第19話 ゲイルという男

 俺は冒険者ギルド本部でBランク昇格試験を受けた。

 結果はもちろん合格。

 試験官を圧倒してやったぜ!

 別にBランクが圧倒しても構わんだろう?

 だろう……?


 ちょっと自信なくなってきたけどまあどうにかなる。

 俺の人生は行き当たりばったり、流れに身を任せてきた。


 だから友達も出来なかったし、いじめられることもなかった。

 孤独を愛していたんだ!

 孤立してたんじゃない!

 俺は記憶を捏造した。


「ヴァンピすげえな、Bランクなんてほんの一握りじゃないか?」

「そうか? これまでは必要を感じなかった故上げていなかったが、どうやら我が力が必要になる時がきそうなのでな」


 そんなことわかんないよ。

 ただチヤホヤされるならランク高いほうがいいに決まってるじゃん?

 自明の理ってやつ。


 話が少し戻るけど、情欲というものを感じないのは悲しい反面助かったって言える。

 だって俺童貞じゃん?

 なのにこんなイケメンになって女性に迫られたら我慢出来ないもん。


 人の美醜は分かるから、あの人可愛いなあとか美人さんだなあとか分かるし。

 でも欲情はしないから変な感じ。

 アメリカの性犯罪者って去勢されるらしいし、こんな感じになるのかなあ。


 受付の子も可愛かった

 別に性欲なくてもハーレム築いても構わないだろ?


 後ろでデビアイちゃんが見てる。

 何も言わずに見てる。

 俺は無理かなって思った。


「してゲイルよ、其方は雑用と言ったが何をしていたのだ?」


 街の中の清掃かな?

 剣と盾持ってるから一応王都の外に出て薬草採取とかしてたのかもしれない。


「俺は討伐系依頼の荷物持ち兼タンクをしてたんだあ」


 ?

 それって雑用がする仕事じゃなくない?

 ブラック企業かな?

 荷物持ちはいいよ、雑用だよ。

 タンクってなんだよ、タンクって単語がそもそも常用されてるのがゲームっぽいんだよ。


 これは……ランク詐欺。

 あえて低いランクに抑えることで自分達の取り分を増やす行為だ。

 こういうのは自己肯定感が低かったり、無知なものが陥りやすい罠だ。


 彼はどちらも低そうだ。

 だが! 運がいいな!

 お前が声を掛けたのは正義の吸血鬼ヴァンピール・ド・ヴェルジー!

 平和を守る真なる吸血鬼なるぞ!


 ということでEランクからDランクへ上がれるようにゲイルの依頼を手伝うことにした。

 こういう人助けが回りまわって自分に返ってくるんだよ。

 分かってる。この世界は俺に優しい。


「ほんとか!? 俺の依頼を手伝ってくれるって、というかいいのか? ヴァンピはBランクだろ? 俺みたいなEランクを相手にそんなこと……」


 ふむ、勘違いしているようだな。

 恐らくこの男、強い。

 EましてやD程度にすら収まらない強さを持っている。

 気がする。

 ヴァンピはポンコツなので相手の力量とかはかれない。


 でもこのガタイして弱いなんてあるか~?

 俺はないと思う。

 まあ一回試してみれば分かることだ。


 俺は付近の村に出没するゴブリン討伐の依頼を手に取った。

 それをゲイルに渡し、受付に提出するように促す。


「これを出すがよい、なに、我が見守っておる、心配することなど何もない」

 

 大丈夫!

 俺が後ろから着いて行ってあげるから。

 あぶなくなったら助けるよ!

 君は自分が思っているより強いんだから。

 その力を元仲間に見せてやるといい。


「ありがとうヴァンピ、俺がんばるよ」


 うんうん、まずはやってみないとね。

 実行することが肝心。

 計画?そんなものないない。

 行き当たりばったり、流れに身を任せて。

 そんなのでも意外とどうにかなるのさ。


 俺達は徒歩で五時間くらいかかる村に夕方くらいに到着した。

 ゲイルが依頼のあった村長に確認を取った。


 依頼書に書かれているようにゴブリンの数は二から三体。

 村の外で狩猟に出ていた狩人が発見したらしい。

 まだ見つけてから日が浅いので、そんなに増えてもいないだろうという推測だ。


 まあ俺は百に近いゴブリンを殲滅した経歴を持ってますので。

 百もいたかな?

 とにかく多かった!


「ゲイルよ、もう守るだけのお前ではない、そのつるぎ、己の為に使うのだ」

「うん、俺頑張ってみるよ」


 俺達は村からそう離れていない森に入り、狩人から聞いたゴブリンのねぐらを見つける。

 数は四。やはりまだ増えてはいない。


 ゴブリンの成長は早く、一週間あれば十体ほど生まれ、一週間もすれば成体となる。

 とにかく数が多く、繁殖力も高く、一般の村人にはゴキブリ以上に脅威になる生物だ。

 この世界ってゴキブリいるのか?

 いなさそう、無駄な設定になるしな。


「あの程度、今のお前なら造作もない、行って来い!ゲイル!」

「おお!!」


 盾と剣を持ちゲイルがゴブリン達に向かって叫びながら近づいていく。


 うおおおおおという叫びに相手のゴブリンも気付き、手元にある木を拾い応戦しようとする。

 奇襲の意味がないだろ、叫んだら。

 でも正面から相手しても勝てるだろ、多分。


 あ、一体だけ剣持ってる気をつけろよ!


 ゲイルが一体目のゴブリンを目標に定めたかと思うと、そのまま盾で押しつぶし圧殺する。

 そして右手に持った剣で隣にいたゴブリンの首を跳ねてみせた。


「うおおおおおおおおおおおおおおお」


 すげえ迫力!

 俺にはない野性味あふれたその姿は、一部の人間には非常に刺さるような姿だった。

 俺は素直にかっこいいと思ったよ。


 残り二体となったゴブリン、一体は剣を持ち、もう一体は後ろから石を投げてくる。

 ゲイルは石を盾で、剣には剣で、それぞれ対応して戦闘を継続している。


 あ、盾を投げた。

 飛んで行った盾がゴブリンの顔面にめり込み、その場に倒れた。

 そして剣を両手で持つと、ゴブリンの頭上ずじょう目掛けて思いっきり振り下ろした。

 剣で防御しようとしたゴブリンを、腕ごとへし折り、相手の頭は陥没していた。


 ええ~ゴブリン相手とは言えクソ強いじゃん。

 こいつを雑用に使っておいてもっと優秀なやつが来たから捨てるとか、元仲間達大丈夫か?

 身の丈に合わないクエストで死なないことを祈ろう。


「うおおおお!!!」


 勝利の勝鬨を上げるゲイル。

 その強さを目の当たりにした俺は、ゲイルにどんどん討伐系の依頼をこなすことを勧めた。

 お前ならもっと上目指せるって。

 俺が保証する。

 Bランクの俺が保証するんだ、これ以上の言葉はないだろ?


「ありがとうヴァンピ、俺もっと頑張ってみるよ」


 また一人の人間を正しい道に導いてしまった。

 さすがヴァンピ、さすが俺。

 今日もいい仕事したなあ。


 その日は村に依頼の達成を報告して少し宴をした。

 俺は付き添いで来ただけなので、依頼を達成したのはゲイルだ。

 村人達からの感謝の言葉に、少し恥ずかしそうに、そして嬉しそうに笑うゲイルの姿が印象的だった。

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