第11話 血の宿命(配信あり)

 王城に行こうと決めた次の日の晩、俺は颯爽と王城へと参上した。

 王城へ参上。

 クスッ。

 

 夜は吸血鬼の本分、闇に紛れ宙を飛び、王城の警備を掻い潜り城の頂上に登頂する。


 うーんいい景色。

 円形に周りを囲っている外壁がすべて見える。

 夜だから街の光はまばら、街灯がちらほらと星の様に付いている。

 しかし王都全域を見渡せるこの城は本当にでかい。

 東京ドーム五個ぐらいありそう。


 俺が夜の景色を楽しんでいると、何やら城からこっそり出ようとしている人間を見つける。

 曲者か!?

 王城へ侵入するとはなんてふてえ野郎だ。

 俺がとっちめてやる。


「配信を開始します」


 デビアイちゃんから無慈悲な警告が鳴る。

 ここで来るかー!?

 何のイベントでもないぞ!

 どうしてこのタイミングで!


 ああああああああああ

 考えても仕方ない、いつも通りだいつも通り。


 思考を乱されている俺の目の前に配信の画面が表示される。

 人数は百人程度か。


 いつも通り流れ出るコメント達。


[え、ヴァンピ復活!?]

[もう一ヶ月経ったんだ……]

[長かった、まじで]

[しんど、もうマジ無理]

[今日は何のゲーム?]


 ごめんなリスナー、俺が決めるんじゃないんだ。

 世界が決めてるんだ、多分。

 これが何のイベントだかわからないし、本当にイベントかすら怪しいけど。

 今日もじゃんじゃん投げ銭とアミゾンギフト送ってくれよな!


「今日も我の姿を見に来たのか、暇な奴らよ、今から城への侵入者を詰問する。よく見ておくといい」


[なりきりキター!]

[これありよりのあり]

[マジ尊い]

[画面が涙で見えない]

[戦略系のゲーム?]


 だろ?

 もう俺もこれがかっこいいんじゃないかって思えてきたよ。

 使い慣れるとこれがまたいい味出てるんだわ。

 何の出汁使ってる?

 

 まあいいや、とりあえずイベントを進行させますかね。


「そこの人間よ。止まり給え、いかなる用事があって城へと入っていたのかね?」

「貴方は‥…吸血鬼さん!?」


 ん?なんか顔見知りか?

 うーん記憶を探ってみても出てこないぞ。

 一方的に助けて顔も見てない子かな?


 そんな子がどうして王城に忍び込んでいたんだろう。

 不思議なこともあるもんだなあ。


[まさかのコラボ?]

[え、めっちゃ可愛いんですけど]

[これゲームじゃなくない?]


 ね、めっちゃ可愛いよね。

 コラボねー、俺には向いてないかったよ。

 何回か打診があったけど、コミュ障な俺には無理と判断して断ってたんだ。


「覚えていない? 私前に貴方に助けてもらったことがあるの」


 ごめんなさい、覚えてないです!

 こんな美人さんなら少しは覚えてると思うんだけどなあ。

 ヴァンピは美醜にうるさいくせにな。


「そう、何も言ってくれないのね。……私は王城の関係者よ、だから怪しいものじゃないわ」


[お姫様みたい]

[誰この女]


 いやほんと誰だよこの女性。


 そんな見つめないで!

 恥ずかしい。

 美人さんの迫力のある顔って綺麗だな~

 こう目力がすごい。


「その言葉、誠だな? 我に虚言を吐くとどうなっても知らぬからな、我はいつでも見ているぞ」


 まあ実際は見てないんですけどね。

 何かあったら探してとっ捕まえちゃうよ。

 本当に関係者っぽいし、見逃すか。


「配信を1分後に終了します」


 デビアイちゃんの配信終了のお知らせが鳴る。

 

[これ誰の城?]

[関係者ってどこの?]


 あれ?

 ……城への侵入者って俺じゃね?

