第9話 周りの目なんて気にしないから

 名前もまだわからない女子からありがた迷惑な忠告を受け、教室に戻る。


 で、戻るや否や、俺はまた楓の元へ行き、普段通り話しかけた。


「夏樹くん……。私と話してたら、夏樹くんにも被害が……」


 なんていう風に、楓本人からも言われたけど、そんなのまったく気にしない。


 首を横に振って、俺は大丈夫だと言い張り、話題を次々に提供。


 次第に、楓はどこか瞳を潤ませ、俺との会話に興じてくれるようになった。これでいい。


 周りからは冷たい視線を向けられてるのはわかってる。


 さっきまでいなかった、あの氷堂たちもだ。


 ホームルーム五分ほど前になって、橋上さんらを連れた数人のグループで教室に入って来たのだが、こっちを気にし、「何してんの?」と仲間内だけでコソコソ言ってたところ、担任の福山先生がやって来た。朝のホームルーム開始だ。


 俺は楓に自分の席へ戻る旨を伝え、移動する。


 その際、氷堂と一瞬目が合ったが、奴は特に俺へ敵意の視線を向けることなく、ただ無表情のままだ。


 が、何か言いたさそうではあった。


 さっき忠告してくれた女子と同じく、小祝楓とは会話しない方がいい。とでも教えてくれるんだろうか。


 だったら、それは無用だ。


 心の中で俺は氷堂に言って、辿り着いた自分の席へ座る。


 そうして、朝のホームルームを受けるのだった。






●〇●〇●〇●〇●






 時間は過ぎて、昼休み。


 三つの授業をこなし、腹も減っていた。


 すぐさま楓を誘い、どこかで二人きりの時間を過ごしたい。


 そう考えるものの、残念ながらとある男との約束を果たさなければならない。


 佐ケ野だ。


 朝、あいつに昼休み一緒にご飯を食べようと言われた。


 どこで食べるかとか、そういうことは一切言われてないが、俺は教室で待っておけばいいんだろうか。


 わからない。わからないから、とりあえず楓のところへまた行こうと思う。


 どうせ俺が話しかけなかったら一人だし、弁当もぼっちで食べるつもりなんだと思う。ほら、小さいバッグをカバンから取り出して、さっそくランチタイムを始めようとしてる。


「ちょっと待った、楓」


「へ……? あ、夏樹くん……」


 わざとらしく、まさか来てくれるとは、みたいな仕草をし、あたふたする楓。


 けれども、その顔はどこか嬉しそうで、表立って喜んでるところを見せちゃいけないと思ってるのか、姿勢を良くして、目線を下の方へ向けてた。


「弁当、俺と一緒に食べよ?」


「い、いいんですか……?」


「うん。もちろん。でも、たぶん食べる場所は教室以外のとこになるかな」


「あ、は、はい。それはわかってます。堂々と私と一緒にお弁当を食べるなんて、そんなことしたら、周りの人たちが……」


「あ、そういうわけじゃないよ? そんなのもう気にしてないから。じゃなくて、ちょっと朝さ、とある男と弁当一緒に食べる約束して」


「とある男、ですか?」


 楓に疑問符を浮かべられ、俺は頷く。


「佐ケ野って奴なんだけど、知ってる? 他クラスだと思う」


「佐ケ野……くん。うーん……名前は聞いたことがあるような……」


「顔はちゃんとわからない感じ? まあ、他のクラスだもんな。そうなってもおかしくはないか」


 そうやって楓とやり取りしてる最中だ。


 何者かから背中をつつかれる。


「ん? ……あ」


 振り返ってみると、そこには例の男、佐ケ野がいた。


 なぜか頬が引きつってるが、どうしたんだろうか。


「や、やあ、夏樹。昼飯、一緒に食う約束を果たしに来たぜ……?」


「ああ。朝ぶりだな、佐ケ野。……なんかぎこちないけど、どうかしたか?」


「あ、い、いや、その……」


「……?」


 言って、そーっと俺の後ろを見やるような動きをする佐ケ野。


 視線の先は……楓?


「……?」


 楓も不審に思ったのか、首を傾げるのだが、その瞬間、佐ケ野は体をビクッとさせ、バツが悪そうに頭を掻く。


 で、俺の方を改めて見つめ、耳打ちしてくる。


「……後ろにいらっしゃるの……誰かわかってるのか、夏樹?」


「ん? ああ。そりゃもちろん。楓だよな。小祝楓」


 言って、ハッとする。何で佐ケ野の様子がおかしいのか。


 そう言えばそうだった。こいつ、昼休みに弁当食べながら、俺へ楓のことを教えてやるだの何だのと言ってたか。


 だから、俺が楓と親しくしてる風なのを見て、違和感を覚えてるのかも。


 そうか。そういうことか。


「佐ケ野。とりあえず言いたいことはわかった。弁当食べる場所へ行こう」


「え? あ、ちょ、夏樹!?」


「楓も。ほら、行こ?」


「あっ……! な、夏樹くん……!?」


 二人の手を取り、俺はいそいそと教室から出た。


 周りの目は気にしてないが、三人でやり取りするのであれば、あまり人のいないところがいい。


 変に誰かに声掛けられたりして、状況が複雑化するのも面倒だ。朝、あの女子みたいに話しかけてくるケースもあるし。


 結局、俺たちは体育館裏の日の当たるところへ行くことになるのだった。












【作者コメ】

また例のごとく懲りずに某賞へ送る原稿を作ってます。

現在、推敲作業の段階なのですが、ここでなかなかの神経を使うというか、時間も使ってるという状況で、カクヨム作品の投稿頻度が少しばかり落ちるかもしれないです。てか、落ちてる実際(汗)

なるべくこっちも書いていくようにはしますが、投稿が遅れてる時はお察しくださるとありがたいです。ただ、それだけです。ごめんなさい。

あ、あとですが、送って来てくださってるコメントはすべて見てます。返信は連載中あまりしない方がいいのかな、と思ってしてないのですが、励みにはすごくなってるので、そこは色々とご理解いただければな、と。

ではでは、長々と語って申し訳ない。また次話でお会いしましょう。

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