第26話 テイム

 ワイバーンを殲滅した俺達は、王都への帰り道で野良吸血鬼との戦闘に巻き込まれた。

 こちらの戦力は疲弊していたが、聖魔法を使える聖職者と俺のおかげで、なんとか犠牲者を出すことなく吸血鬼を倒すことが出来た。


 その際、シルバー達のことが露見してしまったので、討伐隊のリーダーに事情を説明し帰りの道中は堂々とシルバー達を引き連れて王都へと帰還した。


 門の前でひと悶着はあったが、俺の命令に従うことと多くの冒険者の後押しもあり無事王都内に入ることが出来た。


「お母さん~おっきなお犬さんがいるよ~」

「しっ、指差しちゃいけません」

「魔物がいるぞ!」


 うん、まあそういう反応するよね。

 俺達は王都の中に入り、大通りを進んでいく。

 冒険者ギルド本部までの道のりは、好奇の目で見られていた。

 中には当たり前だが恐怖しているものもいた。

 

 大丈夫だよ~

 こいつらこうみえてめっちゃ可愛いんだから。

 ほら~こんなにモフモフしてる。

 俺は横に立つシルバーを撫でてあげる。


 んん!モフモフ!


 ここで存分にモフモフしたかったが、さすがに人目があるのでやめておいた。

 シルバー達、達というのは、他に八体の狼がいる。

 こいつらはもともとホワイトウルフという種族らしく、その鋭い牙と爪で魔物を狩る肉食の獣として知られているらしい。


 魔物ではあるが、人間に襲い掛かることはあまりなく、あくまで他に獲物がいればそちらを優先する程度には共存しているようだ。


 俺襲われたよね?

 お腹が空いてたのかな?

 俺は忘れないからね、色んなこと。

 うそ、結構忘れっぽい。

 だから前言ったこととか結構矛盾することが多い。


 でもエルフエッフェルフィン、お前の所業はしっかり報告させてもらうからな!

 前衛部隊に配属されたのに、怖くて後衛部隊に入って弓でパシパシ撃ってましたってね。


 俺達は冒険者ギルド本部前に着くと、リーダーの男がここで待ってろと言うので待つことにした。

 いきなり、魔物引き連れてギルド内に入ったら襲われちゃうからね。

 配慮が出来る大人って偉いね。


 俺が物思いに耽っていると、ギルド職員を連れたリーダーが帰ってきた。


「これが、ヴァンピさんがテイムしたフェンリルですか……それにホワイトウルフも」

「そうだ、我が眷属として契約を交わしている。特にこのフェンリル、シルバーは人語を介することも出来るぞ」

「お初目にかかる、シルバーと申す。我が主のもとで力を振るっている」

「おお、本当にしゃべった」


 ギルド職員の人が驚いている。

 そりゃそうだろ。

 魔物はしゃべらないし、声帯ないのに何所から声出してるんだって話。

 そういう野暮なことは言わないって言ったでしょ。

 言ったかな?


「それではテイムの証として、どこかにこの紋章をつけていただきたいのですが」


 そう言って手渡されたひも付きの紋章をシルバ―達の首元に着けてあげる。

 紐は良く伸びるなあと思ったら、着けたとたんちょうどいい感じに伸縮した。


 魔道具ってやつ?

 便利なものあるな。

 テイムは珍しいので、こういったものが存在していることに驚く。


 俺が知らないだけで、こういう便利なものって実は存在してるのかな?

 まあいっか、とりあえずこれでシルバー達の登録は終わったわけだ。


 しかしシルバー達を飼えるところがない。

 今までみたいに近くの森とかにいてもらってもいいけど、折角なら自慢したいし、王都の人達にも慣れてもらわないと、敵と間違えられて攻撃されたら可哀そうだ。


 よし、投げ銭と広告収入とサブスク、そしてギルドの依頼で結構な金があるし、家を買おう。

 流れの吸血鬼ヴァンピ、王都に家を買う。


 さすらってばっかじゃいられねえよ。

 やっぱ帰れる場所があるっていいことよ。

 あ、宿の主人にも最後の挨拶しないとな。

 買う家が決まったら会いに行こう。


「それでヴァンピさん、今回のワイバーンと吸血鬼の討伐、それからフェンリルのテイム、これらの功績を持って貴方にAランクへの昇格を打診しますが、如何なさいますか?」


 お、なんか知らないけど昇格だって!

