第12話 眷属

「ご主人様~今日はどうする?」

「新人商人さん護衛の日だよ、集合場所へいこう」


 目覚めの一発目からデビアイちゃん。

 もう慣れたね。

 この程度、可愛いもんだぜ。

 ほんとカワイイデビアイちゃん。


 俺は廃れた宿の主人に見送られ、大きな門のある開けた場所に着く。

 予定ではここに新人の商人さんがくるって話だけど……。


「あの、貴方が今回護衛をして下さる冒険者さんですか?」


 俺が待っていると声を掛けられた。

 どうやらもう彼はいたらしい。

 彼の名はジンシン。

 商店の住み込みの仕事から始めて、清掃、接客、帳簿の管理など様々な仕事をこなして成り上がってきた商人さんだ。


 偉いね、そのうえ旅商人なんて危険なことまでしようっていうのがまたいい。

 今回は大船に乗ったつもりでいて欲しい。

 なんたって護衛につくのは、そう、このヴァンピだからだ!


「ダンショウさんから話は窺っています。これほど心強い護衛はありません。今回はよろしくお願いします。

「うむ、楽にせよ。今回は我が其方を守り切って見せよう」


 くぅ~かっこいい。

 俺がリアルで言ってたら憤死しそうなセリフ。

 次から次へとポンポン出ちゃう。

 俺はもうヴァンピの虜だよ虜。


 皆好意的だから嬉しい。

 でもヴァンピの記憶が垣間見えるとき、いつも独りだったりする。

 俺が人と接しすぎてるのかな?

 まあ別に害はないし大丈夫か。


 正体さえバレなければ。

 そうそうバレるもんじゃないさ、仮面だってかぶってるし。


 挨拶を済ませた俺達は早速近隣の街へと出かけることにした。

 今回は新人ということもあり、馬車を使って三日程度の場所にある街への行商となっている。

 馬車に積まれている荷物はお店に卸すものや住民に売るもの、比較的安価なものが揃っている。


 いきなり大きな仕事は任せられないよね。

 でも地道にコツコツやってればいいことあるよね。

 俺はなかったけど。

 努力が報われるなんて嘘だ。

 俺がどれだけ頑張っても視聴者数は増えなかった。


 仕方なくガチ恋勢を作る方針にしたら、なんか上手くいったけど、俺はもっと大人数にチヤホヤされたい!

 だからこの世界では俺は有名になる! 必ずだ!!


 俺達が王都を出てから三日、襲われることもなく順調に旅は進み、ついに目的の街に到着した。

 積み荷を降ろしてきますと、ジンシンに言われたので空いている時間をぶらぶらと時間を潰す。


 何かないかな。

 これといって目的もなくぶらついていると、子供達の声が聞こえた。


「お前汚いんだよ!」

「ばっちいな、こうしてやる!」


 む、いじめか?

 嫌な思い出は、ないわけじゃない。

 俺は関係ないし、されたことはないけど、学校のクラス内でいじめが起きたことはある。

 俺は自分が標的にならないかビクビクしながら過ごした。

 俺自身はぼっちなだけだったけど。

 いじめるのに理由なんていらないからな。


 悪は滅ぶべし。

 俺は正義の吸血鬼、ヴァンピだ!


「そこの子らよ、やめたまえ。弱者をいたぶるとは何事か」


 俺が姿を現すと、四人の少年に囲まれて、水をかけられたり泥だらけになっている少女が見えた。


「なんだよおっさん、関係ないだろ」

「おっさん? 我を見てそう言える胆力、素晴らしいと褒めてやろう。だが!!」


 俺はビリビリと空気が震えるほどの威圧を放つ。

 少年達には少々厳しすぎたのか、おもらしや気を失ってしまう子も出てきた。

 

