第31話 平和を願うもの(配信あり)

 いたた。

 俺は魔法陣が大きく光ったかと思うと、何かが地上に向かって飛び立つのが見えた。

 地面を軽々と突き破ったせいで、俺は生き埋めとなった。


 これ死ぬよ?

 死因。酸欠。

 いやあああああああああ。

 そんな終わり方ってないよ。

 

 せめて華々しく散らしてくれ。

 そもそも散りたくない!!

 生きだい!!


 俺が涙目になっているといつもの声が聞こえた。


「配信を開始します」


 デビアイちゃんはいつも通り俺を見ている。

 ここでえ?

 俺暗闇の中で生き埋めになってるだけだけど。

 死ぬ前に遺言でも残せってか?

 ふざけんな俺はこんなところで死なないぞ。

 目にもの見せてやる!


 デビアイちゃんは、無事のようだ。

 相変わらず俺の後ろで虚ろなまなこで俺のことを見ている。


 そして目の前の配信画面にコメントが流れ出す。


[ヴァンは~]

[めっちゃ暗くね]

[今日は何倒すんですか]

[ワイバーン弱かったしなあ]

[エンデルリング?]


 暗くて何も見えねえよな。

 俺は魔法で明かりをつけ、いつもの挨拶を行う。


「今日も我の姿を見に来たのか、暇な奴らよ。今から……今からここから脱出してみせよう。よく見ておくといい」


[え、捕まってるの?]

[脱獄かよ]

[ついに捕まったか……]

[草]


 冤罪だよ!

 これは埋まってるんだから、決して罪を犯したわけじゃないよ。


「これは先程魔族との戦闘にて起こったことだ。なにやら悪魔を召喚し、その衝撃で我は埋まっているだけだ」


 そうそう。正義の吸血鬼ヴァンピが捕まるわけないでしょ?

 ……不法侵入とかしたな。

 捕まるかも。

 今はいい、そんなことより脱出だ。


 俺は魔法を使い、目の前の土を掘削する。

 とりあえず目の前を掘っていて不安になったので、デビアイちゃんに透視を頼む。


「デビアイよ、そなたの真実を写す瞳で、周囲を確認してくれまいか」

「了解です~」


 カメラとなっているデビアイちゃんがぐるりと周囲を見渡す。

 視界共有している俺に先程の女性たちの遺体が見えてくる。


「あちらか」


[なんだこれ]

[新しいな、変な視界だ]

[どんなギミック?]


 俺は見当違いのところを掘削していたので、遺体の方に向かって穴を掘る。

 俺の予想が正しければ、先程召喚された悪魔が、上へと突き破って穴を開けていると考えている。


[メインクラフトかな?]

[ゴリゴリ削れるな]


 土を魔法で掘削して、出てくるがれきを地面を這わせて後ろに排出する。

 一人バケツリレーをしている感じだ。


 しばらく掘り進んでいると、光が見えた。

 ようやくか、俺は最後の土を蹴破ると先程まで魔族のいたところへ辿り着いた。


 女性達は、やはり死んでいた。

 遺体と言ってはいたが、少しばかり期待していたのだが。

 そして魔族、息はしていない。

 俺は討伐の証明になるかと、その一本角をへし折り、バックの中へと入れた。


[死人の角折ってどうするんだ]

[なんでもバックにいれるな]


 うるさいなあ。

 お前らはこっちの常識知らないだろ?

 こういうのが必要なの!


[草]

[草]

[草]


 草をはやすな。

 うっとおしいんだよ、画面が埋め尽くされるからやめろ。


 俺は上を見上げる。

 王城がよく見える。

 そうだな、ここは王城近くの地下水道だったか。


 ん?何かが上にいる。

 魔界の悪魔か?

 うわこわっ、真っ赤じゃん。

 返り血あびてそうなったのかな。

 俺が観察していると、その悪魔と思わしき生物が叫んでいる。


「虫の様に這う人間達よ、聞くがいい!今からこれを王都へと放つ。これは太陽の化身、もがれた翼ミニビックバンだ。ああ、安心して欲しい。王都からは逃げれない。結界を張らせてもらった。存分に恐怖したまえ」


 なんだと……。

 結界魔法まで使えて、そんな威力のある魔法まで放てるのか。

 ちょっと強そうだな。

 ええい、しかし!

