第32話 真の姿(配信あり)
俺の体が闇に包まれる。
辺りが暗い。
まるで虫の繭の中にいるようだ。不思議な感覚だ。
周りを見渡すが何も見えない。
その中で俺は自身に溢れ出る力を感じていた。
なんだこれは、今までに感じた事の無いものだ。
これなら、あの悪魔だって倒せる。
そう確信できるだけの力を俺は感じていた。
視界が解ける。
繭のようなものが剥がれ落ちていく。
俺の目の前には赤色の悪魔。
そして新たに変身した俺の姿を確認する。
それは全身をぴっちりとした黒のボディスーツのようなもので隠し、マントはなく、いつもの仮面をつけ、シルクハットの帽子をかぶっている。
もちろんすべて黒だ。
[変身!]
[微妙にダサくて草]
[草]
[草]
[笑うなよ]
[草]
うん俺も同意見だ。
若干ダサいよ。
でも人の服装を笑うのは感心しない。
それにこの服装、力が漲ってくるし、太陽の光による熱さも感じない。
今の俺なら神だって勝てるだろう。
初めて真夜中で吸血鬼の力を感じた時のような万能感が俺を包んでいる。
俺は負けない。
否、負けるわけにはいかないのだ。
この姿を晒しておいて負けるなんて許されない。
心のヴァンピがそう叫んでいる。
俺は叩きつけられた城の屋根を蹴りだし、宙に浮く悪魔へと向かっていく。
「その珍妙な衣装で、何か変わる――――っ!!」
「言ったであろう?真の姿だと、今までの仮初の我ではないのだよ!」
どうだ!
これが俺の、俺達の力だ!
俺の貫き手が、悪魔の左太ももに刺さる。
魔法は効かなくても、攻撃は通る。
俺は何度も蹴りやパンチを繰り出していく。
悪魔もさすがに最初は面食らったか、攻撃を食らってしまったが、その後は必死にこちらの攻撃を防御してくる。
だが戦闘力の差は明白になってきた。
[真の力強すぎ]
[バランス壊れてて草]
[悪魔必死じゃん]
[こりゃ勝ったな]
皆、安心して見ててくれ。
今からこいつを倒す!!
「これほどの力、何を代償にした!?」
焦るように質問する悪魔。
代償?
そんなのあるわけねえだろ
そんなのあるの?
ねえヴァンピ教えて。
……あれ?答えてくれない。
もしかしてなんかあるの!!
ねえ!!
教えて!!!
ひどく不安になった俺は取り乱し、悪魔の右ストレートを食らってしまう。
いてぇ、でももう吹き飛ばされないぞ!
俺は悪魔から少し飛ばされる程度で済み、離れたので魔法をお見舞いする。
この姿なら魔力も潤沢だ。
存分に食らうといい!!
俺は手に力を集中させて、悪魔へと雷を落とす。
強力なその攻撃は悪魔に幾分かの手傷を負わせることに成功した。
勝てる。
このまま戦い続ければ問題なく勝てる。
俺は希望を見出した。
真なる姿がどれほど持つのか分からないが、これならいける。
俺は傷ついた悪魔にさらなる魔法をお見舞いする。
俺がよく使う風の魔法をお見舞いする。
見えない風の刃が悪魔を切り刻んでいく。
「ぐおおおお」
[効いてる効いてる]
[あと少しじゃん]
唸る悪魔。
効いている。
通用する。
俺は今優勢に立っている。
守勢に回る悪魔を相手に俺がそう思っていた時、悪魔が我慢ならないといった感じで言い放つ。
「遊びはここまでだ。もう十分だろう?我が
悪魔が頭上に展開していたそれを、王都に向かって振り下ろし始める。
[あ]
[あ]
[あ]
[あ]
[やべ]
[あ]
無慈悲なコメントが流れる。
そうじゃん、そんなの展開してたじゃん!!
「やめぬか!!」
俺は叫んで、悪魔へと攻撃する。
俺の貫き手は奴の心臓に入り、致命傷を与えたと、そう思った。
「ククク、もう遅い。すでにこれは我が手を離れた。王都に落ちればすべての恐怖は俺に返ってくる、その力をもってお前も倒して見せよう」
巨大な光の玉が落ちてくることへの市民達の恐怖か、なにかは分からないが、悪魔は急速に回復していく。
俺の手はそれに弾かれるように抜けてしまう。
止めなければ。
王都には落とさせない。
カッコつけてるんじゃないよ。
俺が止めて見せるよ。
俺は落ちていく、
重い、それに熱い。
手に纏ったボディースーツは焼かれ、皮膚がむき出しになって直接光を受ける。
いたい!
焼ける!!
身に纏った装備は無事だが、全身の皮膚が沸騰していくように感じる。
痛い痛い痛い!!!
どうやって押し戻すんだこんなの。
いくら俺が最強の吸血鬼だからって限度があるだろ!
こんなやつ呼び出せるなら人間勝てないよ、魔王の勝利だよこれ。
ああ、その為の勇者か。
所詮俺は闇に潜むただの吸血鬼。
世界の主役ではない。
ここで皆と散る。
そういう運命だったのかな。
[これはきつい]
[流石に終わったか]
[草]
[諦めないで!]
[負けるなヴァンピ!]
……違うぞ、それは違う。
ヴァンピならこんなことで諦めない。
俺には使命がある。
吸血鬼を一人残らず殺し、人間達の平和な生活を守ると。
例え疎まれようとも、蔑まれようとも、それだけは命に代えてでも守れねばならぬことだ。
心のヴァンピが叫んでいる。
お前はこんなものか。
この程度、我なら造作もないことだと。
俺は思い浮かべる。
王都にいる人達を。
ダンショウさん。
初めは成り行きだったけど、俺に親身にしてくれるいい人だ。
ノーズ
いつもお前は皆の為に冒険者として活動していたな。
宿の主人。
強面だけど、俺を気遣う優しい人だった。
ゲイル。
お前はまだ王都で冒険者として頑張っているんだろう?
貴方のまっすぐな思い、学ばせていただきました。
Bランクには上がれたか?お前ならいつかあがれるだろうよ。
お前のことはちゃんと報告しといたから、降格されとけよ。
そして今まで助けたすべての人。
これからも守っていくであろう人間達。
そのすべてを失うわけにはいかない。
俺は両の手に力を込めて
「馬鹿な、たかが吸血鬼風情が、俺の最大魔法に対抗するだと」
馬鹿だなあ、たかが吸血鬼?
何言ってんだ。
俺を誰だと思っている。
「我はヴァンピール・ド・ヴェルジー! 平和を守り、そして全ての悪を切る、真なる吸血鬼なるぞ!!」
俺は両手に力を込めて、思いっきり
「その悪逆非道な行為、その身で受け取るといい!!」
「なんだとおおおおおおお」
[逆転だ]
[神展開]
[いけえええええええ]
回避は不可能。
逃げられるとお思いで?
必死に逃げようとする悪魔に
「俺が、こんなところで、負けるはずがないんだよ!!!」
そう叫ぶ悪魔が両手を向けて
俺はその後ろを取り、相手の心臓を後ろから掴み、答える。
「さらばだ、魔界の悪魔よ。二度と現れるでないぞ」
そう言って心臓を破壊し、
「配信を1分後に終了します」
デビアイちゃん、最後まで見てくれてありがとう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます