第17話 王都への帰路
俺は三人の半吸血鬼との戦いを終え、シルバー達を回復魔法で癒してあげると、逃げているジンシンの方に向かって走り出した。
逃げるようにと言ったから随分遠くまで行っているだろうけど、馬も休息は取る。
どこかで会うことはできるだろう。
最悪王都に着くまで合流できなくても、おかしいことではない。
俺が戦闘が終わってから、歩いて帰ってきたとかいえば問題ないと思う。
だってあんな危機的な感じで送り出しておいて、はい無傷で余裕でした~ではなんかおかしい感じもする。
まあダンショウさんから話が通っているなら、俺の強さもジンシンは知っているだろうし、不思議に思うこともなさそうだけど。
なんなら、やっぱりヴァンピさん強いですね! って普通に迎え入れられそう。
俺はとりあえず夜が明けるまで走ってみたが、ジンシンと思われる馬車を見つけることは出来なかった。
俺は近くの森林に入り、少し休むことにした。
いうほど疲れてないけど、普通の人間は休むからね。
半吸血鬼との戦闘があった翌日の昼過ぎ、シルバー達は相変わらず俺の見えないところで周りを警戒している。
眷属召喚が可能なことを昨日の半吸血鬼達が教えてくれたので、近くにいなくてもいいと言ったのだが「主よ、我が近くにいると迷惑か?」と目をうるうるしながらいうもんだから、そんなことないよって言ってあげた。
実際近くにいたほうがいいしね、何も毎回眷属召喚する場面ばかりじゃないし。
普通にモフりたいときとかもあるし。
人間に変装しているときに、何か役に立つこともあるかもしれん。
備えあれば憂いなしだ。
俺が道を走っていくと、ジンシンが乗っているであろう馬車が見えてきた。
どうやら近くの乗合馬車の人達と話をしているようだ。
俺は声を出してジンシンを呼ぶ。
「ジンシンよ、我が帰還したぞ、無事であるか?」
「! ヴァンピさん!! お怪我は、無事なんですね!?」
無事無事。
怪我もないし、してても自己再生能力高いから治っちゃうし。
あれ、人間ってそんなに簡単に再生しないよな、下手に怪我負ってすぐ治っちゃったらバレちゃうじゃん。
ヴァンピは強かったから今までバレなかったかもしれないけど、俺はヘマする自信がある。
腕が千切れても回復魔法で治したと言い訳するようにしよう。
そうだ回復魔法があった。
あぶねー言い訳見っけ。
これで安心。
どうやらジンシンが逃げだした馬車の先で、他の旅人を乗せた乗合馬車と出会い、こっちは危険だからと帰るように説得していたようだ。
さすが出来た人、まあ普通か?
「敵が先にいるのか?」
お、ノーズじゃん。
ノーズは前にダンショウさんを助けた時に護衛をしていた冒険者だ。
今回は乗合馬車の護衛をしているようだ。
偉い偉い。
「ヴァンピさん! ということはもう敵は……」
「全て我が殲滅させた。安心して進むといい」
さすがヴァンピさん。
そこに痺れる憧れるぅ!
ノーズの尊敬の目が眩しい。
日光じゃないのに肌が熱く感じる。
俺達は乗合馬車に乗るノーズ達と別れ、王都への帰路についた。
戦闘の話は少しぼかしておいた。
馬鹿正直に三人の半吸血鬼を相手に無双しましたってそれどこの勇者って状態。
いくら俺が強いとはいえそこは人間、仮に勝ったとしてももっと疲れていなければおかしい。
俺は半吸血鬼を一体倒しただけだよと答えた。
「半吸血鬼ですか……本当にいるんですね……」
いるんだなこれが。
人間として生まれたのに、吸血鬼の長命さ、強さに憧れて眷属として生きる道を選ぶものは後を絶たない。
大半はおもちゃの様に遊ばれて、捨てられるのが落ちだ。
真面目に眷属として扱い、育てることなどすることはない。
そう考えればあの三人組は自由にやらせてもらっているな。
はたまた主人の吸血鬼が死んだか。
五体満足のまま放り出されただけか。
真相は闇の中だ。
二人で王都を目指した翌日、無事王都へと帰ることが出来た。
「今回はありがとうございました。王都の外に出て色々な事を学べました」
「気にするでない、よい知見を学べて有意義な旅だったな」
襲われたことは多分俺のせいだから気にしないで!
シルバー達がいなければちょっかい出されることはなかったと思う。
王都に近いのに存在してるって吸血鬼ってそんなに数が多いのかな?
あいつらは元人間だけど。
吸血鬼の正確な人数などは分からない。
それはそうだ、住民登録をしているわけでもないのに。
この世界で総数を知ることが出来るとしたら、村単位の住民数くらいなものだ。
それすら正確ではなさそうだ。
俺はジンシンとの挨拶もそこそこに、一旦宿に戻る。
いつもの宿の主人に迎えられ、いつもの部屋へと腰を落ち着ける。
まだ昼過ぎか……
特にやることがないなあ。
そうだなあ。
ヴァンピならしなかった行動でもとるか。
俺は一番大きな冒険者ギルドに行くことを決めた。
別に人間として目立っても、吸血鬼ヴァンピール・ド・ヴェルジーと紐づけられなければ問題あるまい。
俺はもっとチヤホヤされたいの!!
特に女の子とかに!
そうと決まれば即行動だ。
俺は少し淡い青色をしたシャツに着替え、鼠色のズボンへと服装を変える。
たまには気分転換で、別の衣装もいいんじゃね。
ヴァンピなら毎日変えてそうだけど、俺にはセンスがないからね。
いつもの服ってのが一番落ち着いたりする。
今回は強者がゾロゾロといるであろう冒険者ギルド本部へ行くのだ。
戦闘服として少し気合を入れさせてもらった。
でもパッとみ軽装すぎて冒険者っぽくないかも。
ノーズだって、皮鎧来てたし、防具ちゃんとしてたな。
今の俺っていかにも休日快適に過ごしてますっていう人じゃん。
でもなーこの軽装で無双しているところもう見られてるし今更感あるよな。
よし、このままでいこう。
俺は後のことなどあまり考えずに冒険者ギルド本部へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます