第30話 魔界の悪魔
俺達に地下水道で不審な区域を発見したとの報告があった。
その危険を全て排除する為の討伐隊がギルドによってすぐに編成された。
今回は軍の人達とも連携をとる、冒険者との混成部隊だ。
冒険者である俺達が準備を整え、さあ軍の人達との合流に出発しようとした時、それは起こった。
ドーンという大きな音が王城の近くから聞こえてきた。
敵襲か!?
あそこは報告のあった地下水道の辺りだ。
なにか爆発でもあったのか。
俺達は色々な不安を抱えながらも冒険者ギルドを出ると王城に向かって走り始めた。
爆発音が聞こえた後は、驚くほど静かだった。
それは不自然なほどの静寂で、まるであの爆発音が嘘だったかのように思えた。
俺達は軍の人達と合流予定だった地点に着く。
そこには大きな穴がぽっかりと空いていた。
「リーダー、これやばくないですか」
「みりゃ分かるよ! とにかく状況の確認だ! 近くに生存者がいないか探すぞ」
俺は動揺が伝わらないように冷静に指示をだす。
大丈夫なわけがない、集合場所にいる予定の人達が誰一人としていないのだ。
明らかにこの穴が原因だ。
俺は未知の恐怖に怯えながらも辺りを見渡す。
いた。
人間だ。
これで少しはマシな結果が得られる。
俺は急いでその男に駆け寄った。
男は俯き震えている。
「おい、どうした、何があった」
「わからない、気付いたらもう、目の前には誰も、誰もいない、俺は、俺達はどうなるんだ?なあどうしたらいい? どうすればいい!?」
「しっかりしろ! お前しかいないんだぞ」
「だめだだめだだめだ、こわいこわいこわい、死ぬんだ! 皆死ぬんだ!!」
俺は錯乱した男を必死に宥めるが、おかしくなってしまった男はぷつんと事切れるかのように動かなくなった。
「おい! しっかりしろ! おい!!」
俺の呼びかけも虚しく、男は倒れ伏したままだ。
クソっ、他に生存者は、いない。
結局何ひとつ現状のことが分からぬまま、俺達は途方に暮れていた。
すると冒険者の一人が空を差し言う。
「なああれ、なんだ」
「どうした?」
「あの空中にいるやつ、初めからいたか?」
俺は宙を見る。
それはただ見ていた。
じっと観察するかのように。
これから何をしようか楽しむように。
どんな楽しみ方をすれば一番楽しめるのか。
邪悪な笑みを浮かべたそれは、人間ではない何かだった。
角無しの魔族か?
いや奴らに翼はない。
ならあれはなんだ?
真っ赤な皮膚に、背中には翼。下半身は猛禽類のような鋭い爪を持った足。
毛のない頭部は黒く染まっている。
ニヤっと笑ったそいつに、俺は激しい恐怖を感じた。
首筋に寒気、背中から嫌な汗が流れる。
逃げなければ、あれは人間が敵う相手ではない。
どこに?
何所に逃げればいい!?
逃げたところでどうにかなるのか?
恐怖に支配された俺の思考はまとまった答えが出ない。
俺が戸惑っていると、すっーっとその何かは降りてきた。
「恐怖の味は、いつ食べても美味だな」
何を言っている。
なんだこいつは、理解が追い付かない。
俺はただそいつを見ていた。
「うわあああああああ」
「逃げろ逃げろ逃げろ逃げろおおおおおおお」
俺の周りにはおかしくなった冒険者達がある者はその場で蹲り、ある者は逃げ、ある者は意識を失っていた。
「実に甘美だ、さあもっと俺にその恐怖を味あわせてくれ」
俺も錯乱したのだろう。
気付いたらそいつに斬りかかっていた。
「ふむ、まだ正気を保っていられるとは、中々だな」
俺の攻撃を指一本で受け止める。
次元が違う。
意味の分からない強さだ。
勝てるわけがない。
王都はもう終わりだ。
俺は死を確信し、その瞬間に怯えた。
そいつがにやりと笑う。
「そうそう、その絶望、その恐怖、もっと、もっとだ。この程度では足りん」
そういうとその悪魔は俺を無視して宙に上がっていく。
……見逃された?
いや違う。
さらなる恐怖を生み出すつもりだ。
そいつが城の頂上付近まで上がったかと思うと、頭上に魔力の高まりを感じた。
「嘘だろ……」
それは太陽と見間違えるほどの巨大な光の塊。
恐らく魔力の塊。
人間が扱えるものではないほど大きなそれが、振り下ろされれば王都は全壊するだろう。
住民は、気付いていない。
その方が幸せかもしれない。
気付かずに死ねるのだ。痛みもないだろう。
俺がそう思っていると王都全体に伝わるような大きな声でその悪魔が叫ぶ。
「虫の様に這う人間達よ、聞くがいい!今からこれを王都へと放つ。これは太陽の化身、
その声に反応して住居から市民が出てくる。
目の前の非現実的な光景に未だ信じ切れていないものがほとんどだ。
「ふむ、これでは伝わらぬか、では分かりやすくしてやろうではないか」
その悪魔がそういうと、空いた片手から魔法が放たれる。
その威力は絶大で、火の魔法だろうか、家屋が一瞬で消え去る。
それを何発か、無差別に放っていく。
中にいた住民は無事ではないだろう。
ようやく事の重大さに気付いた住民たちが逃げ惑う。
その姿を満足そうに見守るその悪魔。
俺は何も出来ずにただその場に立ち尽くしていた。
「終わり、か……」
そう完全に諦めた俺の目の前の穴から何かが飛び出してくる。
新手か?
これ以上どうすればいいのだ。
俺には手に負えない事象にただただ祈ることしか出来なかった。
誰でもいい、この窮地を救ってくれ。
この世に神がいるというのなら、救って見せろ!!
その願いが届くいたのか、大きな声で叫ぶ声が聞こえる。
「我はヴァンピール・ド・ヴェルジー!!平和を守る真なる吸血鬼なるぞ!!」
かつて見た、吸血鬼の姿がそこにはあった。
夢でも見ているのか。
吸血鬼が、悪魔と対峙している。
状況の複雑さに思考を停止してしまった俺は、ただその戦況を見守ることしか出来なかった。
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