第6話 金銭を得る方法
「儂の荷物を盗ろうとしたんだから、文句は言えまい」
野盗の死体から所持金のすべてが入った革袋と中身が入った水筒を奪い取り、それを自分の物にした
野盗に襲われた場所から夜の街道をひたすら東へ。
月明りだけを頼りに、足の痛みをこらえながらひたすら歩き続けていると、思ったより早く町が見えてきた。
不破昭三の脳裏には、もしかしたら、あの革帽子の男はこの町に向かわせたくて、わざわざ近くの林に置き去りしたのではないかという好意的な憶測も浮かんだが、「馬鹿な。この本を地図として活用することを思いつかず、仮に反対方向に歩いていったらどうなるのだ。それに野盗に襲われて死ぬところだったんだぞ。ありえぬ」と即座にこれを否定した。
うまく物事が進むと、人間は自分にとって都合よく物事を解釈しようとする性質がある。
これは安堵からくる心のゆるみの表れであり、あの革帽子の男を自分の味方であったのだと思いたい心の弱い部分がなせる業なのだ。
気を引き締めねばならん。
むしろ、ここからが正念場なのだ。
町に入れてもらえるまでは安全ではない。
不破昭三は両の掌で頬を叩き、気合を入れ直した。
そして、オースレンの町の入り口に立っている門番と思しき男にゆっくり近付いていった。
より一層、哀れで非力なおいぼれに見えるように歩き方も辿々しくして、表情も困り果てて見えるように工夫する。
「なんだ、爺さん。こんな夜中に一人で、どこから来たんだ?あまりにふらついてるから、ゾンビーでも来たのかと思って焦ったぞ」
≪異世界言語LV1≫とかいうやつの効果だろうか、日本語ではないにもかかわらず門番が何を言っているのかわかる。
そして不思議なことにその言葉を自分も話すことができるようだ。
「はい、それが、よくわからなくて。ここがどこかも分かりません」
傲慢さを隠し、あくまでも弱々しく。
それで相手の同情を買うのだ。
「おいおい、大丈夫かよ。名前ぐらいはわかるよな」
「それも……わからなくなって」
「かぁー、参ったな。じゃあ、ちょっとその荷物見せてくれよ。何か手掛かりあるかもしれないからよ」
まずい。野盗から奪った所持品からあらぬ疑いをかけられまいか。
不破昭三の背に冷たいものが伝ってくるのを感じた。
いや、だが野盗から奪ったものは、水筒と硬貨が入った皮袋だけだ。
腰に下げていた小ぶりな剣や皮鎧などは重くて邪魔になるし、衣類も足がつくのを恐れて、そのままにしてきた。
「う~ん、これといって身元を示すようなものはないな。これは困ったぞ」
どうやらこの門番はかなりお人好しな性格をしているらしく、その表情は真剣そのものだった。
「あの、もしよろしければ、この町で一晩休ませていただきたいのですが、この通り、足もマメだらけで、疲れ果てています。このままでは行き倒れになってしまう……」
不破昭三は、迫真の演技で自分が今にも倒れそうな哀れな老人であることを必死で訴えかけた。
目と鼻から液体を垂れ流し、皺だらけの顔をさらにくしゃくしゃにし、さらに手の指を震わせ、肩を
「ああ、しょうがねえなー。もうじき交代の時間だから、どこか宿まで連れてってやるよ。あんたみたいな爺さんじゃ、
門番をしていた男は本当に馬鹿が付くくらいのお人好しだった。
自腹を切って、食事をおごってくれたばかりか、手頃な安宿に案内してくれて、今夜の宿代まで払ってくれた。
荷物を
本当はあまり深く関わり合いになりたくなかったので、そっとしておいてほしかったのだが、この門番は迷惑なくらいのお節介焼きだった。
「ブック!」
宿の部屋でようやく一人になった不破昭三は「魔導の書」を出現させ、そして尋ねた。
「チェンジ。おい、この町で儂が金を稼ぐ手段は何かないか?」
先ほどのやり取りでこの等級の安宿が一泊で銅貨十枚であることが分かった。
現在の所持金が、銀貨二枚と銅貨二十数枚ほどだったから、あと何泊泊まれるのか考えて、先々のことが急に不安になってきたのだ。
金が尽きたら浮浪者になるしかない。
そうなったらいずれ野垂れ死にすることになるだろう。
金はすなわち力であり、神頼みや魔術などといったものよりも確実に頼りになる。
問いかけに対応して、表示された内容は不破昭三にとって神経を逆なでするようなものであり、また目を疑うような内容だった。
身元不明で身寄りも無い、八十八歳の老人がこの町で金銭を得る方法は原則ありません。
例外として提示できるのは、冒険者と犯罪者だけです。
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