第28話 行方不明の女性
幽霊屋敷の幽霊(精霊かな)を無事仲間に引き入れ、格安でいい物件を手に入れることが出来た。
見た目はまだぼろいけどそれは追々直していけばいいし、ハウスメイドちゃんがいるから問題なし。
名前はメイドのメイちゃん。
言う機会があるかは分からない。
俺は屋敷の一室で一晩過ごしてから、いつもの人気のない宿の主人に最後の挨拶をしに行った。
「世話になったな、我もここに定住するゆえ、また機会があれば会うこともあろう」
「そうか……お前さんがいなくなると少し寂しくなるな。いつでも来てくれていいぞ」
俺も悲しいよ、何気に。
どうしておっさんと会えないだけでそうなるかは分からないけど、やっぱり心のヴァンピは宿の主人のこと好きだったんだなあって思うわ。
ごめんな、シルバー達と一緒にこれからはモフモフしたいんだ。
俺は宿の主人に別れを告げ、これからの拠点となる屋敷に向かった。
まだ外観は汚いままなので、どっかで業者入れてやってもらおうかと思ったけど、メイちゃんが私出来ますって顔してるので、お願いすることにした。
結構ツタとかすごいけど大丈夫かな?
そこは精霊へと昇華した存在だからか、まるで生きているのかの様にツタを動かして処理していく。
どうやら俺を新しい主人としたことで契約関係となり、彼女自身もかなりパワーアップしたらしい。
掃除や炊事はもちろん、侵入者の撃退とかも出来るらしい。
いい労働力手に入ったぜ。
しかもカワイイ。(精霊)
俺は家のことは彼女に任せることにして、今日も冒険者ギルド本部へと向かうことにした。
なんかいい依頼ないかな~。
あれ、行方不明の女性の探索かあ。
王都って広すぎてどこかで何かあっても手が回りきらないんだよね。
うら若き女性を攫っている輩がいるかもしれない。
すでにもう……っていう展開は避けたいので、この依頼を受けることにした。
ギルドの受付に依頼の確認をとる。
依頼の内容は比較的裕福な家庭の子が、数日も帰ってきていないとのこと。
家出では、ないと思う。
いなくなる前日は普通に職場から帰ってくる予定だったらしく、最後の目撃情報は退勤していく彼女の姿らしい。
これは事件の香りがしますね。
俺はさっそく被害に合われたであろう依頼主の元に向かった。
ちょっといい家に住むご家族にギルドからの依頼で来た事を伝える。
「失礼、あなた方の娘さんが闇夜に紛れいなくなってしまったとのこと、なにか気になることがあれば教えていただきたい」
まずは依頼主から聞き込み。
調査の基本だね。
「それが、全くそんな前兆がなくて。お付き合いしている男性とも連絡を取ったのですが、そちらにも来ていないようで。うう、どこにいるのか……」
涙ぐむ依頼者に俺はひどく怒りを覚えた。
これは確実に誘拐だ。
俺が夜あれだけ見回っていたのに、王都全域はカバーしきれないということか。
そもそもその時期はワイバーン討伐で王都を離れていた。
何度も言うが、ヴァンピは最強であって万能ではない。
己の手の届く範囲しか守れないのだ。
嘆いていても仕方がない。
俺は職場からどう帰っているか、通りそうな道などを聞きだした。
そこからは地道な作業だ。
事件当日、怪しいやつを見なかったか。
なんでもいい、何か異変はなかったのか。
道行く人に聞き取りを、帰り道であろうところにある家に聞き込みをした。
結果出てきたものは何もなかった。
「手がかりがないな、どうしようか」
「ご主人様~過去視はどうですか」
過去視。
デビアイちゃんの使えるアイサーチの一つだ。
しかしこれは多くの魔力を必要とする割りに、効果時間も短い。
だが、他にいい案も思い浮かばすデビアイちゃんに頼むことにした。
「ごめんね、大変だと思うけど頑張って」
「任せてください~」
俺は彼女の勤めている職場から、数日前彼女が出ていく時間帯に過去視を指定してデビアイちゃんに見てもらう。
俺はデビアイちゃんの視界共有で同じ光景を見る。
帰りは、まだまだ問題ない。
大通りを通って、あ、裏路地に入った。
そこからは一瞬だった。
何者かに口を押さえられたかと思うと、意識を失う被害者。
そして下水道に繋がるマンホールの下へと担ぎ込まれていく。
「ここか……」
俺は過去視で消耗したデビアイちゃんを抱えながら、事件のあった現場に着く。
地下か……。
俺はとりあえずマンホールを開けて地下水道へと降り立った。
くせぇ!
