第24話 対吸血鬼(配信あり)

 俺達がワイバーンを討伐した帰り道、馬車内は重い雰囲気に包まれていた。

 ワイバーンは倒せたけど、未知なる吸血鬼の存在、それが勝利の余韻を完全に消し去っていた。


 俺はワイバーン討伐作戦を冒険者ヴァンピとしてではなく、吸血鬼ヴァンピール・ド・ヴェルジーとして解決してしまった。


 俺が表の世界で名声を得る作戦、敢え無く失敗。

 むしろ、途中で戦線離脱しちゃって迷惑掛けちゃったよ。

 ごめんね、皆。


 でもワイバーンも悪いよ。

 あんな足場の悪いところで戦わせてさあ。

 皆が崖下に落ちなかった方がすごいよ。

 俺だけバカみたいじゃん。

 馬鹿なのは否定しないけど。


「あんな化け物が来たのは想定外だったが、出発前に言った通り帰るまでが依頼だ。吸血鬼の再来に備えて、気を抜くんじゃないぞ」


 リーダーさん……。

 あんたしっかりしてるよ。

 まあ俺がいる限りそんなこと起きないけどな。

 ここにその吸血鬼いるし。


 俺はシルバー達を護衛に置いて、皆は気づいていないが順調に旅を続けていた。  

 しかし、それは起こった。

 リーダーの男が呟く。


「何かくるぞ……!」


 え?

 シルバー達じゃん!

 ダメダメ討伐されちゃうよ!

 ああもう、予定が狂ったけど俺がテイムしてることで収めよう。

 どうせ後で申請する予定だったし、前倒しだと思えばいい。


「安心せよ、我の眷属である。しっかりと調教されている故、危害を加えることはない」

 

 そう言って俺は皆の先頭に立ち、シルバー達を迎え入れる。

 よしよ~し、いい子にしてたね。

 でも急に来るのはだめだよ、何かあった?


「すげえ……本当にテイムしている」

「あの銀色……伝説のフェンリルじゃないか!?」

「嘘だろ、決して人を寄せ付けないあの魔物を」


 え? シルバーはただの狼だよ?

 見た目はかっこよくなったけど中身はただの獣だよ?

 そうだよな?

 違った?

 まあ関係ないよ。

 俺のシルバーはかっこよくて、モフモフしている最高の仲間だ。


 デビアイちゃんも最高の仲間だよ!

 だからそんな目で見ないで。


 まあフェンリルと誤解してるならそれでもいいや。

 別に名声が高まることならいいし。

 周りが勝手に勘違いしてるだけだし。


「主よ、吸血鬼がこちらに向かってきている。半吸血鬼ではない、本物だ」


 心なしか、声の震えているシルバー。

 それだけその相手に威圧を感じたということだろう。

 前回の半吸血鬼相手でもボロボロだったしな、本物となると力の差を感じるよね。


「しゃべった……」

「人語を介する魔物なんて聞いたことないぞ」


 俺もだよ。

 シルバー以外で会ったことないよ。

 意思の疎通取れて便利だからいいけど。

 そんなことより吸血鬼かあ、どうしよう。

 ここで俺が残るから皆先に逃げてくれって言っても、信用ないだろうな。

 俺途中で崖下に落ちちゃうマヌケだし。

 そもそも俺一人残ったところで足止め出来るかって話。

 普通そんなことさせない。

 冒険者は仲間を見捨てない!

 多分。


「くっ、やはり追いかけてきたか、夜を狙ってくるとは」


 そりゃ夜と言えば吸血鬼、吸血鬼と言えば夜だろ?

 昼間から堂々と登場するヴァンピがおかしいんだよ。

 おかしいよな?


「全員で迎え撃つぞ、聖魔法を撃てる聖職者を最優先に守ってくれ」


 やはりこうなるか……。

 ちょうどいいか、ここで今までの失敗を挽回するいい機会だ。


 俺には秘密兵器もあるしな。

 対吸血鬼の対応も考えてあるのさ。

 周りが戦いに備えていると、遠くから吸血鬼が歩いてきた。


「おや、こんなところで人間が大挙しているとは。今夜はいい日だなあ」

「しらじらしい……、何が目的だ!」

「吸血鬼と人間が対峙する。それによる帰結など言わなくても分かるだろう?」

「ああ、そうだな!いくぞ!お前ら!!」

「うおおおおおおおおおお」


 俺達と野良吸血鬼の戦闘が始まった。


「配信を開始します」


 いいタイミングだ!

 今回は人間の姿でスタートしてる。

 相手も吸血鬼、充分な相手だ。

 こりゃバズるぞ、いやバズってもあんまり関係ないが。


 俺のバックには銀貨や金貨が結構増えた。

 ヴァンピの配信は短時間なので広告収入はあまりないが、投げ銭がなぜか異常に増えた。あとサブスク。

 サブスクっていいよね。

 月額何円か払うだけで広告無視できるし、サブスクバッチやスタンプも使える。

 コメントによく流れてくるのでこの配信でも使えるだろう。

 投げ銭が多いのは、たぶんバトルしてるところが面白いのだろう。

 感謝の投げ銭ってな。


[ヴァンは~]

[最近頻度高いね]

[通知ONにしてあるのでいつも間に合う]

[相手も吸血鬼?]


 今日は……三千人か。

 俺の突発配信人集まるようになったなあ……。

 ゲーム配信じゃなくてイベント系してたほうがよかったか?

 でもVtuberがやれるリアル系って限られるしなあ。

 動画なら加工が効くけど、配信は手元移すのとかが精一杯だし。

 ちなみに動画は面倒くさくて投げました。

 

 いかんいかん、気を取り直さねば。

 俺は戦いに向かっている戦士達を他所にいつもの挨拶を行う。


「今日も我の姿を見に来たのか、暇な奴らよ。今からあの悪の吸血鬼を人間達と協力して倒す。よく見ておくといい」


[人間達との共闘だ!]

[ボス戦か?]

[人間なのは縛りプレイ?]

[草]


 とりあえず草って打つやついるよな。

 頭からっぽにして見てるんだろうなあ。

 いいぞ、そういうやつらが増えるほど、視聴者ってのは増えてくんだ。


 こゆ~い奴らを凝縮していくと先細りしていく未来しかない。

 ライト層を取り込むんだ。

 

 なんで俺は異世界に来てまで配信のイロハを実践してんだ。

 まあ投げ銭で裕福になれるのも否定できないし、なにより唯一の現実との繋がりだ。

 地味に懐かしくて、寂しさを紛らわせていることも事実だしな。


 あ、交戦している。

 さすが吸血鬼、相手の攻撃をものともしてない。

 リーダーの剣がいいところに入った!!


 さすがに効いた? と思ったがすぐ再生されてしまう。

 夜中の吸血鬼ってそのステータス高いんだよなあ。

 これ俺参戦しないと普通に負けるぞ。


[ウロウロしてるだけで草]

[戦え! 臆病者か?]

[共闘とか言ってたのに全部人任せ]


 これは敢えてなんだよ。

 味方のピンチを演出してから俺が颯爽と敵を倒す。

 皆は助かってハッピー、俺も名声を得られてハッピー。

 win-winだろう?


 おー、聖魔法が放たれた。

 これ味方には素通りして、邪悪なるものにだけ効くから、避けたりしなくて便利だよなあ。

 俺は避けないと食らうから避けるけど。


 いいぞ!

 押している。

 聖魔法をまともに食らった吸血鬼が明らかに弱っている。


 ん?

 前線が突破された。

 まずい。

 聖職者を狙いに来てやがる!


 こちらの護衛が続々と倒されていく。

 間に合うか?

 否、間に合わせるのが俺だ!


[てかなんで吸血鬼の時と人間の時があるの?]

[吸血鬼なのに人間と仲良ししてて草]

[草]

[草]

[あ、ちょっとやばくね]


「そこまでだ! 我がいる限りここは決して通さん!」

「どけ、人間風情が!! 我を誰と心得る、我は……お前、何か匂うな」


 あ、まただ。

 吸血鬼って鼻いいよな。

 半吸血鬼にも見破られたし。


 人間に偽装してても分かるのは分かるのか。

 まずいな、これ以上しゃべられても困る。

 さっさとケリをつけてやろう。


「何を言いたいかは知らぬが、死ぬがいい!! 吸血鬼よ」


 俺は何か暴露される前に、吸血鬼の前に出る。

 その速さについてくる吸血鬼は、俺の攻撃をその爪で受け止める。

 まあこの剣普通の剣だし、吸血鬼相手に致命傷なんて与えられないよね。

 俺は周りに聞こえないような声で忠告する。


「我を誰と心得るか?ヴァンピール・ド・ヴェルジー、名前くらい聞いたことあるであろう?」

「な、貴様が。そうか、そういうことか、人間に紛れているなどお前らしいな」


[相手なんか察してるけど]

[有名人か?]


