第10話 初めての依頼

ショウゾウが起こした火事は思いもよらぬほどに大規模なものになってしまった。


火事に気が付いた周辺住民が、周りの建物を壊し、なんとか延焼を食い止めようとしたのだが、深夜だったこともあり人手が足りず、思うようにいかなかったようである。


宿屋があった一画の十数軒ほどを焼き、火事に巻き込まれた被害者は現時点では把握できていないようだ。


ショウゾウはその話を現場から少し離れた食堂で相席になった客たちから聞いた。

オースレンの町は今、どこもかしこもこの話で持ちきりになっていて、情報を得ることは割と容易いことであったが、踏み込んだ詳しい状況などについてはわからなかった。


自分が犯人として手配されていないか、実際の現場の状況はどうなっているのかなど、詳しく知りたい気持ちが心の縁から溢れ出そうになっていたが、ショウゾウはそれを堪え、現場には決して近寄らなかった。


こんな次元の低い文明の捜査で、儂が犯人だということを突き止められるわけがない。


そう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替えることに努めたのだ。



ショウゾウは自分の衣類が焦げ臭い気がして、どことなく不安だったため、新しい服を買うことにした。

幸いにして、ガルボーから奪った金は、ショウゾウの所持金からすると結構な額だった。


金貨一枚、銀貨十二枚、銅貨三枚。


もしかしたら、あのガルボーはそれなりに冒険者としては成功しており、稼ぎが良かったのかもしれない。


ショウゾウは案内用の冊子に書かれていた冒険初心者におすすめだという店に向かい、そこで中古の古ぼけたローブととんがり帽子、皮の胸当て、中に着る衣類二着、そして魔法使い用であるらしい杖を買った。


自分がとても高齢であったためだろう。

武具店の主人はショウゾウのことを魔法使いであると頭から決めつけ、それに適した品物ばかりを勧めてきた。


ショウゾウとしても何を購入したらいいか分からず、しかも重い武器防具を買ったところで扱いきれるとは思えなかったので、大人しく従った。


新品であれば倍はかかるところ、銀貨三枚の出費で済み、これで魔法を使えない魔法使い風の高齢者の完成である。


そして資金的にはもう少し余裕はあったのだが、急に羽振りの良い振りをすると金の出所など、要らぬ詮索を受ける可能性があったので一先ずこれで良しとすることにした。


ちなみにガルボーの冒険者証と金が入っていた今は空の革袋は、昨夜のうちに町の中を流れる水路に捨てた。



ショウゾウはその後、冒険者ギルドから程よく離れた感じのいい宿屋に部屋を取り、その足で再び冒険者ギルドに足を運んだ。


ギルドで貰ったガイドはさらっと目を通したし、何はともあれ冒険者としての活動をしてみようと思った。


ガイドに書かれていたのだが、冒険者の身分を維持するためには依頼をある程度こなし、その成功報酬から天引きされる形で納められる税金が一定額必要であるらしい。


年間通しての合計額がGランク冒険者では銀貨十枚。

ランクが上がるほどにその必要額は増えていくようだ。


今のところ、この冒険者証は自分の命綱。

何として失効させてしまうわけにはいかない。


「あら、ええと……ショウゾウさん! 随分と冒険者らしい見た目になりましたね。見違えましたよ。それに、お顔もずいぶんと血色がよくて、落ち着かれたようですね」


そういってカウンターから声をかけてきたのは登録の際に担当だった受付嬢だった。


「ああ、おかげ様で。さっそく依頼を受けてみようと思うんじゃが、あの掲示板から選べばいいじゃったな」


「そうです。ちゃんとガイド読んでくれたんですね。もう昼前なので、割のいい仕事はあまり残ってませんけど、難易度的には今のショウゾウさんにはうってつけの仕事もあると思うので見てみてください」



受付嬢の言うとおり、掲示板にはもうわずかしか依頼が残っていなかった。


ガイドによればこのオースレンの町周辺の冒険者の主な仕事場は、大きく分けて三つ。

オースレンの都市内、北から東に広がるデンヌの森、そしてその奥にあるという迷宮ダンジョン群だ。


街中は例の火事騒ぎであまりうろちょろしていたくはないし、迷宮ダンジョンというのは、このガイドを読んだだけではまだよくわからなかったので避けた。



ショウゾウは、とりあえずデンヌの森の比較的浅い場所にも生えているという薬草採集の依頼を受けることにした。


この依頼は応募してきた数人と依頼主で行われ、出発は明日の朝。

報酬は一日につき銅貨五十枚の計算で、必要量を採取した時点で終了らしい。


受付嬢の話では、新人冒険者には適している仕事だという話で、どの薬草を採取するのかの指示や野営の準備なども依頼主がしてくれるとのことだった。


ショウゾウにしてみれば仕事場が北の方角であることも望ましかった。


できればあのお節介な門番サムスのいる西門には当分近づきたくはない。




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