第18話 冒険者ギルド本部

 いつもの格好漆黒のコートに目元を隠した仮面、ではなく、休日スタイル然とした服装で俺は冒険者ギルド本部の前へと到着した。

 冒険者というのは便利屋であり、ならず者のたまり場でもある。


 基本的に上のランクの人は腕っぷしが強く、低いランクの人は街の清掃やお手伝いなどで日銭を稼いでいる。

 俺のランク?

 あとで分かるからそのうちな。


「さて、俺の華々しいデビューいっちゃいましょうかね」

「ご主人様~頑張れ~」


 いつも後ろにいるデビアイちゃんの応援が心にしみる。

 いちいち言ってないけどデビアイちゃんずっといるからね。

 俺が風呂入ろうが、トイレいこうが、寝ていようが、基本ずっといる。

 最初は監視されてる気分で、中々慣れなかったけど、今はもう完全に問題ない。

 

 そもそも見られて困るようなことなどない。

 今のところはな!

 もしかしたらエッチでいや~んな展開があるかもしれんが、そもそも性欲が湧かないし、もしかしたら生殖能力もないかもしれない。


 でもそうなら吸血鬼はどうやって生まれてくるんだ?

 普通に男女の吸血鬼同士なら生まれるとか?

 生涯孤独で生きてきたヴァンピの記憶からはそれを紐解くヒントはない。


 あ、あった。

 流れの吸血鬼(故)が話していた。

 普通に男女の吸血鬼から生まれるっぽい。

 あとどうやら人間とも生殖は可能らしい。

 生まれてくる子供は例外なく半吸血鬼となるけど。

 前に俺達と戦ったやつらみたいのね。


 完全な吸血鬼になるには大量の命を必要とするし、血の衝動を抑えることも出来ないので、見つかれば基本処刑の対象になる。


 そもそも血の衝動を抑えられたの世界でヴァンピだけだろ。

 同族殺しのヴァンピだって言ってたし、吸血鬼界では有名人っぽいし。


 こりゃうかうか性交も出来ないな、避妊は、魔法で可能、か。

 でも怖いよな、なんか萎えてきた。

 ハーレムでウハウハ計画は一旦中止!

 そもそもそんな計画は初めからない!


 俺がぐちゃぐちゃ色々考えながら開いている扉の近くにいると、がたいのいい兄ちゃんが話しかけてきた。


「ここらじゃ見ない顔だな?お前も冒険者か?」


 俺はこいつも宿の主人みたいだなって思った。

 禿げてはいないけど、いかつい顔をして大きな剣を担いでいる。

 それと一緒に盾も持っているあたり重戦士のような職種かな?


 こういう場合は二パターンある。

 そんな成りで冒険者とかお前舐めてる? ギタギタにしてやるよ!

 兄ちゃん、俺こんな顔してるけど親切なんだ、よかったら案内するよ!


 この二つだ。


 さあどっちだ!?


「実は俺もなんだけど、今日初めてギルド本部に来てさあ、気圧されちゃって。よかったら一緒に入ってくれないか?」


 違いました。

 こんなところで変化球投げなくていいんだよ。

 よく見るとペコペコと俺に会釈をしている。

 見た目に反して意外と気弱だな。


「ほう、我も同じだ、いいだろう共にくことを許可する」

「悪いな、じゃあ早速行こう」


 入る前に名前を聞くと、男はゲイルと名乗った。

 俺は只のヴァンピ。

 最強の吸血鬼です。

 違った。ただの冒険者です。


 俺達が恐る恐るギルドの中を覗くと、支店とは違い多くの人間がそこにはいた。

 この世界人間ばっかかと思ったけど、ちらほら違いそうな種族がいる。

 エルフっぽい耳長の人や、明らかに成人の顔つきをしている子供くらいの人、耳をはやした獣人のようなやつもいる。

 こんなに多種多様な人種がいるなんて。

 今まで人間としか会ってないよ。


 ゲイルも初めて見たらしい。

 ギルド限定かな?

 国を跨いで活動できる冒険者ギルドだからか、少なくない数の人間以外の人種を見ることが出来た。


 今後ももっと注視して行動しよう。

 あれ、俺ワーウルフ倒したけど、あれもしかし獣人?


 まあ眷属ならしょうがないか。

 うん、しょうがない。


「ところでゲイルよ、お前は何用でここにきたのだ?」

「俺はさあ、しがない支店で冒険者やってたんだけど、お前はもういらないから出ていけって、他の安い雑用係雇ったからってさ」


 冒険者に雑用もくそもあるかよ。

 便利屋だぞ、むしろ雑用しかねえよ。

 可哀そうに、追い出されたんだな。


 問題ない。

 俺がいる。

 俺が支えてやろう。


 俺はゲイルを自分の後ろを歩かせ、颯爽と受付へと向かった。


「そこの麗しき受付のお嬢さん、ギルド登録の移転をしたいのだがお願いできるかな?」

「はい、大丈夫ですよ。冒険者カードをお見せください」


 俺とゲイルは共にカードを取り出し渡す。


「ゲイルさんはEランク、ヴァンピさんはCランクですね」


 そう、俺はCランク。

 可もなく不可もなくって思うだろ?

