第21話 依頼をこなそう
俺は少年との決闘を配信しながら行い、リスナーからはやりすぎという言葉を頂き、周りの観客からは「おいおい、あいつやるわ」みたいな反応をもらった。
順調に俺の実力が伝わっていってるね。
いいねえ。
いい傾向だよ。
このままどんどん実力者ムーブしていこう。
その日は冒険者ギルド本部から去り、夜の悪い人懲らしめちゃうぞー作戦を開始した。
しかし、本当に多いな。
何回も夜に出かけているけど、最低一回は悪人と出会う。
ある意味平和なのかもしれん。
魔王という人類共通の敵が存在しているのも関わらず、王都では堂々と犯罪が起きている。
自分たちには関係ない。
そう思っているのだろう。
魔王の軍勢が大挙してきたら、君たちも死んじゃうよ?
必死に耐えてる軍の人や勇者に感謝の気持ちを持たないと。
俺?俺にも感謝して欲しい。
でもヴァンピの真の姿は秘密だからな~。
俺は人間に優しい吸血鬼ですよ!
大丈夫だよ、安心してね!
なんて一人で言ったところで、磔の上火炙り、それでも死なないから聖魔法使って浄化されて灰になって消えるよ。
怖いこと考えちゃった。
ヴァンピでも死ぬときは死ぬんだよなあ。
長命だって言うけど、いつまで生きていられるのかな?
もしかして不死?
いや人間の血を吸ってないから実は衰弱してるかも。
俺は体の具合を確かめる。
うーんそんな様子はないな。
夜中に滾ってくるこのパワーは相変わらず強力だ。
夜の任務を終え、こっそりと宿に戻り、就寝する。
短時間の睡眠でもすぐ元気になる。
ショートスリーパーだね。
俺も人間にしては、睡眠時間短くても大丈夫な人種だったから、この感覚は懐かしい。
さすがに一時間寝て元気に、ってほどじゃないけど。
「今度はケイシンさんところの娘さんがいなくなったみたい」
「また、今年に入ってから何人目かしら」
耳のいい俺の中に不穏な噂話が入ってくる。
ふむふむ、どうやら若い女の子が突如行方不明になることがあるらしい。
痕跡はなし。共通しているのは被害にあっているのが年若い女性だということ。
今のところ、ヴァンピの警戒でそのような事件には出くわしていない。
夜に出会うのは単純な暴行、強姦、窃盗を行おうとしている人物だ。
相手が被害にあう前に見つけて、なるべく事前に止めているので大きな事件にはなっていない。
しかし王都での連続婦女子行方不明か……
事件の香りがする。
ヴァンピセンサーがビンビン言っている。
これは俺が解決しないと。
じっちゃんの名にかけて!
それから数日、いつも通り夜の見回りをしながら、事件の痕跡を探した。
……全くない。
そもそも今年に入って数件、関連性がないのか?
ただの人さらいがたまたま重なっただけかもしれない。
でもなあ、心のヴァンピが未だ何か言ってる気がする。
これは、一旦保留!
きっとなにかあるのだろうけど、現状なんの証拠も出てこないし。
目の前にあるものだけ助けよう。
ヴァンピだって万能ではない。
最強ではあるかもしれないけど。
あと、王都周辺の魔物たちは基本的にシルバーに任せるようにしている。
俺が一人で行くには遠いところで起きている依頼だったり、手が離せない時などに重宝している。
優先順位が低いって言ったらちょっと失礼だけど、シルバー達なら安全に倒せるであろう、例えばゴブリンが数体住み着いたとか、EやDランクでもこなせる依頼を秘密裏に処理してもらっている。
もちろんそれで冒険者の食い扶持が減ってしまうのもかわいそうなのでほどほどにはしているが、そういった危険がある割に、割りの合わない依頼などをこなしてもらっている。
中には俺がその依頼を受けて一緒に狩りにいったりもしている。
ペットだよもう、シルバー達は。
この世界にはテイムという概念はあるが、正式にテイムを申請しているわけではないので、人の目を盗んではモフモフを堪能している。
そんな日々を過ごしていると、大きな依頼が舞い込んできた。
山地に巣食うワイバーンの集団の討伐だ。
ワイバーンとは、恐竜で言えばプテラノドン、大きな翼に細い体躯をした肉食系の魔物である。
彼らは飛行することで制空権を取り、戦いを有利に進めてくる。
まあヴァンピなら余裕なんですけど。
今回は冒険者としての実績を積みたいので、人間の姿で倒す必要がある。
今回の依頼はCやBランクの数十組の冒険者で挑むことになっている。
ソロの俺にはあまり関係ないことだが、普通は冒険者はパーティを組む。
今回は臨時パーティという形で初めて人と依頼をこなすことになった。
俺はワイバーンの討伐依頼で集まっているパーティ達の集団で、指定された場所で他のパーティの人が来るのを待っている。
「げぇ!」
ん?