 人に偉そうに言っておいて俺が悪いやつじゃん。

 何が王城に参上だよ。

 立派な不法侵入だよ!

 でも何かあったら助けには来るよ!

 だから今日は許してね。


「今宵の夜も深い、ここは去るとしよう。ではな」

「待って……」


 待てないよ。

 気付いてしまったらもう待てないよ。

 今日は矛盾した発言をして大変申し訳ありませんでした。

 反省して明日からの警備も頑張らせていただきます!


「配信を停止しました」


 目の前にあった配信画面が消える。


 今日も無事に配信を終えることが出来た。

 久しぶりの配信のおかげか感謝の投げ銭が届いてくる。


 俺は城の関係者だと言う女の子を置いて、王城から去る。

 結局誰だったんだろうな。

 まあいいか。





 俺が新人商人の護衛をする日までの間に、アミゾンギフトが届いていた。

 やった、主に食料系を登録してあったから食料が届いたぜ。

 携帯食のゼリー、カロリーメイツ、新鮮な水!


 家で、もそもそと食べるようなものだったから、豪華でもない。

 現代の食事と考えれば味変だと思えばいいか。


 この世界の食事は可もなく不可もなくと言ったところ。

 俺が貧相なものばかり食べているせいかもしれない。

 高級な食事はちゃんとおいしいのかもな。

 あ、あと普通に血がうまい。


 ゴブリンでもまずくはなかったし、動物の血はおいしく頂ける。

 人間の血はまだ吸ってないし、これからもその予定はない。

 人間を守る吸血鬼なのだ!



 血のことを考えていると頭の中にヴァンピの記憶が流れ込んでくる。

 人間の血を吸っていたこともあるようだ。





 ヴァンピが物心つく頃には親はいなく、それまでどうやって育ったのか分からない。

 気付いたら城の中で一人で居たみたいだ。

 小さいころから一人で暮らしていた。

 

 城はがらんどうで、近くの獣が住み着いているくらい廃れていた。

 そんな破棄された城で何年も過ごしていたヴァンピは、とうとう外の世界に出ようと決意し城の敷地外に出る。


 そこに流れの吸血鬼が現れた。

 流れの吸血鬼多いな、結構な数いるんじゃないか。


 彼はヴァンピに生きる術を教えてくれた。


 簡単な魔法から、身体の使い方、その操り方。

 生きていく上で必要になる常識。

 それらをすべて覚えるころには彼は一人前の吸血鬼になっていた。


 このころは普通に人間の血を吸っていたし、襲うこともしていた。

 しかし、彼は何か疑問に思っていたようだ。

 

 流れの吸血鬼は高潔な存在だった。

 しかし、何の疑問も持たず、人間の血を吸い、ときには襲う。

 人間を前にすると普段の彼とは全く違う様相になるのだ。


 おかしいのは彼か、自分か。

 その疑問を解決するために、ヴァンピは人間を襲うことをやめた。

 そうすると、しばらくしないうちに禁断症状が出た。

 人間の血が吸いたくてたまらなくなってきたのだ。


「これはなんだ!? 不愉快だ。我に指図するな!!」


 自分の意思と反した感情、症状にヴァンピは抗った。

 動物の血で喉を潤し、泥を啜り、地を這った。

 その抵抗の末、ヴァンピは人間の血から出る誘惑を断ち切ることが出来た。


 そして感じた。

 これは麻薬だ。

 吸血鬼に仕掛けられた甘美な罠。


 人間の血から逃れられなくするように設計された神の意思。

 そう判断したヴァンピは流れの吸血鬼を殺し、城からも去った。


 そして自分が流れの吸血鬼となって、同族が続けている人間への行いを否定するかのように、人間を助けるようになった。




 ……え、ヴァンピかっこよ。

 神に抗うとか。

 俺なら即堕ちちゃうね。

 麻薬?

 気持ちいいならいいじゃん。


 よかったよ心のヴァンピ。

 君のおかげで今の俺はいるんだ。

 これからもよろしくな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る