第15話 強力な協力者

「いじめのことについて、だと?」


 ざっくりながら相談内容を切り出すと、途端に眉をピクリと動かす西城委員長。


 俺は頷き、楓の方を指しながら続けた。


「実際に被害に遭ってるのは小祝さんなんです。俺は、ほんとつい先日ここに転校してきて、何が起こってるのかも何もわからなかったんですけど」


「ふむ。しかし、君の言葉を借りれば、転校して来たばかりだというのに、やけに二人は仲が良さげに見えるな」


「あ。それは……俺、元々小さい時はこの町に住んでて、楓……じゃなく、小祝さんとは昔から仲が良くて」


「なるほど。幼馴染というやつか」


 納得するように一人で頷き、西城先輩は付け足した。


 呼び方も『楓』で構わない、と。その方が呼びやすいのだろう、と。


「だが、知らなかったよ。少し前にいじめ調査のアンケートを各学年、各クラスへ配布し、記入してもらったばかりなのだがな。そこからは二年の小祝楓さんが被害に遭ってるなんてこと、まるで書かれていなかった」


「それは……楓本人も何も書いてなかったってことですよね?」


「そうなる。やはりあの程度のぬるい調査方法じゃダメだということだな。皆、適当に名前のみ書くだけで、まるで本当のことを書きやしない。いや、正確に言えば書けないのかもな」


「実名を書かされてるし、わざわざ自分から波風立てるようなことはしない、と」


「そういうことだろう。いじめを受けている生徒本人だって、告発したことがバレれば、今後何をされるかわからない。欠陥なんだよ。要するに。あの方法はな」


 ため息をつき、ほっそりとした顎元に手を添える西城先輩。


 そして、小さく呟いていた。


 私は前々から無記名にすべきだと言ってるのにな、と。


 何かしら、それをさせてくれない層の人間がいるのかもしれない。


 教師陣とか、そういったところだろうか。


「まあいい。今こんなことを言っても仕方ない。小祝さん、私から二、三質問してもいいか?」


「あ……は、はい」


「まず一つ目。具体的に、今どんな風にいじめを受けてる?」


「え……」


 固まる楓。


 俺もドキッとした。えらく直球な質問だ。


「嫌な聞き方だということはわかっている。だが、私は冷やかしで聞いてるわけでもなければ、興味本位で聞いてるわけでもない。君のことをどうにかしてあげたいという思いで聞いているよ」


「っ……」


「もちろん、余計な人間に詮索されたくないのなら、その旨を今ここで口にしてくれて構わない。デリケートなことでもある。そこのところも理解はしてるつもりだよ」


「……」


 別に詮索されたくないわけではないと思う。


 そういう思いなら、そもそも今日ここへは来ていない。


 楓は、チラッと俺の方を一度見て、切り出した。


「いじめの内容は……ありきたりなことです。持ち物を隠されたり、陰口を言われたり、事実とは違うことを噂として流されたり……」


「誰に?」


「に、一年生の……ほとんど全員から……です」


「そうなった原因は自分でわかってる? それとも、心当たりはまったくない?」


「わ、わかってます。……とある男の子からの告白を……断ったから」


「とある男の子。その子の名前は?」


「……氷堂くん……です」


 氷堂。


 西城先輩はその名を口にし、虚空を見上げて考える。


 何かを思い出すような仕草だ。


「知ってますか? 氷堂伸介。俺たちと同じ一年生で、学年じゃ割と人気者なんですけど」


 問うと、先輩は考えながら頷く。


「知っている。人望も厚い奴だと一年の風紀委員メンバーから聞いたこともあるしな。正直、少し驚いてるくらいだよ。その名前が出てきて」


 それもそうだと思う。


 何も知らなければ、あいつはただの人気者で、優等生にしか見えない。


 俺だって少し前までそうだった。凄い奴だと勝手に思い込んでた。転校一日目にして。


「ただ、小祝さん。その、告白をされた時からいじめが始まった、というのはどういうことだろう。君たちは……恋愛的に付き合っていたのか?」


 問われ、苦々しく首を横に振る楓。


 そんなわけがない、と強調してるようだった。


「なるほど。だとすれば、氷堂は君に振られた腹いせ、八つ当たりで攻撃を開始させた、と見ていいな」


 言って、西城先輩は舌打ちをした。


 足を組み、眉間にしわを寄せながら何かを考え始める仕草にまたなった。


「どうにか……できるもんなんですかね? こういうのって、集団の力が働き出すとなかなか止められないし」


 俺が言うと、先輩は「いや」と首を横に振り、


「この場合は何とかなるかもしれない」


「え。本当ですか?」


「ああ。いじめを受けている人間としては珍しい。彼女には、君という絶対的な味方がいるようだしな」


 言って、椅子から立ち上がり、窓から外の景色を眺めて続ける西城先輩。


「明日だ。明日、私一人で一年の教室棟へ足を運んでみる。状況調査というやつだな」


「え。てことは……?」


「この問題、風紀委員としてではなく、私個人で解決に協力しよう」


 力を貸すよ。敷和くん。


 俺たちの方へ振り返り、西城先輩は力強く言ってくれるのだった。

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