第18話 鉄血教師団の目的

冒険者は装備と準備が大事だという理由で、ギルドに作ったばかりの口座から全財産を引き出してくるように≪鉄血教師団ティーチャーズ≫に指示された。


その有り金のほとんどをはたいて買うように言われたのは≪魔法の鞄マジックバッグ≫だった。

本革のショルダーバッグのような見た目で、リーダーのマシューが選んでくれた。


「儂には少し、色や意匠が若すぎるのではないですかな」と感想を口にしてみたが、マシューはこれが良いと言って聞かず、結局これを買う羽目になった。


魔法の鞄マジックバッグ≫というやつはかなり便利な代物で、見た目以上に多くの物を納めておけるらしい。

実際に試してみると大金を払って買った価値がある物で、見た目も見慣れたら気にならなくなった。


その≪魔法の鞄マジックバッグ≫に食料や水、安ポーションを入れ、これでダンジョンに初挑戦する準備が整った。



それとダンジョンに行く前にもう一つしたことがあった。


それはギルドの「冒険者共済保険」という補償制度に加入することだ。


これは年間銀貨一枚で、冒険中に負った怪我の治療をギルドが提携している治癒術士に割安で見てもらえるほか、死亡時などには登録した遺族やパーティメンバーに葬式代替わりの見舞金が払い込まれるという制度らしい。


これに加入することは、危険を伴う冒険者稼業において必須であるばかりか、共にパーティを組む仲間に対しての最低限の礼儀であるらしい。


もちろん銀貨一枚を惜しみ、加入をしない冒険者もいるらしいが、受付嬢ナターシャもショウゾウの年齢であれば怪我のリスクも高く、入っていた方がいいと勧められた。



ちなみにダンジョンに挑むことにはナターシャは少し難色を示していたように思う。


ショウゾウ自身もそのようなわけのわからない場所に行きたくはなかったのだが、≪鉄血教師団ティーチャーズ≫によれば、挑むのはG級ダンジョンという新人向けの迷宮であるらしく、しかも彼らの手厚い援護の元、安全に稼ぎながら、様々なことを学べるという。


どの道、元にいた世界とは全く異なるこの得体のしれない世界で生きていかなければならないのは変わりなく、冒険者という稼業に足を踏み入れたわけであるから、多少のリスクは取らざるをえまいとショウゾウは考えていた。


ショウゾウはグリーンスライムの宝珠オーブの一件で、この冒険者という仕事にある種の可能性を見い出しかけており、裸一貫でこの世界に放り込まれた自分が再び成り上がるには、もっと詳しくこの世界のことを知る必要性を感じていた。


それに、全財産をこのG級ダンジョン挑戦という未知の事業にオールインしてしまったのだ。


もう後には引けぬ。



ショウゾウを新たに加えた≪鉄血教師団ティーチャーズ≫はデンヌの森に足を踏み入れ、初日はそこで野営をして、夜を過ごすことになった。


鉄血教師団ティーチャーズ≫はさすがにB級に位置するパーティだけあって、デンヌの森に生息する魔物などはまるで相手にならなかった。


魔物の種類、弱点、戦い方などを実演してみせてくれるほどの余裕ぶりだった。


しかし、この時点である事実が発覚し、≪鉄血教師団ティーチャーズ≫の面々を困惑させてしまうことになってしまった。


それはショウゾウが、魔法使いではなく、魔法使い風のただの老人であるという事実だった。


「ショウゾウさん、あんた、魔法も使えないのにどうしてそんな格好してるんだ。その手に持っている杖は魔法を使役するための補助具だし、防具だって魔法が使えないなら、もっとしっかりしたものにすべきだよ」


斥候スカウトのレイザーが呆れた様子で教えてくれた。

頬に傷があるもののその表情はひょうきんで、物腰は柔らかい。

だが、時折、とても冷たい目をしてこちらを見ていることがあり、油断はできない。


「いや、これは店の主人に強引に勧められたもので、自分で選んだわけでは……」


「では、グリーンスライムは一体、どうやって倒したんだ? あいつらには打撃や斬撃は効果が薄い。ショウゾウさんの細腕では、いかに相手が最弱モンスターだと言ってもかなり難儀するはずだぞ」


リーダーのマシューが焚き火の向こう側から身を乗り出して疑問を口にした。


「いや、襲われて抗っておったら、いきなり力尽きたというか。それより何故、その話を御存じなのですかな?」


「この話はもうギルド中で話題になっていたからな。完品の宝珠オーブが出たと大騒ぎになっていたし、それを手にしたのが見たこともないような高齢の新人魔法使いだって、盛り上がっていたよ。ショウゾウさんは今やこのオースレンの冒険者界隈ではちょっとした有名人だと思うよ」


「なるほど。そうであったのですか」


「ああ、だが、困ったことになったぞ。このままでは、我らの目的が果たせそうにない」


「マシュー!」


突然、レイザーが小声ではあったが鋭い口調で注意した。


「あの、何か。それに目的とは?」


ショウゾウは内心、やはりこの連中には別の目的があるのではと思った。

自分の様な手のかかる年寄りをダンジョンに連れて行くのはかなりの面倒であるし、例のトレーナー制度のことを考えても旨みが無さ過ぎる。


偽善やボランティアでしているようにも見えないし、なにか変だ。


「すまない。雰囲気悪くしてしまったな。まだ話すのは早いと思ったんだが、説明しておいた方がいいな。ショウゾウさんをビビらせてしまうかと心配して、つい言い方がきつくなっちまった」


レイザーは頭を掻きながら、またおどけた様子でマシューに謝罪した。


「それで、目的というのは?」


「ああ、ダンジョンボスの初回討伐報酬さ」


レイザーは右の口角を吊り上げて笑みを浮かべ、ショウゾウの顔を見つめた。

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