第14話 我、鍛える
我が
まずは歩くだけでも息の上がる脆弱な肉体を解消するために、散歩から始めた。
初めは街中を一時間歩くだけで満身創痍だった。
たわけが!
引きこもりすぎだ!
お前は脆弱な人間なのだぞ。
普段から鍛えておかねばこうなることは目に見えていただろうに。
今はいないこやつに文句を言っても仕方があるまい。
我は家に帰り風呂場に行きシャワーを浴びる。
風呂場から出てドライヤーを使い頭を乾かす。
実に便利だ。
そして頭の中を肉体のことから違うことへと切り替える。
そう、これからはあのベロラントという遊戯で勝たねばならんのだ。
二階に行き、自分の部屋のパソコンの前の椅子に座った我は、まず
ん?あまりないな、このBpexという別の遊戯の記憶の方が多い。
こちらではもっと敵を倒している。
つまりこの遊戯も得意だったということだ。
しかし我が負けたのはベロラントだ。
借りを返すにはまず、負けた相手から。
我は敗北など知らぬゆえ、負けるということがどれだけ屈辱的なものなのか理解できていなかった。
我に悔しさがこみあげてくる。
腸が煮えくり返る。
脳が沸騰しそうになる。
そもそも戦いとは負けたら死、何度も生き返るこれは本来の闘争とはまた別と考えたほうがよさそうだ。
とりあえず、死ねるのなら鍛錬あるのみ。
我はベロラントのショートカットを右クリックして起動させた。
まずは体で覚える。
この遊戯は死ねるのだ、なら何度でも挑んでやろう。勇者のようにな!
Lose
があああああああ
勝てぬ勝てぬ勝てぬ!!
いや勝ったことはある。
しかし我は一人も倒せていない。
この遊戯が始まってから相手を倒せたことがない。
毎回最初に死んでは味方の姿を眺めるだけ。
一体我とこいつらにどれだけの差があるのというのだ。
あ、我気づく。
そもそもこの遊戯の勝利条件とはなんだ。
仲間がいることはわかる、敵も同数だろう。
我は
ベロラントのルールが分かってくる。
まず、五人対五人で戦い、どちらかを全滅させれば勝利。
または爆発物を設置しそれを爆破させれば勝利。
爆発物を設置された後それを解除すればそのチームが勝利となる。
それを何度も行い、勝利数の多い方の勝ちとなる。
ふむ、敵を殲滅させる以外にも勝利条件があるのだな。
銃は……、なに! 色々な種類の銃が買えるのか、性能も違うようだな。
この銃というやつは弓や魔法に比べて格段に速い速度で射出されているようだ。
我の目でも追えん。
そしてスキルという存在、これは魔法だな。
身体能力の向上などもあるが、我が分身はどうやら煙幕と風魔法、ナイフ投げが出来るようだ。
我の魔法が使えれば、一瞬で消し炭に出来るというのに。
それと操り方だ。
我が思ったようにこの分身は動かない。
これは慣れるしかない、体術もそうだった。
初めはまず己に出来ることを把握することだ。
よし、これらを意識してもう一度だ!
Lose
ぐあああああ、しかし! しかしだぞ!!
ついに敵を一体倒すことに成功した!
これは大きな前進だ。これを繰り返していけばすぐに上達するだろう。
我は満足してその日は床についた。
隙間風が入る、ええい段ボールとやらでは完全に防ぎきらんではないか。
はやく業者を呼ぶがいい、母上よ。
次の日、朝目が覚めると全身が痛い。
なんだこれは、筋肉が悲鳴を上げている。これは……これが筋肉痛というやつか。
人間が過剰な負荷を与えることで肉体にダメージ負い、そのせいで生じる痛みだ。
人間とはなんとか弱きことよ。
あの程度の散歩でこれだとは、先が思いやられる。
重たい体、実際重い。
その体をぎこちない動きをしながら下の階に降りる。
「あ、お兄ちゃんおはよう。昨日は配信してないし、朝も早いし、やっぱりどっかおかしくなっちゃった?」
「何を言うか、少し自分を鍛えようと思ってな。この醜い体ではお前たちも恥ずかしかろう。しばしまて、いずれ自慢できるような男になってみせるのでな」
「やっぱおかしいや」
我の言葉をそっけない返事で終わらせた良子は、朝ごはんを黙々と食べ始めた。
テーブルの上には我の食事はない。
「母上、我の御飯はないのか?」
「あら、あんたいつも朝いらないって言うから、ちょっと待ってて」
手持ち無沙汰になった我は席についてテレビとやらを付ける。
おお、この薄い板から本当になにやら映っている。
「昨晩発生した飲食店への強盗と思われる事件、現在も犯人の行方は分かっておらず、警察は引き続き調査を進めるとのことです」
ふむ、治安はこちらでも悪いのか。
どの世にも悪はいるものだな、まあ我には関係のないことだ。
ん? 関係ない……いやそうか。そうだな。
今の我に出来ることなどない。
この男に転生してしまった時点でそう思うしかあるまい。
何か違和感を感じたが、気のせいだろう。
「
「感謝する、母上」
「はいはい」
我の前に御飯が置かれる。
米とお味噌汁、それに卵焼きに鮭の塩焼き。
――! 米が甘い、米とはもっとぱさぱさとしていたもののはずだ、もちもちとしている。
卵焼きも甘い、これは砂糖か?なんと贅沢なことよ。
お味噌汁も、なにやら奥深い。鮭は、まあ普通だな。
しかし、この世界の料理は本当においしい。
「母上、これからは三食食べる故、我の分の用意もお願いする」
人間には栄養が必要だ。
規則正しい生活と、運動、栄養のある食事、これらが合わさればこやつの体も少しはマシになるだろう。
我は希望を見出し、御飯を食べ終わり、朝の散歩に向かう。
痛い、歩くたびにからだがづきづきと痛む。
以前の我であれば余裕で耐えれたであろう痛みが数倍にも膨れ上がったように感じる。
これは人間であるがゆえにしょうがないことであろう。
痛む体を無理矢理動かし、一時間の散歩を終える。
これが痛くなくなるまでどれくらいかかるのだろうか、先程感じた希望がすでに絶望に変わっている。
さあ、次はベロラントだ。
我は体を綺麗にしてからパソコンの電源を付ける。
今日も鍛錬あるのみ!
Lose
まあまあ、これはもう分かっていたことだ。
悔しくなどない、ないぞ!
それに敵を倒せる回数も増えてきた。
どうやら最初は同じ武器を使い続けていた故に、相手との連射力に差が出て負けていたようだ。
新たに強い銃を買うことで敵との性能差をなくすことに成功している。
それでも負けるし、武器が買えないこともある。
むむ、所持金が必要とな。
勝てば増えるし負ければあまり増えない。
難しいな。そこまで考えて遊戯を行うとは。
我はまずはこの分身の操作に慣れねばならんというのに。
これはいい、ひとまず置いておこう。
しかし、最近我がくると心無いことを言う者が増えたな。
今もだ。
[チャット]
こうすけ:あ、ヴァンピじゃん
しんじ:まじかよ、今日は負けだな
かおりーぬ:諦めずに四人で頑張りましょう
我をぞんさいに扱う輩が多い、我が弱いということは事実だ。
しかしこれから同じ敵を相手に戦おうとする仲間に投げかける言葉ではない。
これは道徳を教えねばならんな
ヴァンピ:人を傷つけるような物言いは感心せぬな。我らは戦友だろう
真なる平和のためには対話が必要であるからな。
しんじ:戦友w相変わらず逝っちゃってる
こうすけ:俺は割と好きw腕前は困るけど
ふむ、どうやら我の思いは通じていないようだな。
仕方あるまい。
我はこの世界で新参者、そのようなものの声に耳を傾けるものが多くいるとは考えづらい。
まあ目の前の敵を屠って見せれば、こやつらの目も覚めるだろう。
見ておけ、我が雄姿を、その
Victory
よし、よし、よし!
勝ったぞ!
我の順位は、下から三番目!
いつも一番下だったのだ、これはいける。
まだまだ充分な結果とは言えないが、一ヶ月あればどれほど強くなれるのか。
己の才覚に震えながら今日も鍛錬を続けていく。
さあこいまだ見に強者よ!
我が銃の糧にしてくれよう!!
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