第36話 人狼の少女
シルバーに乗って帝国へ向かう途中、なにやら戦っている音が聞こえてきた。
本当は戦いたくないなあ、でも心のヴァンピなら助けるんだろうな。
俺は音がする方にシルバーを向かわせた。
向かっているうちに音は小さく、なくなっていった。
俺が到着した頃、目の前には多数の死体にオークに攻撃されてボロボロになった馬車、数体のオークがこちらを向いていた。
「生存者は、なしか」
俺はシルバーに攻撃を命じると、目の前のオークに向かって剣を取り出した。
「今の俺がどこまでできるか試させてもらおう」
以前はオークなど吸血鬼の姿になれば殴殺出来た相手だ。
でも今の俺では?
最悪シルバー達に助けてもらうとして、その実力を確かめておきたい。
俺は剣を構えてこちらに襲い掛かってくるオークを見据える。
オークの棍棒が振るわれる、それを剣で軽くいなして、反撃で切りつける。
剣は腹の真ん中くらいまで入り込み、それなりに深手を負わせる事に成功した。
俺の攻撃でダメージを負ったオークはその場で膝をつき悲鳴を上げる。
俺はその首に向けて剣を振り下ろしてオークを倒した。
「なんだ、この程度か」
完全にボコボコに無双できるほどではないが、一対一で遅れを取るような相手でもない。
これならBランク冒険者くらい名乗ってもいいんじゃないか?
シルバー達も狩りを終え、こちらに向かってくる。
改めて生存者を探すために周りを見る。
明らかに臓物が出て息絶えてる死体、脳漿がはみ出ている死体、お腹のあたりが潰れている死体、死体死体死体。
ヴァンピになったからか、精神的なそういうのは耐えれるけど流石に滅入る。
馬車の方には誰かいないかなっと、余り期待せず壊れた車輪をどかす。
「誰かおるか?」
返事はない。
やはりダメか、俺はその場を後にしようとした。
「―――――て」
ん?
誰かしゃべった?
「たす…けて」
いるじゃん!
生存者発見!
よかったあ、誰もいなかったりしたらすごく悲しかったよ。
俺は急いで声の主を探す。
馬車をどけて中の様子を探る。
そこには檻の中から手を伸ばす人間の姿があった。
「今助ける」
俺は檻の南京錠を剣を使って壊すと、倒れた檻の中からその少女を引きずり出す。
髪の毛は真っ白で頭に狼のような耳がついている。
目が赤と白のオッドアイの少女だった。
「お主、名前はなんという」
「名前は、ない、おいとかお前としか、言われたことない」
話を聞くと、どうやら物心ついた時からずっと奴隷として働かされていたらしい。
こんな幼気な少女を、許せんな帝国。
しかしどうしたもんかね、生存者はこの子一人。
このまま置いていくことも出来ない。
それに何故檻の中に入れられていたのかも気になる。
奴隷だから逃げられる心配でもしてたのかな?
その理由はすぐに分かることになる。
馬車から離れ少女、ハクと名付けた子をシルバーの背に乗せ帝都を目指す。
日も暮れてきたので近くで野営を取ろうと準備をする。
ちなみに彼女の栄養状態が悪かったので、アミゾンギフトで送られてきている食料を渡して食べさせた。
食べ方が分からないゼリーとかは、こうやるんだよって食べさせてあげた。
知らない味でびっくりしたようだが、ぺろぺろと舐めるように食べていた。
可愛い。
汚れた体も生活魔法のクリーンで浄化してあげた。
服は馬車の付近で汚れの小さい布を持って着て被せてあげている。
ちょうどいい大きさの服がないので、どこかの街で買おうと思う。
「プチファイア」
そうやって焚火をつけて夜を迎える頃、突然ハクが苦しみだした。
「ああああああ」
なんだなんだ!?
異世界の食事が合わなかったか?
それともよくわからない状況に発狂してしまったか?
俺のそんな心配をかき消すかのように、彼女はその体から白い毛を生やし、牙をむき出しにする。
目は血走り、今にでも襲ってきそうだ。
以前襲ってきた吸血鬼の眷属にもいた。
それに比べると随分人間の部分が残っているな。
腕と足に狼のような毛が生えているが、顔は人間のままだし、いや獣人のまま?
なんか中途半端だ。
「がああ!!」
俺がそんな考察をしていると、鋭くとがった爪を使って俺に襲い掛かってきた。
俺は剣を掴み、その攻撃に対応する。
完全に正気を失っている。
自分で制御出来ないのか?
「主、どうしますか」
周りには警戒しているシルバー達、彼女を殺すことだけなら簡単だろう。
しかし折角助けた手前、殺すのは忍びない。
よし! 気絶させて縛っておこう。
俺は剣を置いて、また俺に向かってくるハクを正面から迎え撃つ。
「主!」
シルバーが叫ぶ。
大丈夫、俺は何度も食らっているが、この体なら出来るはず。
俺の顔を狙ってきたハクの右手を躱し、それを絡めとって背中に担ぐ。
「これが、一本背負いだ!」
ハクが俺の背中を中心にして一回転してその場に叩きつけられる。
受け身も取れずに頭をぶつけた彼女はそのまま意識を失ったように思う。
「大丈夫、だよな。
「主、落ち着いて。息はしています」
確かに。
よかったあ、回復魔法もいまいち上手く使えないし、心配だったよ。
でもいい方法も思いつかなかったし最善手を取れたと思おう。
俺はバックから縄を取り出し、後ろ手にハクを縛りその場に置いて眠りについた。
朝、目が覚めると、正気を取り戻したであろうハクが俺が目を覚ますのを待っていた。
「おはよう、ございます」
「ああ、おはよう」
俺は昨日あったことを話した。
人狼に《ワーウルフ》になり、俺に襲い掛かってきたこと、それを撃退して気絶させたこと。
それについてハクは口ごもった。
たまに自分が目を覚ますと、近くにいた仲間や人が傷ついていることがあること。
それによって折檻を受けて、檻の中によく入れられていたということ。
変身するのに何か条件があるのかな?
確実なのは夜になると正気を失ってしまうこと。
毎夜なのかはまだ分からないのでしばらく、外で暮らすことにしよう。
俺はハクの今置かれている状況を確かめるため、しばらくここを拠点に駐留することに決めた。
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