第35話 ハッピーエンドとは

 ヴァンピとして、吸血鬼として変身できなくなった俺は、王都ではない隣の帝国へと向かっていた。


 別に王国にいてもよかったけど、なんか持ち上げられてAランクだからなんでも出来るっしょって感じで駆り出されたらたまったもんじゃない。

 その点帝国における冒険者ギルドの扱いは悪い。


 帝国はその軍事力をもって、世界を支配せしめようという国だ。

 なので自前の戦力で大体のことをこなしてしまう。

 帝国は国民皆兵を取っており、そこらの農民ですら有事では駆り出される。


 あと奴隷が正式に認められている唯一の国でもある。

 隣国である王国とは折り合いが悪く、魔王が倒されたら次は人間同士の戦争が始まってしまう予感がある。


 実は魔王って必要悪?

 でも魔族は結構好き勝手やってきたし、何が正解なんだ?


 ヴァンピですら手が出せない魔王なのか、敢えて手を出していないのか。

 多すぎるヴァンピの記憶からは抜き出すことは出来ない。

 いつもみたいにその現場に立たないと記憶として掘り起こすことは出来ないようだ。


「主よ、今日はどうするのだ」


 俺はシルバー達を連れて近くの農村へと足を運んでいる。

 俺はAランクの冒険者だけど、その実績はフェンリルをテイムしただけで、俺自身は強くないよって体で行こうと思っている。


 それはそれであいつ弱そうだから締めちゃおうぜって輩が出てくるかもしれないけど、弱体化しているとはいえそこは最強の吸血鬼(仮)のヴァンピだ、Bランクくらいの強さはあるだろう。

 あるよな!?


「適当に泊めてもらおうか、冒険者って帝国だとどんな扱いを受けてるかは知らないけど」


 俺は適当な家の扉を叩き、中にいる人を呼ぶ。

 出てきたのは恰幅のいい女性だ。


「失礼、不躾で済まないが、どこか泊まれるところはないかな」

「あんた誰だい? ここらはよそ者を受け入れるところはないよ」


 バタンと戸を閉められ、俺は立ち尽くした。


 へえ~そうくるか。

 あれね、王都の付近の人達が優しかっただけで、一般的な世界ってこんなに冷たいんだ。

 どっちにしろ、あまり期待しない方がいい。

 しょうがない、モフモフシルバーを使って野宿をするか。


 俺は日も暮れてきたので、近くの森に入り適当な枝を集め火をつける。


「プチファイア」


 問題なく使える生活魔法に少し安堵する。

 魔力が上手く練れなくなってからしばらく、ようやく慣れてきた。

 それでもまだぎこちなさは残るし、最強の頃に比べれば随分魔力量が落ちた気がする。


 元々が強大すぎて限界というものが見えなかっただけで、これでも充分だとは思う。


 俺は夜盗に警戒しながら、シルバーの腹に頭を乗せ眠りにつく。

 人間の体になってから、そこそこ丈夫程度になってしまったので、休憩は欠かせない。

 でもシルバー達が弱体化してないのは朗報だった。


 フェンリルかは置いておいて、そう思うだけの強さはある。

 魔物を屠ることでその存在力は上がってゆき強くなる。戦えば戦うほど強くなれる、まるでゲームみたいだな。


 だから勇者みたいなやつが戦闘を繰り返して強くなって魔王を倒すんだろうな。

 それで魔王を倒した後、平和になった世界で疎まれるか英雄として使い果たされるか、碌な未来が待っていなさそう。


 物語ってハッピーエンドで終わるけど、その後の話って大体悲惨なことが多いよな。

 明言されていないだけでさ。

 例えばシンデレラ。

 あれ下町の女が王子に見初められて結婚するけど、貴族社会で通用するの?

 そういう教育受けるだろうけど、厳しいだろうし、なんか遠回しな嫌味とか迂遠なことしてくるやつらもいるだろうし、その度に王子に泣きつくってか?

 そんな国に未来があるとは思えないね。


 じゃあこの世界のハッピーエンドってなんだ?

 俺は俺が幸せならよかったけど、心のヴァンピはそれを望んでいない。

 一生自分の手が届く範囲を救い続けるのか?

 それで解決したってことになるのか?

 違うだろ、それはただのその場しのぎ。

 根本的な解決にはならない。

 ならどうする……。

 うーん、わからん。

 異世界歴半年程度で分かるなら苦労はしないか。


 そもそも人生とは何か並みに難しい問題だ。

 一生かかっても見つからないかもしれない。

 それでも俺は今日も前を向いて進み続ける。

 とりあえず、目標は帝都!


 俺は優しくない村人達とやり取りをしながら帝都を目指した。


 移動はシルバーの背に乗った。

 俺が走るより早いし、何より楽だ。


 三週間くらいたっただろうか、帝国の関所と思われるところが見えてきた。

 俺はここでも通用する冒険者カードを取り出す。


「ヴァンピか、その魔物はテイムしてあるのか。間違っても人を傷つけるなよ、その時点で両者とも死刑だ」


 こわっ、ていうか扱い雑。

 帝国ってこんな感じなのかなあ。

 俺上手くやっていけるかな?

 自信なくなってきた。


「すまないが、帝都までここからどれくらいかかるかな?」

「帝都か?歩きじゃ二ヶ月、馬車で一ヶ月ってところだな、お前のテイムしてる魔物がどれくらいの速さかは知らんが、急げば一ヶ月より早く着くんじゃないか?」

「そうか、感謝する」

「へいへい」


 結構あるな、転生してきた時もそうだったけど、この世界広さの割りに移動手段少なすぎ。せめて鉄道くらい走っててくれよ。移動で時間潰しちゃうよ。


 車があればなー、作るか?

 なんかこう魔工学的なやつ、無理無理、俺にそんな知識ないし。


 ドラゴンでもテイム出来ればいいかもなあ。

 ドラゴン、いるのかなあ。ワイバーンいるならいるかも。


 いたところで俺の下に着くかと言われれば別だけど。


 しょうがない、今日もまったりと行きますか。

 俺はシルバーの背に乗って帝都へと向かって帝国内を進み始めた。

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