前に聞いた声だな。
ああ、少年か。
半泣きになって逃げた相手と組まされるとは。
ギルドの嫌がらせか?
まあ俺に遠く及ばなくても実力はそこそこだったし、足を引っ張ることもないだろ。
「おや、貴方でしたか」
試験官!
貴方も参加するんですね。
これは心強い。
しかしこれだと近接ばかりで苦労しないか?
「お待たせ、私が一番最後か?」
声をする方を見ると弓を担いだ、爽やかなエルフがそこにいた。
エルフじゃん!
耳なげー。
てか若い、これで年は100歳とかいうんだろ?
閉鎖的なところで暮らしているから、それがいやで飛び出してきたとかそういうの。
深くは聞かなかったけど、多分そういうところだと思う。
「俺はカイルス」
「わたしはビヨーン」
「私はエッフェルフィンと言います」
「我はヴァンピ、ただのヴァンピだ」
自己紹介したけど、名前とか覚えるの苦手なんだよね。
ワイバーンの討伐には部隊を大きく分けて三つに編成されている。
ワイバーンを地面に撃ち落とし、地上部隊に攻撃を仕掛けさせる、遠距離魔法、弓部隊。
その護衛、迎撃や遊撃を行う中衛部隊。
そしてワイバーンと直接戦闘を行う前衛部隊。
俺達は前衛部隊へと編成された。
「私は剣術にも長けていてね、弓はオマケだよ」
と一番目立つ弓を背負っていながら、腰元に帯刀している剣をポンポンと叩く。
紛らわしいわ!
エルフって言ったら弓と精霊魔法とかだろ。
剣は護衛程度に使えるレベルだろ。
なに本職にしてるんだよ。
その細身じゃ絶対向いてないよ。
俺も見た目に関してはあんまり人のこと言えないけど。
全員が集まったのを確認すると、リーダーと思われる人が、点呼する。
全部隊が揃ったことが分かると、作戦とも言えない概要を教えてくれる。
ここから徒歩なら一週間、馬車で移動するので四日程度の低い山に、多くのワイバーンが巣食っているらしい。
その数は不明だが、二十体近くは報告の範囲内。
近隣の村に被害が出る前に退治して欲しいとのこと。
その近辺の多くの村や街からの依頼らしい。
え? まだ被害受けてないでしょ?
まあ魔物だし、しょうがないか。
余裕があれば俺が手懐けてあげたいけど、無理だろうなあ。
シルバー達はたまたま上手くいったけど、基本魔物って人間見たら襲ってくるし。
本能として刷り込まれてるんだろうなあ。
だからテイムしてる人なんて数えるほどしかいない。
意思疎通のとれたシルバー、そして吸血鬼だった俺ということで奇跡的に上手くいったのだ。
そういう奇跡はそう何度も起こることではない。
そうだな、この際シルバー達をテイムしたことにして申請しよう。
Aランクになるのに箔もつくだろ。
俗物的なことを考えていると、リーダーの説明は終わる。
今日は準備もあるだろうということで、明日の朝早くから出発ということになった。
俺は今夜は何しようかなあなんて考えていた。
「ご主人様~ワイバーンって強い?」
「多分そこそこ強いんじゃないかな?Cランクが最低ラインでこれだけの討伐隊の人数、一筋縄じゃいかないかもね」
ま、いざとなればヴァンピが登場するから見ておけって!!
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