第40話 眷属紹介、戦闘狂ハク(配信あり)

 少々過激な戦いを終えた闘技場は未だに騒めいている。


「いやまさかミルクがやられるとは」

「なに奴は四天王の中で最弱、力だけの男ですからな」

「しかしヴェルですか、今後に期待ですね」


 一般観客は若干引いてたけど、どうやら一部の好事家には好評なようだ。

 いきなりやらかして出禁とかいうことにはならなそうでよかった。


 俺は賞金と掛け金を貰いホクホク顔で宿への帰路についていた。

 よくわからない新人ということで俺の倍率は高く、予想外に多くのお金が出に入った。

 あと配信、やっぱこれがあると違う。


「私も、出たい」


 ハクが急にそんなことを言い出した。

 確かにハクは強くなっている。

 しかし別にわざわざ危険を犯してまだ出る必要はないんじゃないか?


「まあなんかあったら俺の回復魔法で回復できると、思うけど」


 さきほどの戦いで思ったより魔力が回復し、体も吸血鬼へと戻りつつある。

 まだまだ完全とは言えないが、あれくらいの強者と何戦かやれば元に戻れそうな予感があった。


 ミルク意外と強かったからな。

 タフネス差で言えば、人間状態のヴァンピとタメ張るんじゃないかな。


「無理はするなよ、危なかったらさっさと降参するならいいよ」

「ありがとう、ご主人様」


 ハクに眠る人狼ワーウルフの血ってやつか?

 意外と闘争本能高いんだよな。

 元気になってからは毎日組手を行っている。


 ハクはその攻撃をほとんど近接戦闘に注いでいる。

 魔力は身体強化に使い、俺が放つ軽い魔法なら防げるほどだ。

 徐々に強くなっていくハクに俺も期待を寄せている。


「俺もあと数試合やったら終わろうかな、賭けの倍率下がりそうだし」


 俺は対戦相手のこととか後のことを考えずに、ちょっとグロめな勝利をしてしまったのであまり人気は出ないだろう。

 あと恐らく強いであろうミルクを倒したことでマッチングする相手も限られてくる。

 あまり長居は出来そうにもない。


 当初の目的である軍資金をある程度稼げたら、また帝都を目指そう。


 そして次の闘技場の開催日である一週間後まで、シルバー達とハクには同じように都市周辺に蔓延る魔物を倒してもらい、俺は自身の強化と財宝目当てに野盗を捕まえまくった。


 これがいい収入源になるのだ。

 外れの日もあるが、人間相手に暴力をふるうことで力が戻っていく感覚に間違いはない。

 

 ……これヴァンピ知ってたかなあ。

 ヴァンピのことだから人間に無駄な攻撃とかしなさそう。

 大人しく回復するまでどこかに籠っていたのかな?


 俺はそんなの気にしないからガンガンいくけどね。

 もういなくなったかな? ってくらい都市の周りの野盗は狩りつくした。


 ハクとシルバー達も魔物を大量に倒したことで大分強くなった。

 まあ眷属なので俺に攻撃してこないから、いくらでも強くなっても構わないんだがな!

 寝首をかかれる心配もないし、そんな悪い信頼関係を築いていないと思っている。

 ほ~ら、モフモフ!

 この嬉しそうな顔、シルバーの周りにいるホワイトウルフも俺も俺もって寄ってくる。

 よ~しよしよし、今日はモフ日和だ。


 ハクもおいで、よしよし、頭についてる耳としっぽがキュートだねお前も。

 こんな幸せでいいのだろうか。

 俺はその日、ゆったりと眷属のみんなと過ごした。


 たまにはいいよね、こういう日もあって。

 なんだかんだ言ってヴァンピになってから完全な休みってなかった気がする。

 暇があれば人間助けに行くし、どっか移動してるし。

 まあ流れの吸血鬼だし?

 さすらってたって言えばその通り。


 だから今日は休み!

 英気を養うぞー。

 俺達は見晴らしのいい草原で日向ぼっこをしながら横になった。

 俺の体が人間のようになって唯一よかったのは昼間になっても全然だるくならないこと。

 別に前から日光は体が若干だるくなる程度だったので、日向ぼっこは出来たけど、そこには言いようのない微妙な感じがあった。

 例えるなら、すっごくうすめたサウナにいるような感じ。

 わかりずらいな、とにかくちょっと微妙だったんだよ。


 たまには人間も悪くないなと思いながらも、やっぱり最強の吸血鬼のアイデンティティを忘れたわけではない。

 俺は吸血鬼ヴァンピール・ド・ヴェルジーなのだ。

 そこは間違えてはならない。


「配信を開始します」

 

 デビアイちゃんがイベント発生の宣言をする。

 え? 敵襲来!?