 一応これは一人前の証だ。


 ギルドのランクは下からF,E,D,C,B,A,Sとなっている。

 これはギルドの依頼の達成度や貢献度、個人の技量を含めた総合的な評価となっている。

 そして基本的に強者でなければ上のランクにはいけない。

 もちろん下のランクでも強いものはいるがな。


「俺、雑用しかしてないからEからあがってないんだよ、ヴァンピはCかあすごいなあ」


 Cランク。

 Dランクがぎりぎり一人前とすればCランクは一人前だ。

 自分の食い扶持を自分で稼げる。

 戦闘力も普通の兵士五人程度なら相手にできる。


 ま、今の俺は世界を相手にしても勝て、さすがに勝てないかな。

 でも相当強いことだけは間違いない。

 俺がゲイルから羨望の眼差しで見られていると、受付の女性が声を掛けてくる。


「ヴァンピさん、こちらBランクへの昇格が可能となっておりますが、如何いたしましょうか?」


 あー依頼数が達しているとかかな。

 今までのヴァンピなら拒否一択だろう。

 だって目立ちたくないし。

 ヴァンピがCランクまであげたのは、討伐系の依頼を一人で受けれるギリギリ最低のランクだからだし。


 普段は人間に偽装している手前、好き勝手にそこら中にいって依頼にある危険な魔物や魔族のような敵対勢力をばったばったと倒してもいいが、そうすると人間としてのヴァンピは存在出来なくなる。


 あいついつもいないけど、なにしてるんだ?

 怪しいやつめ、ひっ捕らえろ!

 となりかねん。


 しかし今の俺は違う。

 Bランク?

 なってやろうじゃないの。


 俺が今日ここに来たのはこの為だったのだ、多分。



「いいだろう、我を試すというのだな?甘んじて受け入れてやろう」

「そうですか、それでは奥の訓練場で試験官を呼んできますので、しばらくそこでお待ちください」


 綺麗な受付嬢にそう言われて、俺は訓練場へと向かう。

 後ろからゲイルもついてくる。

 結果が気になるようだ。

 大丈夫だ、手加減はする。


 あくまで一般的なBランク冒険者じゃないとな。

 いきなり飛び級でAやSランクはさすがに怪しすぎるからな。


 そもそもAは実力があればなれるけど、Sランクは特別な成果を挙げなければ、なれないらしいから、なんかどこかでそれらしい成果を上げることしよう。


 しばらく待っていると試験官になると思われる、ひょろっとした、それでいて圧のある男がその場に登場した。

 

「今日の相手はどちらかね」


 俺たち二人を見て試験官が尋ねる。

 ゲイルは首をぶるぶると横に振り、俺の後ろに隠れた。

 そんな怖がらなくても、取って食いやしないよ。


「ほう、貴方ですか、とてもそうは見えなかったんですけどね」


 まあ俺の装備ないし?

 ゲイルは立派な盾と剣持ってるし?

 そりゃ勘違いするよな。

 俺はバックから剣を取り出す。


「ほう、マジックバックですか。中々いいものをお持ちだ」


 いいでしょー。

 これはヴァンピになってついてきた特典みたいなものだと思ってる。

 色々困っても、結構バックの中にあるもので解決できたりする。

 投げ銭やアミゾンギフトも届くしな。


「では、構えを取りなさい。お相手いたしましょう」


 そういうと試験官は訓練場の中心に陣取る。

 俺はそれに合わせて距離を取りながら剣を構える。

 それっぽい感じで。


「ではいきますよ」

「かかってくるがよい」


 俺は腕を横に大きく広げ、挑発するかのように相手を迎え撃つ。


「手加減は、出来ませんよ」


 そういうと試験官の男は細いレイピアのような剣をこちらの首に突き刺すように向かってくる。

 そのスピードは人間にしては中々はやい。

 しかしヴァンピの動体視力をもってすれば容易く避けられる。

 俺はひらりと宙を舞い、その場に降り直す。


「やりますね……、ではこれはどうですか?」


 男がそういうと、今度は鋭い突きの連続攻撃をお見舞いしてきた。

 しゅんしゅんしゅんと剣がしなるように繰り出される突きをすべて剣で受け止める。


 数十秒ほど続いた攻撃は、相手の息切れによって止まった。


「ふむ、もう終わりか?」

「……ふう、降参です。私には荷が重すぎたようですね。Bランクへの昇格おめでとうございます」


 俺はあっさりとBランクへの昇格を決めた。

 ゲイルがすっげーって顔してる。

 どうだ?すごいだろう?

 こんなもんじゃ終わらねえ、もっとチヤホヤされるために、冒険者活動頑張るぞ!






 吸血鬼としての裏の顔も忘れてないよ!!

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