第15話 オールドマンの光
「その老いぼれグリーンスライム、どうせくたばるなら俺の顔の上でくたばってほしかったな。そうすれば金貨四枚、全部総取りできたのにな~」
「でもギルド長たちもがっかりしただろうね。襲い掛かっている途中に寿命が来て、勝手に死んだだけじゃあ再現性もないし、宝珠獲得の機会が増えることもないだろう。爺さん、あんたは本当にただラッキーだっただけ。ラッキーなじいさんの顔の上で、アンラッキーなスライムが、くひひっ、こりゃ傑作だ」
程よく酔いが回って来たのだろう。
ジャンたちはご機嫌な様子で本音を口にし始めた。
名前にさん付けだったのが、爺さんに戻り、馬鹿にしたような態度が顔を覗かせる。
金ももらったことだし、あとはただ飯、ただ酒を御馳走になったら、もう用済みだという考えが透けて見えた。
冒険者ギルドの買取りを終えたショウゾウは、ジャンたちが期待していた通り、気前よく金貨一枚ずつを、他の冒険者たちが見ている前で渡し、さらに今回の依頼達成の打ち上げとして夕食を奢ろうと≪希望の光≫の三人に持ち掛けた。
≪希望の光≫が倒した魔物の素材の売却代金は、四等分どころか銅貨一枚も受け取っていないがそのことには触れず、好々爺を演じて、あくまでもにこやかに。
紅一点のエヴィがそれでは悪いと割り勘にすることを提案したが、残りの二人はそれを聞かなかないふりをし、結局はショウゾウが全額
他人の金ということもあるのだろう。
コービーとジャンは大して飲酒の経験も無いようだったが、ここぞとばかりに酒と料理を次々注文し、エヴィを呆れさせていた。
「何言ってるの!本当はショウゾウさんが全額受け取るのが当然だったのに、あんたたちが強引に取り決めをすり替えたんでしょう。ジャンが倒した場合でも、四等分にするのが当然よ。そんなあくどいことばっかり考えてるからかしら? 今日のあなた、ずいぶんと老けて、嫌な大人みたいな顔してるわよ」
顔を真っ赤にしたエヴィがジャンの胸ぐらをぐいっと片手で掴み説教を始めた。
どうやら酒には弱く、怒り上戸らしい。
エヴィは酒を飲んだことがないということだったが、今日はめでたいからとショウゾウが少しずつ勧めたのだ。
まだ夜も始まったばかりだというのに、歳も若く、酒に慣れてない若者たちは、己の限度も考えず飲酒を続け、そしてもはや前後不覚といった感じになってきた。
エヴィなどはもう机に完全に突っ伏しており、他の二人も口数が少なくなってきた。
この店は各テーブルが間仕切りによって区切られているほか、思いのほか繁盛しているようで、その賑やかさから会話が聞こえにくい。
ショウゾウは店内の様子をぐるりと見まわし、他人の目がないことを確認するとジャンの手の甲に人差し指を当て、指先に何か見えるかと尋ねてみた。
ショウゾウの指先に灯っているのはスキル≪オールドマン≫のあの昏く禍々しい光だ。
最初は全部を吸い尽くさんばかりの勢いで発動させることしかできないと思っていたが、この数日で色々試してみて、かなり加減できることが分かった。
間違って指先が触れたふりをして、何人かに試したが、外見に変化が出ない程度のごく微量の精気を吸い取ることも可能なようだった。
「なんだ、爺さん、ふざけてるのか?」
しっかり確認してみたが、どうやらコービーとジャンには何も見えていないらしい。
グリーンスライムに襲われた時に、やむなくスキル≪オールドマン≫を使ったが、それを目撃していたエヴィに尋ねても首をかしげるばかりだったので、もしやとは思っていた。
これは儂にだけ見える光。
魔法を使えるというエヴィに見えなかったということは、この世界にある一般的な魔法の類ではないのかもしれぬ。
「ははは、儂ももう酔っぱらって、この指が三本に見え始めました。ここにお代は置いておきますから、あとは若い三人で楽しんでくだされ」
ショウゾウは自分の腰袋から銀貨を四枚出すとそれをテーブルの上に置き、頭を下げた。
たった今、ジャンから吸い取った精気のおかげだろうか。
それとも疑問がひとつ解決したからだろうか。
気分はスッキリ晴れやかで、店を出るショウゾウの足取りも軽かった。
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