 俺は周りを見渡す。

 敵は、いない。

 上か! いないぞ。


 俺は配信の意図が掴めないまま、流れるコメントを見る。


[ヴァンは~]

[今日は誰と戦うんだ?]

[あ、犬耳、獣人かな?]

[新しいキャラ増えてるじゃん]


 これはハクのお披露目的な?

 そういえばシルバー達も紹介してなかったな。

 敵もいないし、適当に進めておくか。


「今日も我の姿を見に来たのか、暇な奴らよ。今日は我が眷属を紹介しよう。よく見ておくといい」


[眷属というなのペット]

[モフモフ多くて草]

[かわいい~]

[これ用意するのにどれだけ金つっこんだ…]


 無料だよ!

 ここ異世界だからね。

 多分皆これ3Dアバターと勘違いしてるよね、そんな感じする。

 まあここ異世界だよって言っても、はいはいそういう設定ねとしか思われないし、必死に弁明する必要もないんだけど。


「こやつはシルバー、我の最初の眷属でありフェンリルである。その他の狼はホワイトウルフだ。そしてこの獣人はハク、人狼ワーウルフの力を引いている」


 眷属達を紹介しつつ、その場模擬戦のように戦わせたり、どれだけモフモフしているのか確認したりした。

 ハクとの戦いは結構白熱した。

 あれ?思ったより強くなるの早いな。

 飲み込みがいいのか、このままじゃ追いつかれちゃうよ、今の俺。


[眷属の定番だね、吸血鬼って感じ]

[モフモフしてる~どんな技術だこれ]

[ハクちゃん可愛い]


「配信を1分後に終了します」


 まじで眷属紹介だけかよ。

 ほんとに配信のタイミングが分かんねえよ。

 まあこれで後で見返す人がいれば無駄な紹介も減っていいか。

 俺も自慢の眷属を紹介できたし。


「それでは、今日は短いがここまでだ。またいつか会うときもあろう」


[ヴァンつ~]

[短かったな]

[ちょっとした紹介だった]

[次はバトル期待]


「配信を停止しました」


 いつも俺を影から、実際には堂々と見ているデビアイちゃんから機械的な返事がくる。


「ご主人様~、最近構ってくれなくて寂しいです~」


 朝はいつも起こしてもらってるだろ。

 まあ今までヴァンピと二人きりだったからな。

 嫉妬かな?

 可愛いやつ目。


 色々なことを考えていたら、いつの間にか日が落ちはじめ、太陽が沈もうとしていた。

 明日は闘技場の開催日、どんな対戦相手が組まれるのか、倍率はどうなっているのか。

 色々な不安はあるが、俺の力の回復に一役買ってもらおう。




 闘技場開催日の夜、俺はいつもの酒場に入り闘技場へと足を踏み入れる。

 今日も元気に中心では殴り合いが起こっている。

 元気だねえ、今日はハクも出るからあんまり痛いことしないでね。


「それじゃあ行こうか、ハク」

「はい」


 前回と同じ轍を踏まないように、事前に対戦の申し込みは済んでいる。

 対戦相手の情報は秘密らしいが、あのミルクを倒したのだ、ある程度の強者を用意してくるだろう。

 

 控室で待っていると先にハクが呼ばれた。


「頑張って来いよ、あと殺すなよ」

「はい」


 ハクは熱中するとちょっとやりすぎるきらいがある。

 対戦相手の無事を祈っておこう。


 かすかに、入場のアナウンスが聞こえる。

 俺は控室から出て、闘技場に続く廊下からハクの戦いを見守る。


 対戦相手は普通の大人くらいの大きさで、体は、鍛えられている。

 まあこんなところにくるのにだるだるのおっさんが来るわけがない。

 それに帝国は国民全員が戦士といってもいいくらい、兵役があるわけだし。


 それに対するは身長150センチくらいの小さな少女、相手の侮った顔が見える。

 ふふふ、驚くといい。

 人は見た目によらないということを。


 試合を始める合図がなる。

 相手はハクの攻撃を待つように余裕で構える。

 そんな相手を冷静に見極め、ハクがフットワークを生かして左右へと素早く動く。

 狭い闘技場の中を目で追うのが精一杯の速度で動くハクに、相手も気を引き締め直したのか、腕を上げガードの姿勢をとる。


 そこにハクの右ストレートが空いた腹に直撃する。

 相手片膝を付き、腹を抑えている。

 そこに容赦なくハクの膝蹴りが相手の顔面に直撃する。


 そのまま相手が後ろに倒れた。

 ハク強い。

 勝ったか、と思っていたら気絶している相手をハクが殴り続けていた。


 それはダメだよ!

 すかさず審判が止めに入ってようやくハクの攻撃は止まった。


 こちらを向いて可愛く笑うハクの顔には可愛くない相手の返り血で染まっていた。

 うーん、バトルジャンキーだったとはね。

 今後は気を付けて扱うことにしよう

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