第22話 ワイバーン討伐(配信あり)

 ワイバーン討伐を控えた俺は、何日か離れる王都の為に、夜の警戒を行っていた。

 今日は大量だった。


 婦女子暴行未遂二件、お店への強盗一件、酔っぱらいの喧嘩三件。

 街の便利屋こと平和を守る真なる吸血鬼ヴァンピール・ド・ヴェルジー。

 今日も大忙しである。


 ふと王城の方に目をやる。

 そういえば、城の関係者の女の子と会った時なんで配信開始されたんだろう?

 毎回思ってるけど、配信のタイミングが未知。

 最初なんてゴブリン殲滅させただけだよ?


 その後の勇者との接触にはスルーだったし。

 オーク戦も馬車守るときも配信来てもいいタイミングだったじゃん?

 誰か知らんが面白がってやがるな。

 どんな存在かは知らないが、俺を甘く見るなよ、俺は吸血鬼(本物)Vtuberヴァンピだぞ。

 配信などすべてこなして見せよう!


 そんなことを考えている間に、夜は深く、月が空からサヨウナラしようとしている。

 まずいまずい、熱が入りすぎた。

 さっさと宿に帰って寝ないとな。


 明日(今日)は大事なワイバーン討伐作戦だ。

 活躍して名声を手に入れて見せる!

 

 朝、ワイバーン討伐に向けて出発する準備をした大量の冒険者たちが広場に集まる。

 どいつもこいつも歴戦の猛者って感じだぜ。

 強いんだろうなあ、多分。


「お前ら! 到着してからが依頼じゃねぇぞ! 出発したときから依頼開始だ! はき違えるなよ!」


 リーダーっぽい人が大きな声で叫ぶ。

 そうそう遠足は帰るまで遠足だよな。

 この場合始めからだけど。


 俺は昨日のうちにシルバー達に命令してある。

 俺達の周りにいる魔物は狩れるだけ狩ってと。

 安全に行きたいじゃん?

 皆疲弊した状態じゃ負けちゃうかもしれないし。


 ワイバーンのいる山地までの四日間、馬車に揺られながら安全な道をいく。

 他の冒険者は神経をすり減らしていただろうけど。

 安全なんだよなあ。


 教えるわけにもいかないので、積極的に夜の番を申し出た。

 別に俺は何徹しても問題ないし、しかもシルバー達が雑魚を狩ってくれてるから問題はない。


 たまにシルバーの手に負えないかもっていう敵が来ると、俺はちょっとお花を摘みにって言いながらその場を去り、闇夜に紛れ吸血鬼ヴァンピとして魔物を抹殺した。


「今宵も月が眩しい、悪は、殲滅だ」


 きゃーヴァンピ!

 いつもありがとう、愛してる。




 そんな安全で楽しい旅路を乗り越えて、俺達はワイバーンの巣食う山地へと到着した。

 山地は低いとはいえ、人が通るには険しく、道も整備されていない。

 一歩間違えれば崖の下に真っ逆さまである。

 先頭を歩いていたリーダーの男が少し広めの平地になっているところに着くと、ワイバーンには聞こえない程度に大きな声で叫ぶ。


「見えるか!あの先にワイバーンの集団がいる。やつらは遠距離攻撃する手段を持たない!こちらから魔法と弓をぶち込んでやれ!!」

 

 おう!と声が唸る。女性陣も何人かいるのに、男臭いな。

 少し前進してワイバーンに撃てる魔法の射程距離に入ると、各々得意な魔法で攻撃を繰り出していく。弓もあるよ!


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 突然の攻撃に、ワイバーン達が怒り狂う。

 地面に落ちたのは二体か


「お前ら!いくぞ!!」


 リーダーの男を先頭に前衛部隊の全員が駆け出していく。


「我らもいこう」

「当然だろ!」

「腕の見せ所ですね」

「私の力見せましょう」


 数で言えば圧倒的にこちらが多い。

 問題は相手は中に浮けるということだ。


 地に落ちたワイバーン達の羽を攻撃する。

 まずは相手の機動力をそぐ。

 飛べさえしなければただのトカゲよ。

 ちょっと大きいかな?


「うおおおおおおおおお」


 リーダーの男の大剣がワイバーンに大きな傷をつける。

 仲間を守ろうというのか、多くのワイバーンが地に降りてこちらに攻撃を仕掛けてくる。

 その巨体に見合う、強力な前足や後ろ足を使った攻撃。

 少年カイルスは受けるので精いっぱいのようだ。

 必死だねえ、頑張れ!

 

 試験官ビヨーンは相手の攻撃をさらりと躱し、反撃を行う。

 しかし相手の分厚い肉体に、細剣は通らない。

 相性が悪いねえ、来る前にわかってたことだけど。

 味方がつけた傷を抉るとかしたいところ。


 エルフエッフェルフィンは、逃げてるな……


 何が「私の力見せましょう」だよ!

 戦え!あ、弓に持ち替えて後衛部隊に混じりやがった。

 現場の判断が優先ですってか。

 あとで文句付けといてやるじゃら覚えておけよ。


 俺?

 俺はまあ普通に戦ってた。

 リーダーの男を参考に、強すぎず、弱すぎず、決して負けないように。


 目立つとは言ったよ?

 でもいきなり人外じみた活躍しちゃうと、腫れ物扱いになるじゃん?

 だから順を追って強くなっていきたいわけ。


 すでにBランクにしては強い……って一部の人達にはバレ始めているから、このワイバーン戦で、少しかっこいいところを見せればいい。

 そんなことをのんきに考えていたら、暴れていたワイバーンのしっぽが俺に直撃した。


 そのまま直立不動でもよかったんだけど、さすがにおかしいかなって思って、吹き飛ばされてみた。


「おっさん!」

「ヴァンピさん!!」


 何を心配することがある。

 ここですっと立ち上がって問題ないですアピールすれば、あいつ……強いなって再認識される。大勢に。


 さあ立ち上がろうと思ったけど、中々地面に落ちない?

 あれ?

 もしかして浮いちゃった!?

 つい吸血鬼の本能でちゃった?






 違いました。

 切り立った崖の上だったので、崖の方に放り出されて絶賛落下中です。

 まずった。

 ここから浮くわけにもいかないし、かといってすぐ戦列に参加することはできない。

 今回のワイバーン討伐は諦めよう。

 しょうがない、失敗だった。

 幸い、そこまでの高度じゃないし、下は森が茂ってるから運よく木に引っかかって無事でしたパターンでいける。

 いかなければならない。


「配信を開始します」


 デビアイちゃんから無慈悲なコールが鳴る。

 ここ!? 俺いま落下中だけど。

 バキバキバキと森にある木の枝を折りながら地面へと着地する。


[ヴァンは~]

[今日もきたー]

[前もだけど、格好が普通だ]

[この衣装もこれはこれで]

[サバイバルゲーム?]


 しまった。変身してない。


「今日も我の姿を見に来たのか、暇な奴らよ、これは仮の姿、冒険者ヴァンピ、ただのヴァンピの姿だ。今からワイバーンを討伐する。よく見ておくといい」


 そう言って服を一瞬でいつもの格好漆黒のコートに目元を隠した仮面に変身し、空へと舞い上がる。

 あ、このまま出てきたら疑われちゃうかも。


 迂回迂回っと。

 前のオークの時は失敗したけど、今回は強い冒険者もいるし、共闘くらい出来るだろ。

 あくまでワイバーンを倒しにきただけだもん。

 お前らとは争う気はないんだ!!


 だからいきなり攻撃しないでね?





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