唱するんだ。偉大なる火の魔法神スールトよ、我は汝と契約する。あなたの加護をもって、敵を討ち貫く≪
ショウゾウはアンザイルの指示通りの文言を唱えようとしたのだが、何か幻聴のようなものが聞こえてきて、それを妨げた。
『違う、違う。
その声は、ショウゾウをこの異世界に連れて来たあの革帽子の男の声であるように感じた。
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