第42話 三本角の魔族(配信あり)

 俺はいつもの格好漆黒のコートに目元を隠した仮面に変身をする。


 そして宣言する。


「今日も我の姿を見に来たのか、暇な奴らよ。今からそこの魔族を倒すところだ。よく見ておくといい」



[きたー!]

[いつもの格好かっこいい]

[魔族ってそのカンフーっぽい人?]

[また人権無視っすか]

[話し合いからしましょうよ]

[まあ基本コメント見てないしな]

[平和主義者がやること虐殺ばっかで草]


 角無しの魔族ならあり得る。

 でもそれにしては強すぎる

 話し合い? 出来りゃ苦労しねえよ

 この世界は弱肉強食、弱いやつに権利なんてねえ。

 あれ? 平和とは?

 ……とにかく魔族は悪いやつなの!


 

「ふん、吸血鬼風情が何の用だ? お前には関係ないことだろ?」

「我を他の吸血鬼と同じと思ってもらっては困るな、その証拠に貴様の前に立ちはだかっておろう? 我は、ヴァンピール・ド・ヴェルジー! 平和を守る、真なる吸血鬼なるぞ!」


 決まった!

 何度やってもこれ決まると気持ちいいわ。


「ヴァンピールだと……お前が、王都を全壊させる作戦を阻んだ謎の吸血鬼、ククク、俺の運も向いてきてるじゃないか」

「ほう、我を見ても逃げ出さないとは、やはり魔族とは愚かだな」

「お前こそ、俺の姿を見て逃げ出すんじゃねえぞ」


 そう言うと男の全身が揺らぎ始めた。

 幻惑系の魔法か?


 今までいたカンフー風の男が、消え去り目の前には三本の角を生やし、腕や足にとげとげしい皮膚で体を守っている男が現れた。


[めっちゃ強そうじゃん]

[勝てんの?]

[魔族って言ったけど人間の敵?]

[それすなわちヴァンピの敵じゃん]

[やっちゃえー]

[魔族に人権はねえ]


 三本角って魔族の最上級じゃなかったっけ?

 復帰一戦目から重いって。

 ここはこうサクっと倒せる敵とかにしてもらえない?

 苦戦するのはもういいよ。

 最強の吸血鬼どこいったんだよ。



「三本角か、なかなかの大物がこの様な場末でコソコソと、魔族は姑息なことが好きなようだな」

「ぬかせ! これも魔王様の勅命、侮辱することは許さん!」


 激高した魔族が俺に襲い掛かってくる。

 単純なそのパンチが空を切ると、音が後からやってくる。


 つよっ! はやっ!

 まじでこいつ強い!

 なんでこんなやつがコソコソやってんだよ!

 もっとでかいことしろよ!


「所詮は吸血鬼、俺の敵じゃねえ!」

「お前こそ、たかが魔族ではないか!」


 俺達の殴り合いは続く。

 その皮膚は裂け、殴打した部分は赤く染まっていく。

 それを超人的な再生力で回復していく。


 ここは日光が届かない、そして夜。

 俺の力が存分に発揮できる場所だ。


「ちっ狭いな、一旦場所を変えてやる」


 魔族はそう言って天井に向けて魔力の塊をぶつける。

 穿たれた天井はぽっかりと穴が開き、月光が差し込んでいた。


「ついてこい! 吸血鬼」

「言われずとも」


 ひとっ飛びで外に出る魔族に、宙に浮きついていく俺。

 外に出ると、そこは都市から少し離れた平原だった。

 地下闘技場広かったんだなあ。


「いいのか? この夜は我の本領、勝ち目は薄くなるが?」

「いいんだよ、俺は!」


 魔族の男は手に力を込めて魔力を貯めている。

 芸がないなあ、何発打たれても効かないよ。


「はああああああああ」


 男の手に出てきた魔力の塊が一つ、また一つと増えていく。

 その数が十に達しようかとしていた。


[余裕だな、相手の攻撃待ってあげるとか]

[あれやばくないの?]

[いけるっしょ、だから待ってんだろ]

[全て受け止めて見せよう!キリ]



 なに俺は呆けてるんだ!

 余裕持ちすぎだろ!

 おい心のヴァンピ、お前は危機感が足りん。

 相手のすべてを受け止めるとかそんなこと考えなくていいんだよ。



「黙って見ていろと? それは無理な相談だな」


 俺は未だに増え続ける魔力の塊の増加を阻止すべく動く。


「もうおせえ!!!」


 魔族の男が数ある球の一つを俺に放ってくる。

 俺はそれを片手で弾く。

 いてえぇ。

 重いな、これ連発されるのは辛い。

 この数まで増やさせたのは完全に失策だな。


「その程度か、どこがお前に有利なのだ?」


 余裕を持って答えてやると魔族の顔ににやりと笑みが浮かんだ。


「ここからだよ」


 ドンと背中に衝撃が走った。

 なんだ!

 体が前方につんのめりうつ伏せに倒れる。

 急いで体を起こし、後ろを振り返るとそこには魔力の球。

 死角からの攻撃か?

 やっかいな。


 そう思っていると球が空中を自在に動き出した。

 それが一直線に俺に向かってくる。


「くっ」


 俺はそれを身をよじって躱し、態勢を立て直す。

 そこに溜まっていた球が次々と襲い掛かる。


 すべて直線的にくる球を、超人的な反射神経と肉体ですべてを叩き落とす。


「これが、お前のすべてか?」

「ここから、だよ!!」


 なんだ!?

