第24話 不登校の風紀委員
「……何? 風紀委員のメンバーで今一人、不登校の生徒がいないか、だと?」
小笠原と宮下の二人とカラオケハウスに行った翌日。
今日も今日とて風紀委員の拠点教室で楓と一緒にポスター作成をしていた俺は、おもむろに西城先輩へ質問を投げかけた。
「ちょっと昨日、とある奴からそういう情報を得まして。西城先輩は委員長ですし、何か知ってることもあるだろう、と思った次第です」
「……その、とある奴というのは何者だ?」
真剣な表情で問うてくる先輩。
俺は間髪入れずに彼女へ返す。
「芦屋、
「宮下……? それはもしかして――」
「はい。氷堂の友人で、俺たちのクラスメイトですよ。もしかしたら、西城先輩も面識があるかもしれません。聞き込み、行ってたみたいですし」
言うと、西城先輩はほっそりとした自分の顎に指先を押し当て、ふと考え込む仕草。
「あいつ、芦屋といとこ関係にあったのか……。思わぬところで……」
「……何か気になることでも?」
俺の問いかけに対し、先輩は「いや」と軽く首を横に振って、
「世の中は狭いな、と思っただけだ。特段気になることがあったわけではない」
「なるほど。……で、その芦屋さんについてなんですが」
「知っていることを吐け、ということか。せっかちだな君も」
「文化祭本番まで時間が無いので」
失礼なのは承知だった。
礼儀も、礼節も、会話の中にあまり織り込まれてないというのは自覚してる。
けれど、今になってそれを細かく気遣ってる余裕はなかった。一分一秒が惜しい。俺は、いや、俺たちは、早いところ氷堂伸介の弱みを握らなければならない。
「いいだろう。教えるよ、彼女のこと」
「助かります」
短い感謝の言葉に、西城先輩は苦笑した。そして、腰掛けてた椅子の背もたれに、最大限体重をかけ、天井を見上げながら続ける。
「まあ、もっとも、芦屋の元へ君たちが出向いたところで、彼女から拒絶されるのがオチだとは思ってる。会話などできない。この私も、何度奴の家まで行ったことか」
「何度も、ですか?」
先輩は頷き、
「それまでは真面目で活発で、二年生の中でも一番風紀委員の活動に熱心な子だった。が、ある時から、突然登校拒否の状態になってな。どうしてそうなってしまったのか、理由を聞こうにも彼女の口からは何も語られず、今に至るんだ」
「……そう……なんですね」
「もちろん、だからといって情報収集をすぐに諦めたわけじゃない。二年生に話を聞きに行ったりもしたさ」
「それで、結果は……?」
「あるようで、無かった。いや、無かったようで、あった、か? どういう風に表現するのが正しいのかはわからないが、端的に言えば、具体性のある答えには辿り着けなかったよ。誰もが芦屋のことをしっかりと語りたがらない」
「語りたがらない……? それはどういう……?」
「知らない者も中にはいたんだろうが、知っているくせに知らないふりをあからさまにしたり、教えられない、と正直に言ってくる者もいた。何か深刻な理由がある、というのはわかったのだが、それ以上先の答えに行き着くことはできなかったんだ。残念ながらな」
「残念ながらって……」
「何だ? 文句でもあるかい?」
軽く笑みをこぼしつつ言ってくる西城先輩。
その言い方は、決して怒ってる風じゃない。
けれど、どこか自分に対しての呆れを漂わせていて、俺の方から快く笑みを返すことなんてできなかった。
「ただ、私は詳しいことを知らないが、君の言う宮下君は何かを知ってる風だな」
「……ええ。恐らく。俺も詳しくはまだ何も聞かされてないんですが。本人のところへ行け、としか言われてなくて」
「で、その前に風紀委員長として、私が何か知らないか、聞いてみた、というところか」
「……まあ」
言いながら、「なあ?」と楓の方を見つめる。
楓も、頷いてくれ、俺は視線をまた西城先輩の方へ戻した。
彼女は椅子から立ち上がり、窓の方へ歩み寄って、外の景色を眺めながら続ける。
「悪いね。何も知らなくて。ただ、一つ。彼女の家の場所くらいなら知ってる」
「……家、ですか?」
「ああとも。早いところ、事を解決しなきゃなんだろ?」
窓の外を指差す先輩。
俺はその仕草の意味をすぐに理解した。
「今日のポスター作りはその辺りでいい。今すぐ向かうといいよ」
俺と楓は、頷き返すのだった。
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