第13話 三対一(配信あり)

 シルバーを眷属とした次の日、ジンシンを連れて街を出発した。

 後ろにはいつもデビアイちゃん。

 そしてこれからは少し離れたところにシルバー達がいることになる。


 仲間が増えたよ!

 やったね!


 やっぱ吸血鬼って言ったら眷属とか狼とかコテコテだけど必要じゃん?

 孤独を愛するなんて、孤独じゃなくて孤立してた俺からすればわかんないよ。


 孤独って辛いのよ、誰とも分かり合えない。

 ヴァンピは本当に孤独を愛してたのか?

 孤立していることを誤魔化していただけじゃないのか?

 もういない彼はこの問いに答えることは出来ない。


 少し感傷的になりながら馬車に揺られて王都を目指していく。


 街を出て最初の野営、いつものように準備をしていると何やら不穏な気配を感じた。

 誰だ?

 二日連続でエンカウントしちゃう?

 でももう心当たりがない、オークソルジャーを殺し切れてなかったか?

 全部殴って倒しただけだから、ちゃんと生死を確認してないんだよなあ。

 一応致命傷は与えてたつもりだけど。


 俺は少し身構えて近づいてくる気配を待つ。


 するとシルバー達がこちらに向かって走ってくる。

 何かから逃げいてる?

 今のシルバー達はヴァンピの力を与えられそこそこ力を得ている。


 完全とはいかないが、吸血も出来る。自己治癒力も高い。

 戦闘能力は言わずもがな。

 今なら縄張り争いで負けた狼にだって勝てるはずだ。


 俺はデビアイちゃんにシルバーが何から逃げているのか確認する。


「吸血鬼です~」


 まさかの同族!?


 俺が眷属にしたシルバーを狙うとは、他者の眷属は許しませんってか。

 そしてどんどんシルバー達との距離が縮まってくる。

 このまま鉢合わせはまずい。

 俺はジンシンに声を掛け、急いで逃げるように伝える。


「ジンシンよ、どうやらちと荷の重い相手のようだ。守りながらの戦いは難しい。ゆえに其方にはここから急いで離脱して欲しい。何、敵を倒したらすぐに追いつく」

「ヴァンピさん……分かりました。決して死なないでくださいね」

「無論だ」


 そういうとジンシンは馬車に乗り、その場から逃げるように駆け出していく。

 

 よーし、これで俺の吸血鬼の姿を見られる心配がなくなったぞ。

 俺はジンシンが離れるまで待とうとしたが、とうやらシルバー達が駆けつけるほうが早かったようだ。

 恐らくジンシンには後ろから戦闘音が聞こえているだろう。


 振り返られてはだめだ。

 俺は人間の姿のまま、相手の吸血鬼を迎え撃とうとしていた。




 シルバー達を追っているのは三体の吸血鬼だった。


 三体もの吸血鬼相手ではさすがに分が悪いのか、シルバー達は劣勢のようだ。

 銀色に輝く毛色には血が滲んでいる。

 よく見ると周りの狼達を庇うように戦っていえる。


「シルバー!大丈夫か」

「すまない、主。早速足を引っ張ってしまった。」


 しょうがないよ、この世界のエンカウント率が悪いんだよ。


「配信を開始します」


 デビアイちゃんからいつもの声じゃない声色でいつもの言葉が発せられる。

 いいよ、こいよ!

 今から俺が全て助けてやるよ!


 ひゅんと目の前に配信画面が現れる。

 今回は三体の吸血鬼を相手にする。楽勝かどうかはわからない。


 コメントを見る余裕もないかもしれない。

 それでも俺はいつも通り挨拶をしてから戦いに挑む。


「今日も我の姿を見に来たのか、暇な奴らよ、今から我が眷属を傷つけた同族を成敗して見せよう。よく見ておくといい」


[ヴァンは~]

[キター!!!!]

[これが噂のヴァンピですか]

[めっちゃかっこよくて草]

[初見です、すごい精巧ですね]


 ん? 何やらいつものコメント欄より人が多い。

 固定メンバーはいるが、コメントが多くて流れてしまう。


 視聴者は……千人!?

 どういうことだ??

 ええい、今はそんなこと言ってる余裕はない。

 コメントは後でな!

 

「お前がこの眷属の主か?」

「ていうか人間? いや、微かにだが同族の香りがする」

「なんで人間の格好してるんだ?」


 三人の吸血鬼は皆同じ格好をしている。


 ヴァンピとの違いと言えば、その服は真っ赤に染まっていて、仮面もしていない。

 当然だ、彼らは人間を捕食することを厭わない正真正銘人間の敵。

 顔を見られようが関係ない。見たやつは殺してしまえばいいだけなのだから。


 未だ近くて遠くにいるジンシンを気にしながら俺は言葉を放つ。


「我を同族? ……ククク、舐められたものだ。お前ら程度の存在と我が同格だと勘違いしているようだな」


 三人を前にいつもみたいに威圧してみる。

 あまり効いていないようだ。もしかして結構強い?


「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ、お前らやるぞ」


 俺は襲ってくる三人の吸血鬼からシルバー達を守るように剣をバックから取り出し迎え撃つ。


「お前ら程度、このくらいで充分ということだ」


 三人同時に襲い掛かってくるのを、剣の一振りで追い払う。


 どうだ!

 俺は強いだろ!!


「少しはやるみたいだな、お前ら本気で行くぞ」

「眷属を呼び出すぞ、いでよデビルバット!!」


 一人の吸血鬼が叫ぶと、大量の蝙蝠が、地面に出来た魔法陣なようなところから光りながら登場する。

 あまりの数の多さに俺は驚く。


 そして大量のデビルバットが俺達に襲い掛かってくる。

 まずい、俺一人ならいけるが、後ろには傷ついたシルバー達がいる。

 ていうか眷属召喚なんて出来るんだ。初めて知ったわ。

 今度使ってみよ。


 俺が危機感と余裕の間をさ迷っていると、後ろから光線が放たれる。


「ご主人様の敵は私の敵~」


 デビアイちゃんの目から光線が放たれたかと思うと、目の前に大挙していた蝙蝠達が一瞬で蒸発する。

 デビアイちゃんつえー。

 あの光線ってこんなに威力あるのかよ。

 以前食らったのは手加減してたのかよ。


「ご主人様~後はお願いします~」


 デビアイちゃんがふらふらとシルバー達のもとへ落ちる。

 相当な魔力を使ったのだろう。

 よくも、デビアイちゃんを!

 許さん!!

 初めから許すつもりなどないがな!


「ばかな……全滅……だと」

「だがこちらにはまだ二人いることを忘れてもらっては困るな」

「いでよ! ワーウルフ!」

「いでよ、グール!」


 前の吸血鬼と同じく、地面から光が出たかと思うと人狼と腐った人間がその姿を現す。


 きっしょ、そしてくっさ。ゾンビ呼んでどうするつもりだよ。

 そして二足歩行の狼。

 俺のシルバーの方がかっこいいもんね。

 勝った!


 俺は遠くに行き見えなくなったジンシンを確認すると、挑発するように三人の吸血鬼に答える。


「舐められたものだ、その程度の眷属で我らを打ち破ろうとは。我の真の姿を見せよう」


 俺は衣服に魔力を流し、いつもの格好漆黒のコートに目元を隠した仮面で登場する。


「我はヴァンピール・ド・ヴェルジー! すべての吸血鬼の敵であり、平和を守る真なる吸血鬼ぞ!」


 俺は叫ぶと同時に、相手のワーウルフとグールにそれぞれ魔法を放つ。

 人狼には風魔法をかまいたちのように放ち、その体を細切れにする。

 グールには炎魔法を放ち、消し炭にして見せた。


「お前が……ヴァンピ」

「同族殺しのヴァンピだ!」

「やべえ、逃げるぞ」


 三人達がその場から逃げようと空を飛び、逃げようとする。


「無駄だ!!」


 俺は自分を中心に、見えないバリアのような結界を展開する。

 逃がすわけないだろ?

 うちのシルバーとデビアイちゃんをこんな目に合わせといて。

 都合が悪くなったら逃げる?

 そんなの通用するのは学生までなんだよ!


「……この香り、お前達、半吸血鬼だな? 人間の身から吸血鬼へと堕ちた堕落者が!」


 半吸血鬼。

 人間から吸血鬼になり、未だ成り切れていないいないものを指す。

 その能力は人間を遥かに上回るものだが、その力は完全な吸血鬼からは一段落ちる。

 

 しかし三人の半吸血鬼なら吸血鬼を相手にしても勝てるだろう。

 並の吸血鬼ならばな。


「己が不幸を嘆くがいい、何、我は人間には寛大だ、例え吸血鬼に身を堕とそうとも」

「なら、見逃してくれるのか」

「ああ、苦しまずに殺してやろう」


 俺は未だ逃げようと結界を攻撃している半吸血鬼に近づき、手前のやつから心臓を一突きする。

 強い再生力を誇る吸血鬼だが、その心臓を完璧に破壊されれば半吸血鬼程度、再生できずに死に絶える。


「恐れることはない」

「うわあああああああああ」


 錯乱した相手が二人同時に襲ってくる。

 それを軽くいなして、両の手で相手の心臓を握る。


「終わりだ」


 鷲掴みにした心臓を握りつぶす。

 声もなく半吸血鬼は灰のようになり消えていった。


 あーよかった。

 俺ってやっぱ強いじゃん。

 三体相手にすることになったからどうしようかと思ったけど。

 半吸血鬼でよかった。


 一段落したので、配信画面でコメントを確認する。


[強すぎて草]

[真なるww吸血鬼w]

[え、これで終わり?]

[モフモフ逃げてきただけで終わりw]

[また違うゲームしてる]


 完全に知らないリスナー層になってる。

 視聴者数三千人超えてるし、今更バズってもしょうがないんだよ!

 俺が生きてるときにバズれ!

 今も生きてるけどさあ。


「配信を1分後に終了します」


 いつの間にか宙に上がっているデビアイちゃんから声が聞こえる。

 さて、それじゃあ締めの挨拶と行きますかね。


「悪は散った。因果応報、悪は必ず滅びる、我が手によってな!」


[ヴァンつ~]

[かっこよかったです!次の配信も楽しみにしてます]

[ハイクオリティすぎる]

[半吸血鬼の人権完全無視して草]


 いいんだよ!

 人間に仇名す敵はすべて滅ぼす!

 それがヴァンピだ!


「配信を停止しました」


 終わった。

 めっちゃ疲れた。

 肉体的な疲労はそんなにないけど、精神的にめっちゃ疲れた。

 あんな人数に見られたことないし、シルバー達を守らなくちゃいけないし、今回はたまたまうまくいったけど、これからもこんなことが起るなら戦力の拡大しないとなあ。


 でもそうそう眷属なんて出来ないし、どうしたものかね。

 まあなるようになるか。

 俺は最強の吸血鬼ヴァンピだぞ!!

 敗北などない!! ……ないよな?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る