第16話 償いをさせてくれ
西城先輩に協力してもらうことが決まった翌日。
俺はその日も普段と変わらず楓の傍で生活し、クラスメイト達の冷ややかな視線を受けながら過ごした。
もはや誰がどう思おうが、気にすることではない。
個人的にそう思ってるのだが、楓はどうやらそうじゃないようで、自分に向けられてた冷たい視線が俺に向けられていることをかなり気にしてるようだった。
大丈夫だと言うのに、「うん」と頷くだけで、表情が明るいものにならない。
どうしようもない。
どうしようもないのだが、今回ばかりはそれでいい。
昨日した宣言通り、一日を通して西城先輩は一年の教室に面してる廊下を何度も往復していたのだ。
もちろん、視線の先は楓。
楓が普段どんな扱いを受けてるのか、念入りにチェックし、また、周りの連中が彼女に対しどんな風に接してるのかも確認してた。
それこそ、メモを取るほどに、だ。
――で、迎えた放課後。
俺と楓は、西城先輩の指定した場所へ足を運んだ。
図書室……ではなく、そこに付属した小さなスペース。図書準備室。
そこで話をしようとのことだったから。
「すまないな、二人とも。狭苦しいところだが、どうか適当に掛けてくれ。話をしようと思う」
「はい。狭いとかは特に気にしないでください。会話が誰にも聞かれなかったら、俺はそれでいいんで」
「う、うん」
楓も頷き、俺たち三人は三角形を形成するように、向かい合って椅子に座る。
ここは狭いが、なぜか防音機能が付いた部屋でもある。
驚くくらいに静かだ。鍵も掛けてる。
「では、今日一日、小祝さんの様子をチェックした感想をまずは述べようと思う」
「はい」
「敷和くん。君の言う通りだった。確かにあれはひどいな。今まで気付けていなかったことに我ながら怒りの感情が湧いてくるよ」
「まあ、ですよね」
「そして、これは小祝さんではないが、転校して早々、君もその流れ弾を見事に喰らってるようだった。大丈夫なのか? 見たところ、不愉快そうにしてる様が敷和くんからは伺えなかったのだが」
「俺は大丈夫ですよ。少しでも的が楓からこっちにも分かれてくれればいいと思ってるんで。元々」
「夏樹くん……」
心苦しそうに楓が俺の名前を呟くが、軽く笑みを浮かべて見つめ返してあげる。
何も気にすることはない。そういう意図だ。
「なるほどな。ならば、私も君に関しては大丈夫だという認識でいることにするよ。辛くなったら何でも言え。一人でカッコつけて溜め込む必要はないからな?」
「そこんとこも大丈夫です。気分的にはナイトなのでね」
「ふっ。そうか。よかったな、小祝さん。君の護衛は大変心強そうだ」
冗談めかして笑みながら言う西城先輩に対し、楓は苦笑していた。俺も笑う。
「なら、話を小祝さんのことへ戻そう。すべてではないが、状況はわかった。君の問題をどうするかだ」
「は、はい……」
「やっぱり氷堂に話を付けに行くしかないんじゃないですかね? 余計な手回しなんてせずに」
意見してみせるものの、西城先輩は眉間にしわを寄せ、考え込む仕草。
そして、「いや」と首を横に振った。
「力づくで行くのも悪くはない。私を前にすれば、彼らに強制的な反省を促すこともできるだろう」
「じゃあ、それでいいんじゃ……?」
「それではダメなのだ。それだけであれば、表面上の成果しか得られない。表面上の成果しか得られないのであれば、先生方へ相談するのと同じだろう? いずれまた小祝さんへの攻撃は復活する。意味が無いんだよ」
「……そっか」
「君も一度は考えたのではないか? 先生に相談するべきか、と。で、それを断念したのは、似たような理由があったからだろう?」
その通りだった。
先生に相談して、楓のいじめが止まったとして、それで楽しい学校生活が送れるとは思えない。
表面上の反省が得られるだけで、真に周りの皆と仲良くできるわけじゃない。
臭いものに蓋をするだけでしかないんだ。それだと。
「だから、だ。私は考えた。人気者であり、この問題の発端となった男。氷堂への真なる対抗策というやつを」
「さっそくですか」
「さっそくだ。別にそこまで難しいものでもない。私がいればな」
生唾を飲み込み、頷いた。
西城先輩は続ける。
「将を射んとする者はまず馬を射よ、だ」
「え?」
「まず、氷堂と特に仲良くしている者へ私が近付き、それとなく君のことを話してみるよ。敷和くん」
「お、俺ですか?」
先輩は頷く。
「いきなり小祝さんのことを話せば、彼ら彼女らも警戒するだろう? だから、まずは君のことを話す。君のことを話せば、自然と小祝さんの話へ繋がっていくだろうからな」
「な、なるほど」
「そういうわけだ。だから、とりあえずは少しまた時間をもらう。そうだな。三日後の放課後にまたここで集合しよう。いい報告ができるよう善処してみるよ」
「ま、まさかそこまで……」
感動し、軽く声を震わせて言うと、西城先輩は歯を見せて笑む。
「当然だよ。むしろ、君には、いや、君たちには申し訳なく思っているのだから。風紀委員長のくせに、とな」
「そ、そんな」
「せめてもの償いだよ。いい。待っていてくれ」
そう言ってくれる先輩に対し、俺と楓は頭を下げるのだった。
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