第23話 信用×してない

小笠原と宮下。


元々、氷堂側だと思い込んでた二人が、思わぬ形で協力してくれることになった。


もちろん、全面的に信用できるわけがないし、自分たちのことを彼らにベラベラと喋るのも良くないだろう。


ただ、そうだとしても、こうして二人が協力的になってくれたのは、個人的に嬉しかった。


一つ、楽しい学校生活を楓が送るための歩みを進められたような気がして。






「それで、小笠原。なんで橋上さんが協力的になってくれないって言い切れるんだ? お前と宮下って、確か彼女と仲良いよな?」


放課後。


俺と楓は、さっそく小笠原と宮下の二人と一緒に、カラオケハウスで話を聞いていた。


歌を歌ってもよかったけど、どうもそういう空気感じゃない。


教室じゃ陽気なテンションの小笠原も、今は顎に指を当て、神妙な顔つきで俺の質問へ対する答えを考えている。


宮下もそれは同じだった。こいつは元々クールなタイプだから、自分から歌を歌い出そうとするって奴じゃないと思うが。


「これはさ、正直俺の口からは言いづらいところがあるんだけどな……」


「何でもいいよ。話せることなら話して欲しい」


言い淀む小笠原。


そんな彼を見かねて、隣に座ってた宮下が口を挟んでくる。


「凛華とは仲が良い。けど、あいつは伸介のことが好きなんだ。敵か味方かを見極める嗅覚も優れてるし、ほぼ確実に口を割らないんだよ。伸介のボロが出そうなこととか、特に」


「……そうなんだよな。何だかんだ非モテポジだし、俺ら」


便乗するように苦笑しながら小笠原が言うと、宮下がすぐさまチョップし、


「否定はせんけども、お前と一緒にされるのは不快だな。やめてくれ」


「いいだろ、別に。仲良くしようぜ、秀志」


「勘弁。……って、あ、ちょっと待て。理沙からL I M Eきた」


「ったぁー! クソッ、何だよ、理沙の奴、俺には個人的なメッセージとか全然送ってこないくせにさー!」


楽しそうにする二人。


こいつらはこいつらで、色々大変なところがあるんだろう。


楓の方へ目配せすると、遠慮がちに苦笑いを投げてくれる。


俺と同じことを考えてそうだ。


「ま、話戻すけどさ、つまるとこ、そういうことなんだ。仲が良いって言ったって、やれることとやれないことがある。君が今回俺たちに望んでることは、ちっとキツそうだ」


自虐的な笑みを浮かべつつ、小笠原が言う。


俺は軽く嘆息し、


「わかったよ。なら、橋上さんに協力してもらうのが無理だとして、どうやって氷堂をたしなめるんだ? 俺、もう本人に直接突撃するしかないと思うんだが」


「だから、それだけはマズいんだって。敷和君、本格的に学校行けなくなるから」


「そもそもそういうのがおかしいんだよ。お前らのリーダーはヤクザか何かか? 聞いたことないって、ちょっと反抗しただけで学校行けなくなるとか」


「っ……」


閉口する小笠原。


代わりとばかりに宮下が続ける。


「まあ、さすがに小笠原の言う『学校行けなくなる』は盛りすぎだな。正確に言えば、俺たちに害が及ぶってとこか」


「お前たちに?」


頷く宮下。バツが悪そうに横へ視線をやる小笠原。


「君が伸介に凸したら、いずれ俺たち二人も協力したってことで、目の敵にされる。今まで築いてた仲も、教室内での立ち位置も、全部失うことになるんだよ」


「……? 何で俺が凸したらそうなるんだ? 俺が氷堂に言わなきゃいい話だよな?」


嘆息する宮下。


「言わなきゃいい話だけど、君も人間だ。絶対どこかで口を滑らせたり、身の危険が生じた時に俺たちの名前を出す。君が俺たちのことを信用し切ってないように、俺だって君のことを信頼してるわけじゃないんだ」


「……あぁ」


「それは元々敵対してたからとか、友達でもないからとかじゃなくて、シンプルに人間そういうもんだろって話。自分が危険に晒されたら、必ず利用できそうなとこを突くもんだろ?」


「……それは確定的なことなんて言えないし、言いたくないな」


「言いたくないってのがもう肯定してるようなもんだ。そういうもんなんだよ。だから、凸はやめてくれ。いや、やめろ。やれば、俺たち二人は君に一切これから協力しない。無視する」


「そこまでか。今、こうして話してるのに」


「そんなこと知らない。捨てたくないからな。今いる友達と、人間関係を」


「……」


宮下は正直だ。


普通、人が言い淀むことを臆することなく言ってみせた。


俺はこめかみを抑える。


返す言葉を考えるために。


「……わかったよ。突撃はしない」


「わかってくれればいいんだ」


「けど、それでどうする? どうしたらいい? この文化祭で、あいつは俺に何かするつもりなんだろ? その『何か』ってのも具体的にわからないのに、橋上さんにも協力要請ができない。八方塞がりじゃないか」


「いや、実はそうでもない」


「……は?」


俺をじっと見つめながら、宮下がポツリと言う。


「考えがあるんだ。風紀委員だったかな? ちょっと知り合いがいてな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る