第29話 魔族

 軍と冒険者の人達が、地下水道の探索を初めて一週間、なにやら怪しい区域を見つけたという連絡が入った。


 俺はその情報を手に入れると、急いでその場へ急行した。

 場所は王城近くの下水道、見つけたのはFランクの冒険者だったため、安全面を考慮してその場は引き下がったらしい。


 俺が情報を受けてすぐに行動出来たのには訳がある。

 この一週間で、眷属を大幅に増やしたからだ。


 特にそこら中に根を張れる鼠に眷属にし、壁に目あり障子に耳あり状態にしたのだ。

 これで冒険者ギルド本部や軍の人達がいるところに潜入させ、いち早く情報を手に入れることが出来た。


 この情報が漏れて、犯人に逃げられてはたまらない。

 討伐部隊が編成されるのを待たずに地下水道に入り、目的地へと走る。


 そこは、壁が少し崩れていて、何やら腐臭が漂っていた。


「これは、もう間に合わなかったか?」


 崩れた壁の向こうの先は暗い。

 夜目を使ってみればわかるが、奥へと続いている。

 俺はバックから剣を取り出し、警戒しながら進んでいく。


「デビアイちゃん、透視お願い」

「了解です~」


 俺にデビアイちゃんによって透視された視界が共有される。

 う、色々視界に被ってて見え辛い。

 それに完全に透視が出来るわけではなく、熱源探知のように、ぼんやりと先が見えるだけだ。

 しかし確実に人影があるのが分かる。


 地面に横たわっているのは、遺体か?

 すでにこと切れてしまったのだろうか、ピクリともしない。

 俺は最悪のケースも考えながら歩を進める。


 俺は人がいるであろう穴の先に着くと、見える人影を確認しようと剣を構える。

 すると人影の方から声が聞こえてきた。


「そこにいるのは誰だ」


 気付かれた!?

 音は極力立てていない。

 何か感知系の罠でもあったのか?


「ふうん、答えないんだ。じゃあいいや、君危険だから死んでね」


 そういうと、目の前に大きな蛇のようなものが襲い掛かってきた。

 狭い空間では避けることも出来ず、その鋭くとがった牙を剣を使い防ぐ。


 強い、魔物か?これ

 ワイバーンすら叩き落とした俺が強いと感じる程度には相手の力はあった。

 まあ条件が色々と違うし、ここで全力で暴れて生き埋めになるのはごめんだ。


 すると蛇、コブラとでもしよう。

 そいつが毒のような霧を噴き出してきた。

 まずいか!?

 ……大丈夫だった。

 ヴァンピ強くてありがとう。


「えーその毒即効性高くて人間ならすぐ死ぬはずなんだけどなあ、君って本当に人間?」


 未だに姿を見せない男が研究の片手間で答えるかのように話しかける。


「何を言っている、当然であろう」


 そうだそうだ。

 毒が効かない人間だっているかもしれないだろ。

 お前がまだ見てない人間なんてごまんといるんだからな。


 その間にも容赦なくコブラの攻撃は続いている。

 もっといい剣買っとけばよかったかも。

 何回か攻撃をするが、コブラの皮膚はあまり傷ついていない。


 これは、ちょっと本気出すか。

 俺は落盤覚悟で攻撃に力を込めた。

 俺が斬り上げた剣はコブラの下顎に直撃し、頭上に叩きつけられる。

 パラパラと天井の土が落ちてくる。


「これで止めだ」


 俺は倒れ伏したコブラの頭上に剣を突き立てる。

 ピクリとも動かなくなったそれを邪魔にならないように横に蹴り飛ばす。


「やられちゃったか、少しはやるようだね」


 俺は声の主がいるところに近づいていく。

 こんなところで何を、何が目的だ。

 色々と問い詰めたいところではあったが、まずはそのご尊顔を見させてもらおうか。


 俺がその男のいる先へ向かうと、床に置かれた十数人に及ぶ女性。

 生きているのか死んでいるのかは分からない。

 そしてその前には額に一本角を生やした人間のような存在がいた。


 あれは、魔族。

 ヴァンピの記憶から魔族の記憶を探る。

 魔族。

 魔王に従う種族の中でも特に凶悪であるとされる。

 その強さは額にある角の数で決まり、角無しから三本角までが確認されている。


 その魔族が何で王都に?

