第13話 君の剣になろう

 あれから二時間ほど。


 三人が三人とも好きな曲を歌い、時刻も夜の七時を少し回ったところで、俺たちは解散することになった。


 何気に、平日の放課後の時間を使って、こんなにカラオケを楽しんだのは初めてかもしれない。


 楓も言ってた。


 こうして、放課後に誰かと遅くまで遊んだ経験はあまりない、と。


 笑み交じりで、楽しそうにしながら。


「それじゃあ、夏樹に、小祝さん。その、今日は俺に付き合ってくれてありがとう。色々あったけど、すごく楽しかったよ」


 カラオケ店を出てすぐ。


 佐ケ野が名残惜しそうながら、俺と楓に対して礼を言ってくれる。


 俺は「いや」と手を横に振って、


「礼を言うのはこっちの方だ。ありがとう。学校での楓のこと、たくさん教えてくれて」


「はは。そんな。やめてくれ。俺は陰から見てたことを君に教えただけだぜ? 感謝されるようなことはしてないよ」


「そんなことないって。佐ケ野みたいに気軽に色々聞けたり、質問できそうな奴なんて、現状俺の周りにはいなかったからな。皆、楓アンチみたいな感じだし」


「そうか? でも、それを言うなら俺もだよ」


「……?」


 言って、指差すわけではなく、手のひらをこっちに向け、俺を指し示しながら佐ケ野は続ける。


「キモがられてる俺なのに、夏樹はすごくフレンドリーに接してくれてる。人から嫌われるってことは、きっと俺に何かそういう要素があるからだろうに、だ」


「……別にそんなこと」


「いや、たぶんあるんだ。なんとなくわかってる。でも、それを俺は直せない。だから、もう友達なんてのもできずに高校生活を終えるんだろう、と漠然ながら思ってたくらいだったし」


「……」


「だから、ありがとう。そして、明日からもよろしく頼む。夏樹。俺を君の本当の親友にさせてくれ」


「ちょ、お前……堅苦し過ぎだろ。そんな深々頭下げんなよ……」


 周りの人も見てるってのに。


「それから、俺の以外のことも頼む。小祝さんをちゃんと救ってあげて欲しい」


「……!」


「美しい彼女に、暗い表情は似合わないからね。夏樹が小祝さんを再び照らす存在になってくれ」


「あ、あぁ」


 たぶん、佐ケ野が周りからキモがられるっていうのは、こういうセリフ回しもあったりするんだろうな、と思った。


 キザっぽいんだよな。俺はあまりそういうの気にしないけどさ。


「言われなくても大丈夫だよ。楓は俺が守るし、佐ケ野、お前とも俺は友達だ。嘘偽りはない」


「……そうか。ならば、嬉しい。俺は今日から君の力として、『剣』として傍にい続けるよ」


「お、おぉ……剣か……」


 言い方もねっとりしてる。笑いをこらえてた俺だが、楓が吹き出してしまい、こっちも釣られてしまう。笑ってしまった。


「ふ、二人とも、なぜ笑う!? 何か変なことを言ったか!?」


「い、いや、剣って……剣はさすがに俺も……っふふ」


「何が悪いぃぃ!? だとすれば、『懐にしまい込んだ短剣』の方がよかったか? いざとなれば、君の怒りと共に相手を攻撃する最終手段として俺は――」


「っはははっ! それもない! それもないよ! 普通でいてくれていいから、佐ケ野!」


「な、何をぉ!? 普通って、ならば『剣』ではないかぁ!」


 どうもこいつは通常状態で『剣』設定らしかった。


 面白い。


 俺たちの笑い声は、星の見える夜空に響いて行った。






●〇●〇●〇●〇●






 佐ケ野からの情報提供を受け、楓を取り巻く現状が大まかながら掴めた。


 俺の幼馴染は、氷堂からのデマによって虐げられてる。


 真実としてまかり通ってるものが誤情報であると、どうにかして大勢の生徒へ伝えてあげなければいけない。


そうでなければ、楓へのいじめはいつまで経っても無くならないだろう。問題の根っこをどうにかしないと。


 ただ、それはわかってる通り、容易なことじゃない。


 どう動いて行くのが確実なのか。


 俺は、そのことについて、後日改めて佐ケ野に問うてみた。


 すると、だ。


「風紀委員を訪ねてみるのはどうだろう? あそこの委員長は曲がったことを許さない主義で有名だし、割と恐れられてるんだ。相談してみればいいんじゃないか?」


 こうアドバイスをもらえた。


 風紀委員、か。


 聞けば、風紀委員は、普段校舎西棟の空き教室を拠点に活動してるらしい。


 俺は、そこを訪ねることにした。

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