第25話 我、バズるということを知る

 我が定期配信を再開してから、ほぼ毎日配信を行っている。

 配信の最初は毎回千人以上来てくれるのだが、気付いたらその数は減っている。

 何故か悔しい。


 恐らくこの感情は本来野中正のなかただしが持っていたものだろう。

 より多くの人に見てもらいたい、承認欲求なのだろう。

 我にもそれがあることは認めた。

 だからこの感情にも向き合わねばならぬ。


 我は今日も今日とて配信をつける。


「こんヴァンは~、今日もみんなお疲れ様!俺も最近体鍛えてて、結構マッチョになってきました」


 実際、我の体型はだいぶ変わってきた。

 まだ筋肉はそれほど付いていないが、今までただしが来ていた服の大半がぶかぶかになり、ウエストは拳一つ程度余裕で入るくらいに凹んだ。


 身長は175㎝、体重は80キロまで落ちた。

 元が100キロ近かったことを考えれば驚異的なペースであろう。多分。


 未だに家族以外の人間にはぼそぼそとしか話すことが出来ないが、今後の成長に期待しよう。


 我の体を見てそのようなことを考えていると、配信画面にコメントが流れ出す。


[ヴァンは~]

[今日は2Dか、外れだな] 

[バトルはなしか]

[突発配信の為に通知はオンにしとくのを推奨しておく]

[ベロラントだ~] 


 最近よく分からないコメントが多い。

 外れだの2Dだの、なにやら落胆しているのだけは伝わるが。

 我はベロラントの配信しかしておらんのに、ゲーム以外でも配信しているような事を言う輩が多い。

 

 まあいい。

 今は配信に集中しよう。


「今日はついにブロンズを抜けてシルバーに行けるかと思うよ!昇格まであと少し、頑張っていくぞ」


[がんばれ~]

[シルバーに舞い戻りだね]

[最近は腕前、前みたいに戻ったみたい]

[私もランクあげないと、着いていくね]


 最近は試合でMVPを取ることも結構ある。

 我の適正ランクはもう上にあるのではないかと思うこともあるが、なかなか遅々としてランクをあげることが出来ない。


 その原因として仲間の構成が悪いことが多い。

 このゲームは我の様に突っ込んで敵を倒していくキャラと、相手に異常状態を掛け、動きを阻害する者、煙幕などで視界を塞ぎ戦力を分断する者などを、五人の中でバランスよく編成する必要がある。

 我は基本前線で突撃して、敵の数を減らしたり、索敵、殲滅が仕事になる。

 なので、同じ傾向のキャラ、例えば全員突撃するキャラで構成したりすると、相手の遅延攻撃、煙幕やフラッシュなどで何もできずに負けてしまうこと多い。


 知識は入れてきた。

 だが実際に操作するとなると難しい。

 これでも大分うまくなってきたと自負している。

 まだ見ぬ強者はいるがな。


 今は自分のキャラを変更させるほどの余裕がないので、今もその歪んだ構成で挑まなければならない。

 限界を感じたら、他のキャラも触ってみることにしよう。


「では、初戦行ってきます!」




 Lose


 いい勝負だったが、やはりこちらのキャラの構成が悪かった時点で勝負は見えていた。

 粘ったが、相手の煙幕や遅延がうまく作用して、こちらのペースに持ってくることが出来なかった。

 反省できるところはする。

 味方のせいにばかりしてはいけない。

 自分のできることを出来るだけする。

 対人ゲームの基本だ。


「初戦は負けることが多いね、今回はちょっと構成が悪かったかな」


 それでも言い訳をしてしまうあたり、我、実は器が小さい?

 いや違う、これはこやつの心に引っ張られているだけだ、そう思うことにしよう。


[次々~]

[ゲームはそうでもないのがまた面白い]

[先にシルバーで待ってる]


「じゃあ、気を取り直して次も行きます」




 その日は、勝ちと負けを繰り返し、シルバーへの昇格を果たした。

 ようやくだ!

 これで以前のただしに追いついた。

 二ヶ月近くかかったが、これで本懐を果たせた。


[おめでとう~]

[シルバー到達おめ]

[ついに、だねえ]

[私も待ってる]


 うんうん、我がこれだけ感動しているのだ。

 少しはこのリスナー達にもお裾分けが出来ているのと良いのだが。

 感謝の投げ銭が多い。

 サブスクもいいぞ。

 ありがとう。

 そのおかげで我は今日も生きていける。

 

 さて、当初の目標であったベロラントにやり返すというのは一応達成できた。

 しかしまだまだ上のランクがあるし、ここまで熱中できることは他にあるのだろうか?


[てか最近のヴァンピのバズりやばいよね]

[ゲーム配信はいつメン多いから少し安心]

[ゲームはいい……]


 バズり……?

