第10話 冒険者ギルド支店

 昨日の夜の人助けからしばらくして、朝がやってきた。

 俺は夜の内に、バレないようにこっそりと宿に戻って少し仮眠をして宿を出た。


 宿の主人のおっさんは相変わらず俺を気遣ってくれた。

 いい人だなあ。


 俺は記憶を頼りに冒険者ギルドを目指す。

 ギルド自体は王国の各地に点在しており、さらに王都の中でもいくつもの支店がある。

 今目指しているのは一番小さい支店と呼ばれるところだ。


 ギルドは国が運営しているのではなく、独立した組織として活動している。

 なので国の影響は受けないし、受け付けない。不可侵の条約を結んでいるようだ。

 俺は支店の前に着き、扉を開ける。

 中から歓声はこない。

 あれ? 人気者じゃない?


 困惑している俺に近寄ってくる男達がいる。


「よお幸運男ラッキーマン今回の任務も誰かに助けてもらったか?」

「お前はほんと運がいいよなあ、何かにつけて依頼達成してるもんなあ、どんな手を使ってるんだ?」


 あ、あれ?

 俺人気者じゃないの?


 ……知ってた。

 知ってたし! 別に悔しくないし。

 俺最強の吸血鬼だもん。

 俺の頭に記憶が流れ込んでくる。


 俺はこの支店でいつも依頼を達成する優秀な冒険者だ。

 しかしその実情は、すでに魔物は倒されていました、とかもう問題は解決されてました、とか、また俺やってないのに終わっちゃいました系冒険者なのだ。


 そりゃいい顔されねえわ。

 しかもこの姿の時、出来るだけ力を見せないようにしてるから実力を知っている人なんて数える程度だし、いちいち修正するのも面倒くさかったみたい。

 悪態をつく人間達を可愛いなと思って見ているようだ。

 

 全然かわいくねぇわ。

 頭にトサカ作ってるような輩だぞ。

 今どきモヒカンって。

 むしろモヒカンが存在していることに驚くわ。


「邪魔だ、任務の報告に来ただけだ。そこをどいてもらおう」


 絡んでくる男たちを押しのけ、受付にいる暗い女性に任務の報告をする。


「指定された村の魔物の退治、すでに拠点と思わしき場所は壊滅、付近には魔物がいないことを確認して帰還した。問題あるまい」

「……はい、承認します。今回もお疲れさまでした」

「うむ」


 これで文句ないだろ。

 依頼は達成、皆ハッピー。

 違った。ヴァンピだけアンハッピーだ。

 折角人助けをしているのに、そこに称賛はない。

 こんなことを続けてヴァンピは苦しくなかったのだろうか。


 

 苦しくなんてなかった。

 溢れ出るのは、また一つ手助けが出来たという高揚感だ。

 毎回そうだけど、人助けするの気持ちいい。

 初めはちょっと面倒くさいかなって思うんだけど、すぐ気持ちが切り替わるし、終わってみればすっきりしている。


 ヴァンピとして俺も順応してきたかな。


 この後どうしよう。

 いい依頼は……なさそうだ。

 そもそも依頼が少ない、雑用みたいなものがほとんどだし、たまにでる討伐系の依頼は俺がほとんど持ってくからな。

 じゃあさっき絡んできた男達って実は街をきれいにしているいい人!?

 嫉妬かな?

 何だかんだいって依頼をこなしてくる俺を妬んでいるのだろう。


 そういう感情向けられたの初めてかも。

 これは嬉しい。

 新鮮だし、なにより嫉妬されるってことは羨ましいってことだろ?

 俺が求めてたのはこういうのなんだよなあ。

 まさかここで承認欲求を満たしてくれるとは思わなかった。


 俺は絡んできた男たちを微笑ましい目で見ながら支店を後にした。

 いいんだよ、分かる人には分かってもらってるから。

 君たちのその羨望、改めて受け取っておくよ。


 暇になった俺はダンショウさんの商店にいくことにした。

 道行く人にダンショウさんの店について尋ねるとすぐ場所を教えてくれた。

 誰でも知ってる有名なお店なのかな?




 でっか、いやでっか!!