 その余裕は、何を隠している。

 すると俺の後ろに嫌な気配を感じた。

 先程不意打ちを食らった感じだ。


「二度目はない!」


 後ろに振り返り目の前まで来ていた球を手で振り払う。

 そこで気付く。

 


「さあ、まだ戦いは始まったばかりだぜ」


 下に落ちていた球が宙に浮く。

 全方位を囲まれた俺に波状攻撃を仕掛けてきた。


[相手の攻撃めっちゃ強くて草]

[つえー]

[負けたらどうなるのこれ]

[勝って!]


「くっ」


 手数が足りない。

 俺は魔法を使いそれに対応する。

 自身を中心に風の魔力を練り上げ、竜巻のようなものを巻き起こす。

 一旦防御だ。

 風の膜を使い、相手の攻撃を防ぐ。

 しかしその程度は意に介さないのか、竜巻を突き破り球が飛んでくる。


 きつい。

 逆に視界が悪くなって対処しずらい。

 俺は風の魔法を停止し、その場から宙に浮く。


「中々の攻撃だが、我を相手にするにはいささか攻撃力が足りないのではないかな?」


 嘘でーす。

 精一杯虚勢張ってます。

 精神的に優位に立たないとね。

 あとあの包囲を抜けるには今のは中々いい判断だったかもしれん。


 一度浮いたことで相手の球は下からしか来ない。

 弾いても消えない当たり中々よく魔力で練られているようだ。

 じゃあこっちも本気でいかせてもらうよ!


「はああああああ」


 俺は魔力を練りあげ、同じように空中に炎の球を顕現させる。


「さて、どちらが強いか、試してみようではないか!」


 俺は相手の球に対して炎の球を迎撃させるようにぶつける。

 魔力の塊と炎は対消滅するように消えていった。


[あれ、また俺やっちまいましたか?]

[相変わらず盛り上げ上手だな]



「ばかな、俺の魔力量より上だというのか……」


 そうだよね、必死に練ってたけど、俺は結構一瞬で炎作っちゃったもんね。

 月夜で吸血鬼に挑んだ己の愚かさを恨むんだな。

 俺は魔族の前に降り立つ。


「それ、どうした? まだ何か手があるのだろう? よもやこの程度で終わりとは言うまい」


 勝ったな。

 俺は勝利宣言をして魔族の命を刈り取ろうとした。

 

 すると突然魔族が自分の心臓に手を突っ込んだ。


「我が命を持って命ずる。いでよ!異界の悪魔よ!!」


[異界の悪魔バーゲンセール]

[魔族ってすぐ悪魔呼ぶよね]

[やばくない?]


 またぁ!!?

 どんだけ好きなんだよお前ら。

 呼んでどうするんだよ。

 ここには都市程度しかないぞ、俺相手に過剰戦力じゃない?


 魔族の男が心臓を握りつぶすと、そこに魔法陣のようなものが浮かび上がる。

 そこから以前見た悪魔が再び顕在しようとしていた。


「もういいわ!! たわけ!」


 俺は完全に顕現する前にありったけの魔力を込めて 雷雲を呼ぶ。

 そこから雷を奴の頭上に向けて落とす。


「がああ」


 不完全な召喚中に攻撃を食らった悪魔がプスプスと焦げ付いた香りを漂わせる。


「二度とその顔を我に見せるな」


 俺は相手に何もさせず、相手の心臓を抜き取り、破壊する。

 いや、もうさ、やめよ?

 毎回毎回さあ、限度ってものがある。

 俺は平和に生きたいの? 分かるかなあ。

 あーあこれじゃあ賞金ももらえないし、掛け金もぱあ。


 でもまあいいか、力は戻ったし、また王都に戻ってチヤホヤされる日々に戻ろう。

 三本角の頭ももっていけばこれSランクもいけるんじゃない?


 俺はうきうきで魔族の首を刈り取りバックの中に入れる。


「配信を1分後に終了します」


[終わってみれば圧勝だったな]

[これ敵いる?]

[ヴァンピさんマジ強いっす]

[もっと苦戦してよ、前みたいに]

[いつ発売するのこれ]


 まあ確かに、三本角でもこの程度なら、魔王倒せるんじゃね?

 醜い人間同士の戦いが始まるかもしれんが、俺は出来る範囲で守ればいいし。

 ハッピーエンド? そんなもの簡単にできたら苦労しねえよ。

 俺のできる範囲でやらせてもらう。

 よし決定。


「ではな、皆の者、またいつか会おう」



「配信を停止しました」



 ふ~終わった。

 帝都まで行く予定だったけど、意味なくなったな。


「主!」

「ご主人様!」


 シルバー達とハクが心配そうに俺に向かってくる。

 無事だよ無事。

 むしろ余裕だったよ。


 ずしりとバックが重くなる感覚を覚える。

 今日も投げ銭ありがとうございます。

 大切に使わせてもらいます。


「さて、帰るか」


 都市の外の騒ぎを聞きつけた兵士達がこちらに来る前に、俺達は退散した。

 やはり夜はいい。

 吸血鬼といえば夜、夜と言えば吸血鬼。

 俺は軽い足取りで王都へと向かっていった。

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