第18話 チョロ過ぎる件

 風紀委員の文化祭展示物であるポスター作成を丸投げされた俺と楓だったが、思いのほか作業は順調に進んだ。


 どんなものを描くかは楓がすんなりといいアイディアを出してくれ、恥ずかしながら俺は楓の言う通りに下書きを始めた。そこに自分の意思なんてものはない。絵心も無ければ、そういう発想力みたいなものも無いんだよな、俺。


「そういえばだけど、楓こういうの得意だったよな。勉強はからっきしだったくせに、工作とか絵を描くこととかは上手で、夏休みの宿題で毎回賞取ってた」


「むー。それ、褒めてくれてますか? なんか男の子っぽいって言われてるみたい」


 ぷくっと頬を膨らませながら言う楓。


 俺はそんな楓を見て、クスッと笑い、


「別に貶してるわけじゃないって。ただ、純粋にいい特技持ってたなーって」


「いい特技なんかじゃないですよぉ。ああいう夏休みの宿題みたいなのって、出来のいいものを作っても、『どうせ親が手伝ってる』みたいに陰で言われがちなんですから」


「何とも実体験のような口ぶり」


「実体験なんです。というか、そうやって先生同士が言ってたの聞いたんですよ。酷いと思いませんか? やる気失っちゃいます」


 楓は腕組みし、プンプン腹を立ててた。


 頑張って工作とか一人で取り組んでたんだろうなぁ、と勝手に想像。


 でも、楓が一人で黙々と作ってる様を想像すると、なぜか笑えてきた。めちゃめちゃこだわってそうだし、独り言も呟いてそう。


「ど、どうして笑うんですかぁ!? もしかして、夏樹くんもそっち側!? 先生側ですか!?」


「いやいや、そういうわけじゃないけどさ。なんか、一人で頑張ってたであろう職人楓を想像すると面白くて、つい」


「面白要素なんてどこにもないですよぉ! そうですよ? 頑張ってたんです。一人で、黙々と」


「ふふふっ」


「むぅぅ……! お笑い要素なんて全くないはずなのに……! 夏樹くんのイジワル……!」


 プイっとそっぽを向き、大判用紙の端っこをイジイジする楓。


 俺は笑いつつ、下書きを続行。


 ……が、ダメだ。面白くて手がちょっと震えてる。線がズレてしまった。


「まったく……まったくぅ……! 確かに昔は男の子っぽかったですけど、今は頑張って女の子らしくしてるつもりなのに……! 夏樹くんは全然わかってくれないんですから……! もぉ……もぉ……!」


「ごめんってば、楓。謝るから許して?」


 笑みを隠せずに言うと、楓はチラッとこっちを見て、また紙の端をいじりながら頬を膨らませる。


「ぜーったい許さないですっ。夏樹くん、笑ってます。私は騙されないんですからっ」


「じゃあ……」


 表情をキリッとさせて、


「楓は、紛れもなく可愛い女の子だぜぇ? 世界で一番か・わ・い・い」


 バキュン☆


 ウインクをし、冗談っぽくナルシストみたいにねっとりした声で言ってあげる。


 さすがにこれにもまたプンスコ怒るはず。からかってる感満載だしな。


 そう思いながら、心の中でニヤつく俺だったが、


「ふぇ……」


 チョロ過ぎだった。


 顔を赤くさせ、俺の方を見つめてくる。


 で、すぐに目を逸らし、あたふたしてた。嘘ですよね、楓さん。


「そ、そそそ、そんなの信じませんっ。おおお、思ってもいないくせにっ」


 反射的に「冗談だよ」と言いかけるが、これはまだからかってもよさそうだと判断。


 もう一度ナルシストモードのスイッチを入れ、どこぞやのホストっぽく言葉を投げる。


「ほんとに決まってんだろぉ? そうやって照れてるところもナンバーワンキュート☆」


「んぇぇっ……」


「頑張って可愛くなる努力したんだろ? 俺は知ってるぜ? こっち来いよ。頭撫でてやる☆」


「ぁ……うぅ……騙されない……騙されないもん……」


「可愛いよ、俺の楓」


「にぁぁ……」


 騙されない、と自分に言い聞かせて頑張る楓だったが、そこはチョロさ極限。


 餌を前にして簡単にプライドを捨ててしまう猫のごとく、しっぽを振ってゆっくりと俺の方へ近付いて来た。


 頭を撫でてあげると、幸せそうに悶え声を上げる。


 本当に楓の将来が心配だ。悪い男に言い寄られて、乗せられて、ホイホイ付いて行かないよう言っとかないと。


「……あの、楓さん?」


「は~い。何ですか、夏樹く~ん」


「さっきのこと、許してくれた?」


「さっきのことぉ~? えへへぇ~? 覚えてないです~。何かしましたか~?」


 いかん。良くないぞ、これは。


 ホスト狂いになる前に、楓は俺が守ってあげないと。


 心に強く誓った。


「楓、ごめんな? ちょっと少しだけ離れてくれる? 下書きやってる途中だし、描きづらいから……」


「じゃあ、描きづらくないところでいい子にしてる。もっとナデナデして?」


「あ、う、うん。わかったよ」


 言われたので、撫でてあげると、楓はまたも幸せそうにし、描きづらくないところまで下がってくれた。


 一人で「えへへ」と笑み、くねくねしてた。


 ただ、撫での効力が切れると、またナデナデ要求が始まる。撫でてあげた。


 そんな訳のわからないことを繰り返し、そろそろ夜闇が漂い始めたような時間だ。


「すまない。今日の部屋の鍵は誰が――って、え……?」


 楓と二人きりでいた風紀委員の拠点教室。


 ナデナデだけでなく、髪の毛を三つ編みにしてあげてたところで、西城先輩がご登場なされた。


 楽しそうに、ニコニコしながら揺れてた楓は、扉の方を見つめて固まり、俺もまったく同じリアクション。


 とてつもなく気まずい沈黙が訪れ、


「な、何してるんだ君たちはぁぁぁ!?」


 先輩の声が部屋を駆け巡り、夕焼けの空の方へと響いて行くのだった。










【作者コメ】あけおめことよろ! 2023年中に更新したかったが、無理だったぜぃ! 本年もよろしくだよ、みんなーっ☆

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