 目の前には十階建てになろうかというデパートくらいの大きさのお店があった。

 これ全部ダンショウさんの!?

 すっげー偉い人じゃない? これ。


 テナントで貸し出してもらってるとかじゃなくて、この店全体がダンショウさんの店っぽい。

 店名「ダンショウ」

 そのまんま。

 中はテナントがあるかもしれないけど、それでもこの人通りの多いところに建てられている建物の所有者という時点で相当なお金持ちだ。

 そりゃ気前よく俺に報酬を渡せるわけだ。


 俺は特に用事がなかったので、普通に店内に入って中をぶらつく。

 一階は食品売り場なのか、野菜とか果物、現実と似たようなものが揃っている。

 名前は微妙に違うけど、おおよそ同じようなものが流通している。

 試食があったので食べた。

 うまっ、でもお金は大事なので買わないでおいた。


 ダンショウさんから報酬をもらった時に改めて自分の所持金を見たんだけど、マジで少ない。宿屋に払ったら生活出来ないんじゃないレベルで少ない。

 確かに飲まず食わずでも大体問題ないし、寝るところも空き家とかでも問題ない。

 でも健康で文化的な最低限度の生活するにはちょっと心許ない。

 それがダンショウさんを助けたおかげでちょっとした小金持ちになっている。


 散財しちゃおうかな。

 いやだめだ。

 ここの通貨の相場がわかんない。

 一階は平民でも問題なさそうな値段してるけど、上の階はどうだか分からない。


 とりあえずかっこいい剣でも探そうかなと上の階に上がる。

 広いな~。

 色々な物が並べられており、内装はデパートのように区画が分かれてお店が並んでいる。

 あった。武器屋だ。

 へぇ~、この剣かっこいいな、値段は、まあまあスタンダード。

 普通の剣でいいか。


 服は、実はいらない。

 この服は特別製で、魔力によって自由自在に着替えることが出来るのだ。

 だから変身するときも気軽にキャストオフが出来る。


 もっと上の階に行ってみる。

 うわ~宝石とかネックレスとか高そうなものが並んでる。

 実際高い。

 手が出ない。

 そもそも着ける予定もない。

 冒険者が着飾ってどうするのって感じだし。

 ヴァンピって高潔なイメージあったけど、意外と質素でびっくりした。

 見た目は派手なんだけど、質実剛健を地で行く吸血鬼だ。

 

 まあ言動は全然地味じゃないけど。


 特に買いたいものも見当たらなかったのでダンショウさんに取り次いでもらえるよう近くの店員さんに頼む。


 しばらくすると真ん中の階に呼ばれたので、そこに出向く。

 扉を開けるとソファに座っていたダンショウさんが立ち上がり、座るように促してくる。

 俺はそのままソファに優雅に座って見せる。


「ようこそお越しくださいました。何か御用でも?」

「うむ、特に用と言ったものはなくてな、何、困りごとでもあれば力になれればなと思ってな」


 こんだけお金持ちだと色々大変そうだからね。

 お金も欲しいし、チヤホヤしてくれる人だし。


「そうですね、それでしたら近く、新人の商人が初めての旅に出る予定なのです。その護衛をお願いしてもよろしいですか? 謝礼はもちろん送らせていただきます」

「構わぬ、ちょうど暇を持て余していたところだ」


 初めてのことって大変だもんね。

 俺も初配信は緊張したな~。

 人数も十人くらいしかいなかったけど、人に見られるのってすごく楽しいけど緊張もする。

 ヴァンピは世を忍んでるけど、俺は目立ちたいの!

 心のヴァンピに引っ張られないように頑張るぞ!


 ダンショウさんと約束の日と場所を教えてもらって店を後にした。


「ご主人様~今日は嬉しそうだね」

「まあね」


 デビアイちゃんはホント俺のことよく見てる。

 一つ目なのに。

 一つ目だからか?

 どっちでもいいや。


 俺は約束の日まで、夜な夜な悪を狩っていた。

 やれやれ、王都には悪が多すぎる。

 治安悪すぎだろ、仮にも王都だろ王都!


 王様がいるんだからもっとしっかりしてくれ。

 というか王城か……。

 興味あるな、明日の夜の予定は王城に旅行!

 そうしよう!!

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