 もちろんおっけーなんだけど、Aランクになると結構大変らしい。

 危険な依頼も増えるし、冒険者としての規範になるように行動しなければならない。

 まあそこらへんは品行方正な心のヴァンピがいるから大丈夫でしょ。

 俺は楽観的に考えその問いにイエスと答えた。


「よかろう、その提言、受け取ってやろう。して試験などはないのか?」

「Aランクともなれば、すでにそれ相応の実績を積んでいることとなり、戦闘能力は問題になりません。もし不適格とされれば降格しますので注意してください」

「善処する」


 降格かあ、それは嫌だな。

 まあこと戦闘力に関しては心配してないけどな。

 なんたって俺、最強の吸血鬼ヴァンピール・ド・ヴェルジーなのだから。


「それでは書類がまとまるまでしばらくお待ちください。数日後に正式に昇格致しますので、冒険者ギルド本部へと顔を出していただければと思います」


 分かったよ。

 しばらくゆっくりしたいし、家も買うから余裕が出来たら行くよ。

 それまで待っててね。


「承知した、暇が出来たら出向こうではないか」

「お待ちしております」


 俺は髪をふぁさぁってなびかせてその場を去った。

 かっこいい!

 相変わらずヴァンピはかっこいいなあ。

 絵になるよ。





 冒険者ギルド本部を離れた俺はシルバー達を引きつれてダンショウさんの店に向かっていた。

 不動産の相談、業者がいればその紹介を頼むためだ。


 シルバー達を外に待たせ、一階ににいる店員に木札を見せてダンショウさんに取り次いでもらえるように頼む。

 後ろにいるシルバー達に一瞬顔を引きつらせたが、すぐに表情を戻し、去っていった。

 店員にも教育が行き届いているな。流石だなと思った。


 少し待っていると、店員が帰ってきて、前回と同じ真ん中の階の一室に招待された。

 後から来ますので、とのことなのでふかふかのソファに座り、出された紅茶を飲みながらダンショウさんが来るのを待つ。

 いい香りするなあ、この紅茶。

 さすが一流のお店って感じ。


 そこまで待たないうちにダンショウさんがやってきた。

 少し汗をかいている。

 慌てさせちゃったかな?


「毎回突然済まないな、今日は用があって来させてもらった」

「いえいえ、ヴァンピさんのお願いなら聞かない理由はないですよ、して今回はどのような用件で?」

「なに、下にいるシルバー達、テイムした魔物を飼えるだけの敷地のある家が欲しくてな。そちらから紹介のできる、土地に詳しいものがいればと思ってな」

「不動産ですか……私はそちらも兼業しているので、すぐに紹介できるかと思います。専属のものがいる場所を教えますので、そちらでお話をしてみたください」

「感謝する」


 そういって一筆書いた紙を手渡してくれる。

 さすが商人、手広いねえ。

 なんでも商機に繋げられる。

 そりゃこんなでかい建物も所有出来ますわな。


 俺はダンショウさんのお店を出て、紹介された不動産に向かった。

 歩いて三十分程度の距離ですぐ着いた。

 シルバー達は相変わらず目立っている。


「失礼、ダンショウ殿の紹介で話を伺いに来たのだが、店主はいるかな」


 俺はごくごく普通なお店に入り、人を呼ぶ。

 中から出てきたのは特に変哲もない中年の小太りした男だった。


「いらっしゃいませ。ダンショウ様の紹介ですね、何か証明できるものは?」

「これでいいか」


 俺は先程貰った手紙を渡す。


「では……、はい確かに。ダンショウ様の印章ですね。それで、今回はどのような物件をお探しですか」

「我は今、外にいる魔物たちが充分に入れるほどの敷地を持つ住居を探している。いい物件はないか」

「……そうですね、しばらくお待ちください」


 そういうと店主は後ろの部屋に入り、ガサガサといくつもの書面を持ってくる。


「こちらが今紹介出来る物件ですね。左から値段の低いものになります」


 ふむ、まずは一番高いところから見てみよう。

 たかっ!!

 さすがにこれは買えない。


 俺の配信収入何年分だよ。

 どんな富豪なら買えるんだよ。

 まあダンショウさんの紹介された人物なら買えるかもと考えてもおかしくないよなあ。


 俺は今度は左の一番値段の低い紙を見る。

 あれ? 一番高いやつより広いのに。

 値段も他のに比べて格安だ。

 俺は全部の住居と見比べる。


 ひとつだけ明らかに安い。

 なのに広い。

 これは……


「そちらは一応出させていただきましたが、いわくつきの物件でして」

「ほう、曰くつきとは、なにかあるのかね?」

「そうですね、出るんですよ、あれが、幽霊が」


 幽霊屋敷来たー。

 俺は新たなイベントの予感と共にこの物件の購入を決めた。

 その前に一応見ておこう。


 俺は店主に住所を聞くとシルバー達を連れてその物件に向かった。


 待ってろ!

 可愛いかどうかは知らんが幽霊たち。

 俺が優しく手解きしてやる!!

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