 その疑問に嬉しそうに魔族が答えてくれる。


「どうしてボクがこんなところにいるか気になる?気になるよねえ。特別に教えてあげるよ、それはね、人間の若い女を使って魔界から悪魔を呼び出して王都をめちゃくちゃにする為さ」


 魔界?悪魔?

 何を言ってるんだこいつは。

 そんなのヴァンピの記憶にもないぞ。


 しかしその眼は正気を失っているようには見えない。

 何故か確信めいた何かを感じ取り、俺は無意識のうちに駆け出していた。


「無駄だよ!」


 魔族の男がそういうと、男の周辺に激しい光にが現れた。

 眩しい!

 何も見えね。

 俺は目を閉じて光が収まるのを待つ。

 俺が身を固めて守っていると、その腕に衝撃が走った。


「儀式はあと少しで完成する。しばらくの間時間を稼がせてもらうよ」


 恐らく魔族が攻撃してきたのだろう。

 俺は細目になりながら、相手の方を向く。

 目くらましか、意外と有効だな。

 夜目は効くけど眩しいのは耐えられないからな。


 俺は激しい魔族の攻撃を見えないながらも受けていく。

 コブラよりも当然強い。

 しかし俺も最強の吸血鬼ヴァンピだ。

 そうそう後れを取るわけでもない。


 目が慣れてきたところで相手に横薙ぎの一閃を食らわす。

 相手はそれを済んでのところで避けた。


「中々の強者のようだが、我の敵ではないな」

「ふざけたことを、コブラを相手に苦戦したやつの言うことではないよ」


 あれはちょっと手加減してただけ!

 本気出したら強いんだぞ!

 ……強いよな。


 ちょっと自信なくなってきた。

 なんか微妙に強い、魔族。

 これで一つ角? 魔族の中じゃ弱い方なんだよね。


 まあ勝てると思うけど、時間が掛かりそう。

 俺はふと思い至る。

 何故人間のまま戦っているのか。

 誰も見ていない。

 正確にはデビアイちゃんがいるけど。


 地面に横たわる女性たちは、もう、手遅れだ。

 ならばここに登場して見せよう!

 俺はいつもの格好漆黒のコートに目元を隠した仮面に変身した。


「我はヴァンピール・ド・ヴェルジー! 平和を守る真なる吸血鬼なるぞ!」


 決まった!

 かっこいいだろうお?

 もうこれでお前の負け確定な。


「な、吸血鬼だと……クククなんだ。毒が効かなかったのはそのせいか」


 あれ?あんまり驚いてない。

 もしかして魔族にはあんまり知られてないのかな?

 吸血鬼界隈では有名人だったから人間の敵対勢力には知られているかと思ったのに。

 

「我を前にしてその余裕、蛮勇であると思い知るがいい」

「はいはい、かかっておいでよ」


 魔族の男は完全に舐めている。

 いいよ、その余裕いつまで持つかな。


 俺は全力でパンチを繰り出す。

 貫き手でだ。


「あぶなっ!」


 なに!

 避けただと。

 しかし完全には避けきれていない、頬を抉ったぞ。

 俺の強さに動揺したのか、魔族の男が話しかけてくる。

 時間稼ぎだね。


「思ったよりやるね、見くびっていたよ」

「だから言ったであろう?今更後悔しても遅いぞ」


 抉れた皮膚は再生している。

 しかしこの世界の生き物は相手の力量を把握するの苦手すぎないか?

 皆俺を相手にしてもどんどん向かってくるし。

 ヴァンピに限らずみんなポンコツなんだな。


 相手の顔に汗がにじむ。

 よかった。

 これで実は相手の方が強いですよとかになってたら目も当てられない。

 相手の力量が分かんないの本当に不便。

 強者なら分かれ!ヴァンピ!


「でも、目的はもう達した。君がいくらここで――――」


 俺は魔族が言い終わる前に、その顔面に全力パンチをもう一度お見舞いした。

 先程よりも早く、より強く行った攻撃で相手は吹っ飛んだ。

 やっぱ余裕じゃん。

 よかった最強で。


 俺が安心していると、何やら魔族の周辺で魔法陣のようなものが発言する。


「っつ! 贄としては不適格だが、このままでは示しがつかないんでね、やらせてもらうよ」


 魔族の男がそういい、魔法陣の上に乗ったかと思うと、その肉体がばたりと倒れた。

 自害か?

 いや違う。

 といったな。

 先程の魔族の言葉が蘇る。

 

『魔界から悪魔を呼び出して――――』


 しまった。

 俺がそう思った時にはもう遅かった。

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