第13話 冒険者証

グリーンスライムの宝珠オーブの入手がショウゾウと他の者たちの距離を一気に縮めることになった。


≪希望の光≫の光の二人は分け前のため、マネッケン商会の者たちにしてみても格安で希少な品物を手にするチャンスであったから、ショウゾウの機嫌を取ったり、危険な目に遭わないように配慮してくれるようになった。


そして二日経った今も、焚き火の前で、ショウゾウを囲むようにして皆が座り、食事を持ってきてくれたり、酒をふるまってくれたりした。


本当に欲しいなら儂を殺してでも奪おうとするのではないかとショウゾウは警戒していたが、そのようなことにはならない明確な理由が存在することを迂闊な若者たちの口から知ることができた。


ギルドから渡された冒険者証には、実は様々な機能が秘められていて、そのうちの一つに魔物の討伐記録機能がある。


この記録には、いつ、どこで、どのような魔物を討伐したのかなどの項目があり、ギルドに持ち込んだ場合に、鑑定装置の情報と冒険者証に記録された情報が一致してないと、ただの拾得物や盗品と見なされ買取金額が激減してしまうばかりではなく、場合によっては窃盗などの犯罪の嫌疑をかけられてしまう場合もあるのだという。


しかも今回のようなケースでは、学術的な見地などから獲得時の状況や倒した方法などの情報提供報酬が加算されるため、ショウゾウには是が非でも生きていてもらわなければ困るという状況になっているようだ。


ちなみにマネッケン商会が入手することになった場合でも、このグリーンスライムの宝珠オーブのような希少かつ高額な素材の場合、一度ギルドを通さなければならないらしく、ギルドの鑑定書無しでは、これも価値の低下を招いてしまうという話だった。



「この板っきれにそんな機能があるとは……」


「これを作った時に、丸い光る玉を触ったでしょ。あの玉を通じて、本部を含む各ギルド間でショウゾウさんの冒険者としての情報が共有、そして管理されているの。この冒険者証の持ち主がどんな依頼を受けているか、どんな魔物を倒したことがあるか。ドロップ品や素材の買取時に使うだけじゃなくて、適正な冒険者ランクの査定をしたりする際の指標などにも使われるそうよ。他にもギルドに預けたお金の出し入れや、よその町に行った際の身分証明にもなって、本当に便利よね」


エヴィの説明にショウゾウは少し落ち着かない気分になった。

今の話が本当であれば、不用心にも冒険者ギルドに自分の個人情報を進んで提供してしまったことになる。


「……記録されるのは魔物の討伐だけなんじゃろうか? ……例えば、その……人間は……」


「ショウゾウさん、ずいぶんと怖ろしいことを聞くんだな」


ショウゾウの疑問にコービーがぎょっとした様な顔をした。


「いや、世の中物騒じゃろ。儂もこのオースレンにやって来る途中で野盗に殺されそうになったことがあってのう。もしも、そういった時に正当防衛で殺めてしまったりしたら、ギルドにはその情報も伝わってしまうのかと、ふと思いついてな。野盗を用心しての護衛依頼とかもあるじゃろう?」


「そんな心配はいらねえよ。この冒険者証が記録できるのは魔物についてだけだ。魔物が帯びる魔素を感知してるんだとさ。冒険者ギルドの前身だった≪魔物討伐隊≫の時代の魔法装置を改良して使っているらしいぜ」


「その話は初耳ね。あんた、冒険者になる前、手が付けられない不良で、散々悪いことしてたから、きっと怖くなって調べたりしてたんでしょ」


「ちげーし、そんなんじゃねえよ」


自慢げに話すジャンに、エヴィが意地悪そうな顔で茶々チャチャを入れる。


そうか。

殺めた人間の記録までは登録されないのか。


なるほど、もしそういった情報まで、あの玉っころに察知されてしまうのなら、最初に冒険者登録された時点で、過去の悪業やあの野盗についてあれやこれやと詮索されてしまう事態になっていたことだろう。


ショウゾウは、闇夜を照らす焚き火の炎を眺めながら、蒸留酒のお湯割りをちびりとやり、人知れず胸をなでおろした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る