 やべ、やりすぎた。

 なんか恨みつらみをぶつけたみたいになっちゃったな。

 まあ小さいころにいじめなんていうダメな行為を是正出来たと思えばいいか。


 俺は自分を無理やり肯定させた。

 俺は怯えている少女のもとに向かい、そっと水をかけ、風と火の魔法を使い、ドライヤーのように乾かしてあげる。


「これでもう大丈夫だろう、幼子よ、困ったときは我を呼ぶと良い」

「あなたは……?」

「我はヴァンピ、ただのヴァンピだ」


 俺はそういうと、またカッコつけながらその場を去る。

 今回は髪をふぁさぁ~って手を使ってなびかせていった。

 やっぱり恥ずかしいわこれ。



 

 いじめから少女を救った後、俺はジンシンがいる馬車に向かった。


「荷物はすべて卸し終えました。今日はもう遅いですし、一晩泊まってから出発しましょう」

「そうだな、さて宿に泊まるとしよう」


 俺達は街にある宿に泊まった。

 その夜、周りが寝静まったころ、辺りに気配があるのを感じる。

 侵入者か?


 俺はすっと起き上がると、窓を開けて外へ繰り出す。


「デビアイちゃん、分かる?」

「あれね~前の狼さんかも」


 あのモフモフ!


 ここまで追ってきたのか?

 しかし何の用で。


 俺は感じた気配の先に向かって駆け出す。

 街の外に出ると、小さな森の中から一体の狼が出てきた。


「おーお前か、久しぶりだな」

「ヒサシブリデス、キュウケウキ」

「で、なんかよう?」


 俺が狼に話を聞くと、どうやら同族間で縄張り争いがあったらしく、それで敗走してここまで来たらしい。

 前見た時より狼の数が減っており、少し悲しくなった。


「ドウカ、ワレラヲケンゾクトシテ、ムカエテクレ」

「あ~それか~」


 眷属。

 吸血鬼が好きそうなワードだね。

 契約を交わした物を自分の支配下に置く。

 部下のように使うようなものもいれば、奴隷のように働かせるやつもいる。


 流れの吸血鬼であるヴァンピはこれまで眷属を持っていなかった。

 デビアイちゃんは使い魔だから眷属ではない。

 眷属になることは支配を受け入れることではあるが、別に損ばかりではない。

 

 眷属になることで主となる吸血鬼の力の一部を得ることが出来る。

 要はパワーアップ出来るってことだ。

 もちろん、主従関係になるので反抗とかは出来ない。


 う~ん、どうしようか。

 別に俺はいいと思うんだけど、ヴァンピがこれまで持ってこなかった眷属を俺が持ってもいいものか。

 俺は悩んだ。

 でも、まあいっか。

 もう俺がヴァンピだし、心のヴァンピとの調和も取れてるし、問題ないだろ。


 俺は狼達と眷属の契約を交わすことにした。


「え~と、いてっ、さあこの血を飲んでくれ」


 眷属になるのは簡単だ。こちらが眷属になることを認めることだけ。

 そして血を交えることで眷属となれるのだ。

 

「イタダコウ」


 俺が自分の手から流れる血を一回り大きな狼が舐めとる。

 すると、少し光ったかと思うと、全身が銀色に変わった。

 綺麗だ。


 他の狼達にも血を飲ませたけど、そういった変化は見られなかった。

 でもみんな嬉しそうにぺろぺろしてた。


「主よ、誠に感謝する。これから我らはどうすればいい?」

「そうだね、俺が移動するときに付いてきてくれればいいよ、今はこの街にいるけど明日には発つ。王都に戻るからその道中護衛をしてくれ。後しばらく王都にいる間も近くで待機してくれると助かる」

「心得ました」


 流暢な言葉を話すようになった一回り大きい狼。

 一回り大きい狼って長いな、銀色に染まったしお前の名前はシルバーな。


 これから用があったら使うからそこんとこよろしく!


 そう言ってシルバー達を森へ帰した。


「ご主人様~仲間が増えましたね」

「……そうだな!」


 デビアイちゃんが本当に嬉しそうにしている。

 俺の心のヴァンピも心なしか嬉しそうだった。


 やっぱり寂しかったんだな。

 俺は心のヴァンピにそっと手をやった。

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