きたねえ。
鼠がいっぱい出てきた。
案の定そこに女性の姿はなく、俺は一旦地上に戻ることにした。
しかし下水道か、これは骨が折れるな。
デビアイちゃんの透視で王都全域を見るには無理がある。
シルバーに匂いを辿って貰おうにも恐らく匂いは消え去っているだろう。
これは人を使った人海戦術でないと手に負えないな。
しかしどう説明したものか。
ん、マンホールの近くに何か落ちている。
これは、ブレスレットがちぎれている。
もしかして被害者のものか?
俺は過去視で見た彼女の服装を思い出す。
う~ん、付けてた気もするしそうでもない気もする。
俺は彼女の両親に確認を取りにいった。
「これは……娘が付けていたものです。間違いありません、裏にイニシャルが彫ってあるんです。彼からのプレゼントだからって毎日つけていました」
やはり、俺の勘は正しかった。
これで証拠品は出揃った。
これでギルドに報告して、後は大勢の冒険者達に依頼を投げるとしよう。
もしかしたら連続婦女子誘拐事件の犯人かもしれないな。
俺は大きな事件の香りを感じつつ、冒険者ギルド本部へと赴き、事情を説明した。
「わかりました。これはギルドだけではなく国にも報告する案件ですね。軍の方にも動いてもらいましょう」
「承知した、彼女が無事であるといいのだが」
「正直、難しいですね。何が目的かもはっきりしませんし、すでに日数が経っていますからね……」
そうだよね、数日って結構長いし、暴行だけするならそのままその場にポイってするだろうし。
わざわざ下水道に連れ込んでる時点で怪しい。
この国にはないけど、隣国では奴隷が一般的だって話も聞くし、最悪もうそういったところに運び込まれてしまっているかもしれない。
色々と最悪なケースを思いつく。
正義の心が震える。
俺を前に随分と舐めたことをしてくれるじゃないか。
正義の吸血鬼ヴァンピール・ド・ヴェルジーの名に賭けてこの事件解決して見せよう。
この日からギルドの冒険者と王国の軍の人を使った大規模な探索が行われた。
たかが一人の行方不明者に随分なことと思うだろうが、地下水道に怪しい輩が住み着いている場合を考えると、治安の為にも必要なことだった。
俺は地下の探索をその人たちに任せて、外に繋がっている下水道の周辺を探索することにした。
シルバー達をつれて、周囲に何か怪しい痕跡がないか、デビアイちゃんのアイサーチを使って異変はないか、徹底的に調べた。
すると掘り出し物がいくつか見つかった。
盗賊が一時的に隠したであろう、宝の類。
事件とは関係なかったが、埋められていた遺体。
これはのちに身元が割れ、ダンショウさんのところの旅商人とのこと。
ジンシンではない。
しかし肝心の行方不明者の女性に関わる何かを見つけることは出来なかった。
俺は残りを軍と冒険者に任せて夜の警備に精を出すことにした。
俺は無力だな。
何が解決して見せよう! だよ。
一人の女性も救えなくて何が正義か。
落ち込んだ気分のまま、夜の警備で目につく悪を狩っていった。
王都の闇は深い。
俺はなんてちっぽけなんだと感じだ夜だった。
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