 俺の前でそんな悪逆非道許せるか!

 ああ!火魔法を放ちやがった。


 被害が出ているだろそれ。

 やめろおおおお。

 俺は地上へとつながる穴から飛び出し、悪魔に向かって叫ぶ。


「我はヴァンピール・ド・ヴェルジー!! 平和を守る真なる吸血鬼なるぞ!!」


 決まった!

 どうだ、俺を見ろ!

 俺に恐怖せよ。

 ひれ伏すがいい悪魔よ。


[平和の使者きたあ]

[毎回決め台詞いうの草]

[ボス戦っぽい]




「ああ? なんだお前、恐怖が足りないな。まだ俺を前にしてそのような口がきけるやつが残っていたとはな」

「何を言うか、悪鬼よ。我の獲物に手を出そうとしたその罪、万死に値するぞ」


 そうだぞ!

 人間を守る正義の吸血鬼、ヴァンピール・ド・ヴェルジー!

 参上した!


 しかし、体が重い。

 いつもより数段重い。

 なんでだ?

 昼間活動しているときでもそこまで辛くなかったのに。

 あ、あれか!?

 あの太陽みたいな塊。

 あれの光でヴァンピ弱体化してるんじゃ。


 やめろそれ!

 しかもそれ王都に放つとか言ってるんだろ?

 絶対ダメなやつじゃん。


 ここで倒す。

 倒さなければならない。

 俺は覚悟を決め、悪魔との戦いに挑む。


[やばくね]

[これ勝てるの?]

[無理ゲー臭くて草]

[負けイベントだろこれ]


 何を言うか、俺が負ける?

 そんな設定されてないんだよ。

 すべての吸血鬼を倒すまで、そして世界が平和になるのを見届けるまで、ヴァンピは死なない。

 それが例え強がりだったとしてもだ。


 俺は地面に降り立ち、火や風、水の魔法を駆使し、相手への攻撃を行う。

 矢のように飛ばされたそれを、悪魔は片手で払いのける。


「そのような児戯で俺にかなうと思っているのか?」


 くっ!

 魔法が効かない。

 相当な魔力耐性を持っているようだ。

 単純に威力が足りてないのか?


 しかしヴァンピの本分は肉体戦闘。


 それならば勝機がある。

 俺は何度も魔法を放つ。

 その度に悪魔に弾かれる。


「無駄だと、力量差がわからないのか?」


 わかんねーよ!

 分かったら苦労しないよ。

 分かっててもここで逃げるのはヴァンピじゃない。

 人間の為に戦い、平和を守る。

 それがヴァンピール・ド・ヴェルジーだ!


「我を甘く見たこと、後悔するがいい」


 俺は空中へと繰り出すと、王城の上にいる悪魔目掛けて飛び込んでいく。

 くっ、あの光が苦しい。

 もがれた翼ミニビックバンとか言ったか?

 肌が焼ける。

 初めて感じる日光による攻撃。

 皮膚が嫌な音を立てて爛れていくのを感じる。


 近づきすぎて、若干スピードが落ちた俺を悪魔が蹴り飛ばす。

 それをモロに食らってしまい、王城の屋根へと吹き飛ばされる。


「ぐっ!」


 初めて感じる、負けるかもという恐怖、死んでしまうかもしれないという怖さ。

 ヴァンピなら、それでもヴァンピならと必死に心を震わせる。


「なんだ、やはりお前にもそのような感情があるとはな、愉快愉快、口ではそういっても体は正直だな」


 ああ?

 悪いかよ。

 怖いもんは怖いんだよ。

 俺をだと思ってる。

 ヴァンピの体に入っただけのただの一般人だぞ。

 怖いに決まってるだろ。


 それでも心のヴァンピが俺を後押ししてくれる。

 この程度の相手、造作もない。

 それ、見せてやれ、我の本気をな。


 ドクン、心臓が跳ね上がる。

 これは、そうか、ヴァンピお前ってやつは本当に最高だぜ。


「どうやら、真の姿を見せねばならないようだな。とくと見るがよい。これこそが我の真の姿――――――」


 俺はいつもの格好漆黒のコートに目元を隠した仮面から変身した。

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