第33話 代償
「お……ヴ……! し……ろ!!」
誰だ、うるさいなあ。
俺はまだ眠いんだ。
寝させてくれ。
「おい! ヴァンピ!! 起きろ!目を覚ませ!!」
俺?
俺のことか?
俺は呼ばれていることに気付き、目を開ける。
「よかった、お前は無事で」
俺を見ている男はなんとなく見覚えのある顔だった。
俺は現状を確認する。
「無事……?そういえば我はどうしたのだ?」
「覚えてないのか? さっきまで悪魔と吸血鬼が戦っていて、悪魔の展開した
何の話だ?
悪魔? 吸血鬼?
ああ!
俺だ!!
さっきまで戦ってたじゃん!
何ボーっとしてるんだ!
あいつは? 倒せたのか?
「だから全部消えちまったよ。上空で何か爆ぜたと思ったら、そこには悪魔も吸血鬼の姿も見えねえ。とりあえず助かったと思っていい」
「我は……いやここはどこだ?」
「ここは城の近くの地下水道だ。今、王都中が混乱していて、軍の人達が誘導と被害状況の確認を行っている。俺は軍の人がいたはずの場所に空いた穴、そして吸血鬼が出てきた穴の中の探索を行っている。そしたらお前がここに倒れていたんだ」
お前は、確かワイバーン討伐の時のリーダー。
名前知らないからリーダーと呼ばせてもらうけど、そうか。俺は倒したのか。
未だに現実感が湧かない。
頭もくらくらするし、体も重い。
というか今吸血鬼の姿じゃないのか!?
「我を見て、何も思わないのか……?」
「ああ、ひどいけがだ。全身ボロボロだし、一体何があったんだ?」
そりゃ悪魔と戦ってましたけど。
見てたんだよね?
なんか話が合わないな。
俺は自分の体を確認する。
衣服は、何も着ていない?
馬鹿な、魔力で練った服があるはずだ。
牙は、生えていない。
これは、人間の姿か?
俺は近くにある水溜まりに向かい、自分の顔を確認する。
うん、人間のヴァンピだ。
何故かは知らないが、吸血鬼から人間に偽装されている。
そんな余裕あったか?
悪魔との戦いで、最後に相手の心臓を潰して、確か
俺にも致命傷が合ってもおかしくないはずだが、この程度の傷で済んでいる。
真の姿ってつえーな。
しかし、何やら体がおかしい。
魔力が上手く練れない。
身体能力が落ちたか?
これが代償ってやつか。
まあこの程度なら安いってもんよ。
皆が助かったしな。
そういえばその前に魔族と戦ったな。
これを手土産に何か褒美を貰おう。
俺は魔族との戦い、そして魔族によって悪魔が召喚されたことを話した。
なんで俺がそんなところに出くわしたかだって?
たまたまだよ、たまたま。
「これは、確かに魔族の角……。お前すげえな、倒しちまったのか」
「なに、我にかかればその程度の相手、物の数にも入らん。しかし召喚を許してしまったのは我の落ち度だ」
「何言ってんだ、魔族相手に生きて帰ってこれただけでも十分だよ。それも倒しただなんて、こりゃ表彰もんだな」
まじ?
魔族ってそんな脅威なんだ。
確かにそこそこ強かったけど、ヴァンピなら余裕だったよ。
とりあえず、裸のままじゃまずいなと思い、人間用の服をバックから取り出す。
それを着て地上へと上がる。
日光が眩しい、でもだるくないな。
むしろ気持ちがいい。
太陽の光が気持ちいいなんてまるで人間みたいだな。
その後俺はリーダーと共に冒険者ギルド本部に行き、事の顛末を報告した。
その話は軍、ひいては国に伝わり、俺は王都の危機の対処に当たって、魔族を倒したことを表彰されることとなった。
これは、ついにSランクへ行けるか!?
俺はウキウキ気分になりながら、街を散策した。
そしてその気分はすぐになくなってしまった。
悪魔の攻撃によって崩れた建物、瓦礫を必死にどかし、救助しようとするもの。
凄惨な光景がそこには広がっていた。
俺も手伝おう。
少しでも人助けになるなら。
そう思い、一緒に瓦礫を運ぶのを手伝う。
こういうとき魔法が使えればいいんだけど、さっきから土魔法が上手く使えない。
仕方ないので力仕事をしようと、瓦礫を運び出す。
重いな。
あれ、ヴァンピってもっと力あったよな。
魔力が練れないせいで身体能力まで落ちたか?
そこそこ鍛えてあるから、そこらの冒険者くらいの力はあるかもしれないが、ヴァンピとしての能力に制限が掛かったように感じた。
代償地味に重くない?
これは辛いな。
俺は必死に瓦礫を運び、その日の作業を終えた。
自分の家に帰り、体を休める。
今夜の警戒はどうしようか。
さすがに、いやこういう時だからこそ火事場泥棒が出てきかねん。
平和を守る真なる吸血鬼ヴァンピール・ド・ヴェルジー、今日も参上してみせよ。
俺は
あれ?
出来ない?
おかしいなもう一度。
俺は
まさか、俺は今吸血鬼ではない!?
夜中なのに体に湧き上がる力がない、むしろ疲れていて眠い。
完全に人間だこれ……
まさか代償って人間になるってこと!?
いやいや、まさかそんな。
そのうち治るよな。
とりあえず今日はもう寝よう。
明日起きたら治ってるかもしれないし。
「じゃあおやすみ、シルバー、メイちゃん、デビアイちゃん」
俺は自分の仲間たちに挨拶をして眠りについた。
あれから一週間経った。
今日は王様のところで表彰される日だ。
あの日から俺は完全に吸血鬼としての能力を失っている。
弱点もなくなっているが、それ以上にきついのが、力が戻ってこないことだ。
今までは、でもヴァンピだからどうにかなるっしょが通用した。
このままではまずい、Sランクどころの話じゃない。
Bランクですら勝てないかもしれない。
どれほど自分の力が落ちたのかもわからず、俺は不安な日々を過ごした。
そして式典の当日、王様のいる偉そうな部屋で称賛の言葉と共に褒美が与えられた。
ありがたいけど、今の俺がそれ貰うの怖い。
野盗に狙われたら負けるかもしれない。
怖い怖い怖い。
一刻も早くここから去りたい。
そう思っていると、横からお姫様が出てきた。
!?
あれ、前城の関係者って言ってた子じゃん。
関係者どころか王族だったのか……
まあ今の俺には関係ないけど。
そう思っていると、姫様がこちらに歩いてきた。
なにかな?
直々にお言葉とか承る感じか?
姫様が誰にも聞こえないような小さな声で俺に語り掛ける。
「吸血鬼さん、ありがとうございます。皆を、民を守ってくれて」
ん?
なんて言った?
吸血鬼さん???
何を言ってるんだね、俺は健全な冒険者ヴァンピだぞ!
「あまりそういう冗談は好かないな、ほら、
「私、誰にも言ってないんですけど、人の魂が見えるんですよね」
「はあ?」
「貴方の魂は、肉体と随分歪にくっ付いている。まるで後から無理矢理固定したみたいな。こんな魂をしている人を、私は一人しか知りません」
この感じ、完全にバレている。
どうする、今の俺は無力なただの冒険者、本当に無力だ。
「安心してください。何も言いふらすために教えただけではありません。この度は感謝の言葉を述べさせていただきたく、この様な形を取らせていただきました。二度目、ですからね、貴方に救われるのは」
だから以前ってどこだろう?
姫様、姫様、姫様……
あれだ! メアトリクス様? だったか
馬車が盗賊に襲われていた時に隊長が言ってた!
まあそんなこと今更思い出しても意味なんですけど。
俺達はずっとすれ違ってたってこと。
「気にする出ない、当然のことをしたまでだ」
「はい、そうですね。貴方はそういうと思っていました。それでは」
言いたいことだけ言ってメアトリクスは去っていった。
なんだったんだ。
でも正体ばれてるかあ。
ちょっと王都には居づらいな。
力も戻ってこないし、ちょっと遠くへ行きますかね。
シルバー達もいるし、むしろ守ってもらおう。
そうしよう。
家は留守にしちゃうけど、ごめんねメイちゃん。必ず帰るから!
俺は表彰式を終えると、残りのパーティーに参加して、二次会の誘いを断り家へと帰った。
そしてメイちゃんに事情を説明してしばらく王都を離れることにした。
目的地は決まっていない。でもシルバー達とそこそこの腕がある俺がいる。
俺の人生は行き当たりばったり、流れに身を任せて進んでいく。
今日も漂う風のように、流れの人間として旅に出るのであった。
次はどんなことが起きるのかな!?
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