第12話 レアドロップのもたらしたもの

ショウゾウが希少な素材であるグリーンスライムの宝珠オーブを手に入れたというエヴィの話を聞くと、≪希望の光≫の二人はもちろんのことマネッケン商会の者たちも驚き、そして興奮した様子を見せた。


「そんなに貴重なものなのですかな?」


井戸水で洗った衣類を焚き火で乾かしながら、ショウゾウはマネッケン商会の主任に尋ねた。


「ああ、とても珍しい物だ。天寿を全うした魔物がその死の瞬間に生み出すらしいんだが、本当のところは誰も知らない。ダンジョン産の魔物からは採取できないし、天然物の魔物だけがこれを生み出すとされているんだが、とにかく謎が多いんだ」


ダンジョン産とか、天然ものとかそういう区別があるのか。

詳しく聞きたいがあまりあれこれ聞くと、不審がられてしまう可能性がある。


よその世界から来たのだという事実はできるだけ伏せたい。


「ショウゾウさん、もし良かったらこれをうちの商会に金貨一枚で譲ってくれないかな」


今までは爺さん呼ばわりだったのに、マネッケン商会の主任が急に名前で呼び始めた。


「おいおい、主任さん。それじゃあ、ぼったくりも良いところだぜ。ギルドに持っていけば、きっとその倍は出す。へたすれば、もっとかもな。俺たちが若いと思って侮ってるんじゃないか? ショウゾウさん、騙されちゃだめだぜ」


ジャンがその細い目を見開き、主任に向かって凄んで見せた。


こいつも急に老いぼれ扱いから、さん付けに変わった。


「ま、まあ、この採集量からするとまだ二、三日はかかると思うから、ショウゾウさん、考えてみてくださいよ。さっきは金貨一枚と言いましたが、特別に三枚までなら交渉に応じますよ。考えてみてください」


ジャンの威圧が効いたのか、主任はそういうとグリーンスライムの宝珠オーブをショウゾウに返し、いそいそと離れていった。


「それにしてもすごいな、ショウゾウさん。同じ依頼を受けていた仲間として誇らしいよ。あの主任、金貨三枚なんて言っていたが、きっと四枚は出すと思いますよ。そうすれば、金貨一枚ずつ。贅沢しなければ、一年は暮らせる金額ですよ」


ジャンが濡れたローブを少し強引に取り上げるとショウゾウの代わりに乾かし始めた。

慣れない手つきで、焦がしてしまわないか心配だ。


「ショウゾウさん、風邪ひくといけない。夜風は体に毒だよ。これを羽織るといいよ」


≪希望の光≫リーダーのコービーがそう言って、薄手の毛布をショウゾウの肩に優しくかけた。


その様子を面白くなさそうにエヴィは眺めていたが、それをショウゾウは気が付かないふりをした。


わかっておる。

こやつらは、儂の金に群がって来ていた家族や親せき、その他大勢の有象無象どもと一緒だ。


こういった連中の扱いは慣れている。


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