第27話 幽霊屋敷

 俺達は今、不動産で聞いた幽霊屋敷の前に立っている。


 敷地の大きさは、広いな。

 庭付きでシルバー達が住むには十分な広さがある。

 家は、ぼろいけど大きい。

 これで安いんだから儲けものだよな。


 敷地全体は草木の手入れが行き届いておらず、荒れ放題だし、ツタが這っていて掃除には苦労しそう。

 でも別に寝る場所さえあれば問題ないし、こういう廃墟に住むのって吸血鬼っぽいじゃん?

 だめじゃん、人間なんだから。

 人間らしい住処じゃないと。


 意外と面倒くさそうだな。

 やめよっかな。

 いや、とりあえず来たし中覗いてから行くか。


 俺は閉まっている門を開けて、玄関へと続く石畳の上を歩く。

 ……見られているな。

 幽霊ってことか?


 侵入者にいきなり攻撃してこない辺り、攻撃性のないやつか?

 そもそも幽霊が出てどう実害があるとかちゃんと聞いてこなかったな。

 話をちゃんと聞かないのは俺の悪い癖である。


 俺は家の前まで生き、扉に手を掛ける。

 ぎいーというきしむ音を立てて扉が開く。


 中からの攻撃も……ないな。

 俺が後ろを見るとシルバー達は怯えている。

 野生の勘かな?

 獣が感じ取れる何かがあるのかもしれない。


 俺は震えているシルバー達を家の外に置いて、中を散策する。

 ふむ、思ったよりは綺麗だな。

 外観の割りには寂れていない。

 むしろ少し綺麗だ。


 そして俺が二階にあがろうとするとそれは起こった。

 

「うわっ」


 俺の目の前に本が飛んできた。

 それを軽くキャッチする。

 ポルターガイストか?

 随分と可愛らしいことで。

 この程度なら問題ないけど、確かにこれが続くようでは住むのは難しいよなあ。


 不動産も匙を投げるわけだ。

 二階にあがり、さらに奥に進もうとすると抵抗が強くなった。

 どうやら来てほしくない部屋があるらしい。


 興味あるな。

 何を守っているのか。

 守る価値のあるものってことだろ?


 この家は最終的には俺のものになる?予定だ。

 見聞しておく必要があるな。


「……来ないで!!」


 俺の目の前に突如メイド服を着た女性が現れた。

 よく見ると宙に浮いてるし、若干存在が薄い。

 

 これが幽霊かな?

 来ないでって言われても~。

 そんな拒否されると余計興味湧くじゃん。


 飛んでくるものが増えてくる。

 本から燭台、あ、家財はやめろ!

 もったいないだろ。


 でかめの家財を受け止め丁寧に床に置く。

 無駄だということが分からんのかね。

 その程度の妨害でどうにかなるのなら最初からこんなところには来ないよ。


「それなら!!」


 今度は少し寒気がした。

 あーなんだろう、寒い。体が凍るだろうな、普通の人間なら。

 吹雪が吹いてないのに、全身が凍えるように冷えていく。


 まあ俺強いんで、涼しい~くらいにしか感じないけど。

 俺は相手の攻撃を無視して奥の部屋に進んでいく。


 そうまでして守りたいものってなんだろうな。

 財宝かな?

 希少なアイテムかな?


「やめて!!」


 幽霊が叫ぶ声も虚しく、俺は扉に手を掛け部屋へと入っていく。

 ん?

 何もないな、寝室か?


 ベットで何か寝ている。

 白骨化した遺体だ。

 ここの主人だろうか?


 もう死んでからずいぶん経つであろうそれを、幽霊が俺から守るように前に来る。


「ご主人様に近づくな!」


 あ~死んでも守ってた系ね。

 可哀そう。

 ずっともういないご主人様の為に不法侵入してくるやつらを追い払っていたわけだ。

 でもね、もうその人死んでるんだ。

 誰もこんなこと望んでいないと思うんだよね。

 ちょっと泣けてきた。


「もう君のご主人様は死んでいるよ。埋葬してあげたほうがいいんじゃないかな?」

「適当なことを言うな! 侵入者め!」


 話が通じないな。

 これは少しわからせてあげたほうがいい。

 ん?