 何の言葉だ?


 検索検索と……。

 ふむ

 「バズる」とは、SNSやインターネット上で話題となり、多くの人の注目を浴びることを意味する言葉です。


 たとえば、SNSで発信した事柄が、普段と異なって尋常ではない数の「いいね」をもらったり、「リツイート」されたりすることを「バズる」といいます。


 SNS、これは知っているZ(旧ツブヤイター)のようなものだろう。

 確かに一時期からフォロワーの数が増えてきているし、いいねも多い。

 配信と関係ないかと思っていたが、我はバズっていたのか?


 しかしそんなに見に来てくれる人数に変わりがないと思うのだが。


「俺、最近ベロラントばかりで詳しくないんだけど、いつバズってた?」


 我は疑問に思ったことを素直に聞いてみる。

 こやつらは信用できる。

 我についてきてくれる眷属のような存在だ。

 ……いなかったがな。


[突発配信がバズってるね]

[知らなかったの? 知ってと思ってた]

[あれはあれでいい]


 突発配信……?

 いつのことだ?

 我は定期的に決まった時間でしか配信をしておらん。

 何のことを言っているのか我にはわからん。


「これまとめサイトのURLだよ~]


 親切なリスナーがアドレスを貼ってくれた。

 この先に情報があるようだ。

 我はこの不可思議な現象を確認するためにURLをクリックした。


「吸血鬼Vtuber、謎技術で無双してしまう」


 我のことか?

 タイトルだけでは何を言っているかわからん。

 記事を見てみねば。

 我は記事内にある動画を見ることにした。







 なんだ……これは。

 我が映っている!

 しかもこれはあちらの世界、元々我がいた世界だ。

 どういうことだ?


 我は自分の配信サイトに行き、ビデオの欄を確認する。

 ……ない。我が配信しているというならここにあるはずだ。

 ということは別の誰かがあちらの我を映しているということ。



 間違いない。誰かが我の中に入っておる。


 王城など入ったこともないし、そもそもこんな記憶はない。

 いつの話だ。一体いつから……。

 いやこちらに来た後だろう、常識的に考えて。

 我の精神がこちらに来たということは我の肉体が空になることは想像がつく。


 しかし誰だ?

 漂っている魂が入ったのか?

 それにしても随分派手に立ち回っておるな。


 人間とも、いややはり相容れてはいないようだ。


 しかしこれで少し納得がいく。

 配信を開始すると増える視聴者、そして気付くと減っている。

 これは我ではなく、いや我なのだが。

 今のVtuberヴァンピではなく、吸血鬼のヴァンピール・ド・ヴェルジーを見に来ていたということか。


 よく考えれば、なんと不思議なことか。

 転生のことで頭が一杯になっていたが、我と同じ顔をしたイラストが存在していることがおかしいのだ。


 どこでだ。

 一体誰が、この世界で我を構築した……?

 そんなことが出来るのは、神か、いや魔王か!?

 もしや実は良子が本当は術士で、こちらに我を呼び込んだのかもしれん。

 いや流石にそれはないか。

 記憶の中の良子はそんな子ではない。


 分かっていることは、我は意図的にこちらに飛ばされて、何者かが我の体に入ることで面白がっている輩がいるということだ。

 分かったところでどうしようもない。

 もうすでに我は我の手を離れて生きている。

 そして我はもう野中正のなかただしとして生を受けてしまった。


 今更戻れるかも保証のない世界のことなど考えてもしょうがない。

 幸い人間に危害を加えているようなこともない。


 我の本懐を遂げてくれるというのなら、それは良いことだ。

 そんなことより我は我のことだけを考えておればよい。


 配信が別の要素でバズっていようが、我がすることは変わらん。

 この生活も楽しくなってきたのだ。

 これからも毎日配信を続けていく。

 それが今の我が出来る最善の選択だ。


「なんかすごいことになってたんだね、情報ありがとう。また突発配信はするかもしれないから、余裕があったら見に来てね~。それじゃあヴァンつ~」


 我は配信を停止し、思いを巡らせる。

 そして一つの仮説を思いつく。


「我と野中正のなかただしが入れ替わっている、それが一番しっくりくる」


 しかし何のために、こやつがヴァンピとして活動するには何か理由があったはずだ。

 いわゆるママ、このヴァンピを設計したもの、それに接触してみよう。

 それでなにかわかるかもしれん。


 もしかしたら元の世界に戻れるやも、いや変な希望を持つのはやめよう。

 とりあえず、メールだけ送っておくか。

 我は「今度お話がしたいです」という文面を綴り、ママに連絡を入れておいた。

 何かしらの反応があるだろう。


 この状況を変えるなにか、それがあるかもしれないと感じつつ、我は眠りについた。

 

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