 な? やっぱり俺吸血鬼界で有名なんだよ。

 名前出すだけでビビってるもん。

 このまま圧倒しますかね。


 俺は剣での攻撃を何度も繰り返し、相手に逃げる隙を与えない。

 周りも人間達が囲っており、逃げ場はない。


「くっ、多勢に無勢か」


 空中に逃げる? させるわけないだろ?

 俺は逃げようとする、相手の足首を掴み地面へと叩きつける。

 そこに聖職者による聖魔法が放たれる。

 ちょっと、そのコース俺に当たる!!

 やべえ!


 俺はなんとか身をひねって避ける。

 そのせいで相手の吸血鬼の拘束が解け、直撃せず掠るだけに留まってしまった。


「ぐああああ」


[痛そう]

[可哀そう]

[こいつも死ぬのか……]


 痛いよね、掠っただけでも焼けるように痛いよね。

 俺も経験したけど、泣くかと思ったもん。

 ヴァンピは最強だから泣かないけどね。


 さあ、仕上げだ。

 俺はバックから銀のナイフを取り出すと、その切っ先を相手の吸血鬼の心臓に向けて振り下ろす。


 俺の手も焼け爛れるが、そんなの気にしていられない。

 隠せばバレない、バレない。


「がはっ……」


 相手は急所に致命的な攻撃を食らい、その体が灰になるように消えていく。


「見誤ったか……」


 静かに消えゆくそいつは諦めたかのように呟いた。


[吸血鬼初討伐きたー]

[半吸血鬼は吸血鬼じゃないの?]

[初めて見たけど、まじリアルだな]

[綺麗に消えていくな……]

[儚い]


 これから何度でも倒すから。

 吸血鬼は全滅だ!

 でも毎回配信するとは限らないからそこんところよろしく。


 俺がいる限り、吸血鬼ごとき、何体でも屠って見せよう。

 出来るよな?

 ヴァンピは最強だもん!!


「やったぞ! 吸血鬼を倒した!!」

「さすが聖魔法だ。これさえ在れば吸血鬼も怖くないぜ」

「皆さんの助力のおかげです、守ってくれてありがとうございます」


 うんうん、俺がナイフでとどめを刺したのは見えてなかったみたいだけど、味方の重要人物を守ったとして名声が高まるだろう。


 俺は満足して、必死に手に回復魔法を掛ける。

 痛い痛い痛い!!

 治るの遅い、銀触るだけでだめなのかよ。


 手袋用意しておこうかな。

 毎回これじゃあさすがに身が持たない。


 俺は興奮冷めやらぬといった人間達を見ながら、吸血鬼って意外と倒せるなと思った。

 銀が弱点って意外と知られてない?

 なんかそんな感じするな。

 まあ、知らないならそれに越したことはない。


 銀って別に硬度強くないから武器には向かないしね。


 手は未だに治らない。

 いてえ!


「配信を1分後に終了します」


 デビアイちゃん、いつもいつもありがとう。

 俺は締めの挨拶に入る。


「また同族に手を掛けてしまった。しかし!我はヴァンピール・ド・ヴェルジー、人間に仇名す全ての吸血鬼を屠るもの!これは序章に過ぎぬ」


 小さな声でカメラ、デビアイちゃんを呼び出し叫ぶ。

 周りは誰も見ていない。


[ヴァンピさんまじかっけえ]

[一生ついていきます]

[また見せてくれ]

[私はゲーム配信の方がいいかも]


「配信を停止しました」


 ふう、終わった。視聴者は……、初の一万人越え!!

 これはもう一流のVtuberと言っても過言ではない。

 その名声は俺にじゃなくてヴァンピになんだけどな。

 初めて純粋な吸血鬼との戦闘だったが、人間の姿でも割といけるな。

 というか相手の吸血鬼、結構無鉄砲だな。

 俺がいなくても負けてたんじゃないか?


 吸血鬼は驕り高ぶっているやつが多い。

 自分が強者だと思ってる、いや実際に強者なんだけど。

 人間なんて家畜程度にしか思っていないから手痛い反撃を食らうんだよ。


 俺が頑張って狩らなくてもそのうち全滅しそう。

 そうなったらいいな。

 俺は頼もしい人間達を見ながらその輪に加わっていった。



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