第20話 少年(配信あり)

「それじゃあヴァンピ、また会うときがあったらよろしくな」

「ああ、其方との再会、楽しみにしておるぞ」


 俺達は村で一晩過ごしてから王都で別れた。

 ゲイルは少し涙ぐんでた。

 おいおい、いつもで会えるぞ。

 俺達は同じギルドに所属しているんだからな。


 さてBランクになったのだ。

 もっといい依頼を受けてさっさとAランクに上がってチヤホヤされよう。

 俺は冒険者ギルド本部に向かい、依頼を探そうとした。


「お前が、ヴァンピか?」


 誰だ?

 俺に気安く話しかけてくる奴は、割といる。

 意外といるんだなこれが。

 なんでこの状態でもヴァンピが孤立してたのか本当に不思議。


 俺に声を掛けてきたのは綺麗な短髪に切り揃えられた少年だった。


「万年Cランクのお前が、どうやってBランクの試験に受かったんだ?」


 偉そうだなこいつ。

 なんだ? やるか? お?

 まあ待て、まだ子供じゃないか。

 怒ることはない、大人の余裕を見せてやろう。


「どうやってとは? 普通に合格しただけだ。よもや我が不正をしたとでも言いたいのか?」

「お前みたいな優男が受かる訳ねーだろ、買収でもしたのか!?」


 騒がしいなこいつ。

 未だにギャーギャー言ってるのを聞き流していると、こいつ自身がCランク冒険者らしい。

 そして自分より弱そうな男がBランクになったことに不満を覚えたようだ。


 実力が分からないかあ~。

 かあ~つれ~わ~。

 この隠れすぎているオーラが伝わらなくて。

 それだけ自分の力をぎょせているということなんだな。

 改めてヴァンピのすごさを実感する。

 何回でも感じるよ。

 ヴァンピ強くてよかった。


 怒りの収まらない少年は俺に決闘を持ちかけてきた。

 面倒くさいな、なしだよなし。

 ……いやどっちだ?

 いたいけなCランクの少年をボコって白い目で見られるのか。

 無双してやっぱあいつつえーってなるのか。


 こいつの強さ次第ではどっちが正解かわからん。

 俺に強さを測るスカウターみたいのがあればな。

 アイサーチはこういうのには使えないみたい。

 もう、主人に似てポンコツなんだから!


 この自信過剰加減を見るに、こいつ、強いはずだ。

 恐らく自分の強さに自信を持っているのにランクが上がらないことに不満を覚えているタイプだ。

 多分依頼の達成数とか、貢献度とかが低くてランクが上がらないだけじゃないかな。

 まだまだ若いし、これからだと思うし、そんなに急がなくてもいいと思うんだけどなあ。


「いいだろう、その申し出受けるとしよう」

「言ったな!修練場に空きがある。そこで勝負だ!」

 

 少年が叫ぶ。

 ふふふ、いいだろう。

 いい感じに注目も集まっている。

 これは観客が集まるぞ。


 俺達が修練場へと向かって歩く。

 その後ろから決闘を見ようと野次馬が着いてくる。

 昨日の今日でまたここにくるとはなあ。


 あ、試験官いるじゃん、やほー

 指導中かな? 結構人がいるじゃん


「あそこだ」


 少年が指差す先にぽっかりと空間が開いている。

 ほう、対戦空間ですか、いいですね。


「配信を開始します」


 ここでぇ!?

 なんでぇ!?!?

 少年をリンチする姿とかどう考えてもアウトじゃん!

 かといって負けるのもない。


 どうしようかと考えている俺の前に配信画面が登場する。

 無慈悲にもコメントが流れてくる。


[ヴァンは~]

[決闘きたー!!]

[これは、少年相手?]

[今度は少年の人権無視して殺すんですか?]

[格ゲーはちょっとしてない]


 俺も困ってるよ。

 観客も集まってるし。

 ここはごまかしつつ挨拶をしよう。


「今日も我の姿を見に来たのか、暇な奴らよ、今からこの少年に手解きをしてやる。よく見ておくといい」


 うん、指導対局みたいなことにしよう。

 なんかあっさり倒しても味気ないし、かといって苦戦するのもおかしいし。

 俺はBランク冒険者としての威厳を保たねばならんのだ!


[決闘デュエル開始!]

[キター!]

[草]

[波動拳撃てる?]


 お前らのほうがふざけてるだろ!

 こっちは必死に生きてるんだぞ。

 いつ始まるか分からない配信に怯えながらな!

 波動拳は、……多分それっぽいのなら撃てるぞ。


「ふざけやがって!ぶっとばす!!」


 少年が俺に向かってくる。

 中々のスピードだ。

 俺は相手の剣を剣で返し、何回か剣戟を行う。


「どうした?我はまだ本気をだしていないぞ?その程度で我に挑んだのか?」

「くっ!まだまだあああ」


 少年の速度が上がっていく。

 無意識か? 相手が体に纏う魔力が増している気がする。

 デビアイちゃんの視界共有によって浮かび上がる相手の魔力に俺は少し驚く。

 口だけじゃないってことね。

 ふーん、思ったよりやるじゃん。

 でもね、相手が悪かったね。


 俺は何度も繰り返して攻撃してくる少年の剣をすべて片手で軽く叩き落としていく。

 その圧倒的な実力差は誰が見ても明らかだった。


 少年が息を切らし、腕を下げ肩で息をしている。

 終わりかな?

 よくやったよ少年、さあここで降参して頭を下げろ。

 

「俺はぜってー認めねーからな!!」


 涙目になった少年が叫びながら去っていく。

 残ったのは俺と観客たち。


[ボコボコで草]

[やりすぎじゃない?引くわー]

[あの子泣いてたじゃん]

[弱いものいじめよくないよ]


 あれ?

 思ったより反応が悪い。

 じゃあどうすればよかったっていうのさ!

 ボコボコにしてないじゃん!

 やりすぎてもないじゃん!!

 好き勝手いうなよ。


「配信を1分後に終了します」


 はあ、気分悪。

 配信のタイミング悪いよー。

 もっと倒しても問題ない敵、寄こしてよ。

 弱い者いじめって本当のことだからなんも言えね。


今日こんにちも見に来てくれて感謝する。どうやら不興を買ってしまったようだな、今後は善処しよう」


「配信を停止しました」


 デビアイちゃんから無機質な声が出る。

 騒めく観客たち。


「あいつCランクのカイルスだろ、実力はBランクに引けを取らないって。それを圧倒……」

「ヴァンピ、こんな面白い冒険者が王都にいたなんてね」

「真の実力は、まだ底が見えぬ、か」


 うんうんうん。

 現地人にはいい感じに伝わったじゃん?

 俺の強さが。

 こりゃAランクになってチヤホヤされるのも時間の問題だな。


 俺の成り上がり録はまだまだ始まったばかりだぜ!!

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