 何やらベット周辺に結界が張ってあるな。


「デビアイちゃん、あれなに?」

「う~ん、幻惑系の結界ですね」


 あれかな、彼女には死体に見えてないないのかな。

 ていうか俺には何で見えるんだろうか。

 人間じゃないからかな?

 俺は結果に触れると、それを壊すように力を入れた。

 結界にひびが入り、何もない空間が壊れたかのように感じた。


「ああ!!……ご主人様!!」


 ご主人様って白骨化しても分かるらしい。

 義理堅いことだ。

 多分この結界は防犯用に付けてたんじゃないかな?


 幽霊ちゃんが何で白骨化した人間と認識出来なかったかは謎だけど。


「ご主人様……どうして、こんな」

「ごめんね、でも知らないでいるよりはいいかと思って」


 白骨化した死体の前で涙を流す幽霊。

 幽霊でも涙でるんだね、零れ落ちないけど、霊体かな?


 幽霊がひとしきり泣いて静かになるまで待った。

 さすがに可哀そうだったよ。

 胸が痛んだ。

 泣き止んだのか、落ち着いたのか、幽霊がこちらに向かって話しかけてくる。


「すみません。取り乱してしまいました。そしてありがとうございます。これでもう思い残すことはありません」


 話を聞くと彼女は、彼女の主人がいたころから流れてきたメイドの幽霊らしい。

 そしてその存在は精霊へと昇華し、家を守る座敷童のようなものとして家を守ってきていたらしい。

 ずぼらだった前に主人は、何もしてないのに綺麗に保たれる家に不思議に思わなかったらしく、その現状を受け入れて日々研究に勤しんでいたとのこと。


 この家の前の主人、怪しい錬金術師だったらしく、毎日研究をしては寝るという生活を送っていたようだ。

 寝室にはそれらしきものがいくつも転がっている。

 なんか役に立つものがあるかもしれないし、今度漁ってみよう。


「思い残すことはないっていうけど、どうしたらいいの?」

「あなたほど強い人なら、私に消えろと念じて頂ければすぐに昇天出来るかと思います」


 え~やだな。

 なんで俺がそんな可哀そうなことをしないといけないのよ。

 満足しました、では天に昇らせていただきます。

 とかいうならいいよ?

 俺に自殺を手伝ってていうのはちょっとなあ。


 それにこの屋敷を管理するのも大変そうだし、残って綺麗にしてくれてた方が嬉しいかな。

 そうしてもらおう。


「俺達はここに住むつもりなんだ。これからも君には住んでいて欲しい。君のご主人様も弔わないといけないしね」

「それが貴方の意思というのなら受け入れましょう。新たなるご主人様」


 よし、これで格安で拠点を手に入れて、家政婦さんも手に入ったぞ。

 これだよこれ。

 こういう正の連鎖が起こっていくのがいいんだよ。


 誰かを助ける。

 それが巡り巡って自分に返ってくる。

 いいことのし甲斐が増すってもんだ。

 心のヴァンピも喜んでくれてるはずだ。


「それじゃあ俺は家の契約してくるから、その間に家の掃除お願いしてもいい?」

「畏まりました」


 ありがとう。

 なんか働かせてばっかですまんね。


 俺はベットに眠る前の主人を抱えると、家の裏手にいき、地面に穴を魔法で開けて埋めてあげた。

 本来なら棺桶とかに入れるべきかもしれないけど、まあいいか。

 人間しんだら土にかえる。それが普通だ。

 そもそもこの世界って人間の埋葬方法って土葬か? 火葬か?

 

 根本的なことが分からなかったのでとりあえず、骨は焼いてから壺に入れて埋め直してあげた。

 日本式で行こう。


 埋葬が済んだ俺は、シルバー達を呼び寄せる。


「主、どうやら寒気が消えたようだが」

「もう大丈夫だよ、幽霊はこれから家を綺麗にしてくれるし、この屋敷も手に入って全部上手くいったよ」


 さすが主!

 褒めてくれるシルバーをモフモフする。

 癒されるわ~。


 俺達は不動産に戻り、屋敷の契約をして屋敷へと戻った。

 まだまだ手が行き届いていないが、一室を綺麗にしてもらった。


「他はのちのち清掃していきますので、今はここでお休みください」

「ありがとう、急がなくていいからね」


 俺は綺麗に整備された部屋のベットに寝ころんだ。

 全部うまくいってよかった。

 俺はウトウトしながら眠りへとついた。

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